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【小説】Interviews ( After C-2024 ) .3
胸の内 )
2024-9
今回の取材は『今の日本が持つ“可能性”とは』をテーマにした企画のためのもので、取り上げられる予定の人物はスポーツ選手や若手政治家、ミュージシャン、起業家、研究者など様々だ。
ただ、私個人は取材を通じて「今はこんな目標に向かって頑張っています」という、“いかにも”な前向きさは望むところではなかった。
そんなものは他の誰かがやればいい。
かつてこの国にありふれていた『誰かのための本音の言葉』は必要無いのだ、今は。
私は、人間の心や習慣、価値観の変化について触れてみたい、と思っている。
特にそれは4年前のCウイルス(当時の名称はCOVID-19)の発生と、その後の超大陸規模の爆発的感染。
あの当時、世界中の人々が見舞われた数々の不幸、次々に生まれた不満や憎悪。
そして僅かに見えた“光明“がきっかけになり、日本人の生きることの捉え方は大きく変わった、と私は思っている。
だからこそ彼のように客観的で、若くして(本当に若くして)その思いを言葉に変換することができる人物の考えも聞いてみたいと思った。
今日の僅かな時間で、どこまで触れることができるのか、引き出すことができるのかはわからない。失敗に終わる可能性も十分ある。
しかし彼の態度や言葉、考えを文字にし、映像として残すことで、
その洞察や経験の破片と呼べるようなものを、わずかでも誰かの脳や意識の末端に、もしできることなら人格の最も深いところに刻みたい。
時限式の爆弾のような言葉を残したい。
特に彼と同じような若者たちの中に。
その爆弾で吹き飛ぶのは何だろうか?
と考えたところで、自分が少し変わった場所にいることを思い出した。
薄い氷のように頼りない月が、頭の上の空に貼り付いているのが見える。
普段より、幾分空に近い場所の空気を充分に吸い込んで、私は質問を始めることにした。