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【小説】Interviews ( After C-2024 ) .5


心の模様と繋がりについて)

2024.9

柔らかで、たどたどしく、頼りない言い回しだが、彼がゆっくりと彼なりの言葉で話すのを聞いていると、ふと彼の持っている心の中の景色が見えた気がした。

彼らはあの時、あまりにも無力で頼りない大人たちを目の当たりにし過ぎたのだ。

自分たちの世界に“万能のスーパーヒーローがいない”という現実と、「今まで通り」や「当たり前」にモノを選ぶこと、もっと言えば生きることの危うさを、心と肌で感じた。
彼ら自身が言葉にできないまでも、きっと感じ取ったのだ。

たかだか10歳の子供の口から、当時感じた危機感を聞くという体験は、私にはとてもショックが大きかった。
ただの感想ではない。
当時感じた自身の心の模様を、振り返りながら言葉にしていた。


大人はよく、自身の子供時代と今目の前にいる子供を比較して、「現代っ子」や「最近の子供」という表現を使う。
歳を重ねるほどにその言葉は、自身の過去を装飾するために使うようになる。
飾りつけなければ人に見せられない、とどこかで自覚しているからだろう。

同じ“子供”であっても、私たちのそれと彼らは、類似はするが、比較ができない気がする。

私たちは別の生き物になったのかもしれないとすら思う。

Cウイルスが蔓延した当時、『ニューノーマル』という(なんの面白みもセンスもない)言葉が一時メディアで取りざたされたが、とても薄っぺらで本質から遠い言葉だ。


少なくとも“あの時”を生き、感じた彼らは、新しいのではなく、別なのだ


「オンラインだけでの勉強は実際やってみてどうなんだろう?通学して友達と顔を合わせない分、コミュニケーションの量が少ないのが問題だ、とかよく言われているけど。」

「いや、特に不便とかはないです。寂しいとかもないです。だって家族がいるし、友達だって学校以外にもたくさんいるし。全部の友達がオンラインでしか会わないなんてことないです。一緒に出掛けたり、この屋上で話したりもしますよ。」

友達を数名屋上に呼んで、同時にオンラインでも星に詳しい友達を繋ぎ、天体観測も時々するらしい。

「でもSNSは使わないですね。趣味のチームアプリは登録してますけど、それだけですね。
周りでもほとんどいないです。インスタグラムのアカウントを持っているおじさんの先生がいるって話は聞いたことありますけど。」

かつてインスタグラムやfacebook、Twitterなどのアカウントを複数持ち、電車等での移動中も、自宅でも、なんなら仕事中も使っていた自分としては、10歳の彼の言葉に耳の奥がジンワリと痛んだ。

「話したい人はほとんど目の前にいるのに、スマホ使わないと話せもしないって、なんかダサいですよね。」


SNSの利用者は毎年減少しており、これは日本だけではなく世界共通の傾向である。特にヨーロッパでは利用者が激減している。

情報の交換、価値の共有、つながり(日本では“絆”と言われる)の創出、相互承認のツールとして生活に浸透していたSNSは、“失望”によりその価値を大きく毀損した。
きっかけはCウイルスだった。

文字通り星の数ほどのフェイクニュースが当時生まれ、それによる買い占め、暴動だけでなく差別や傷害・殺人の事件が日本でも起きた。

また医療従事者や小売店、運送業スタッフを励ます動画やコンテンツも数多く作られたが、2021年夏に発表された論文に、人々は驚愕することになる。

SNSを通じて行われた励ましや感謝の意思表示を“見る、聞く、拡散する”ことそれ自体が、実は人々の潜在的なストレスを増やしていたこと、さらに冷静な判断力を失わせ、合理的・倫理的な判断を自ら遠ざける精神状態にしてしまっていたことが、北欧の教育心理学者の研究により判明した。

SNSは何も生まず、何も救わず、錯覚を本物と思わせるものだったと多くの人が気づいた。
何処の誰とも知らない人たちから届く意思表示より、目の前の家族や友人との時間を大切にするようになっていった。


私は今思えば、“それ”こそがSNSの本質だったのではと思う。
昔FB社CEOの創業ストーリーを描いた映画を観たことがある。話の中で、彼は酔った勢いで彼女を含め女子学生を小馬鹿にしただけだった。友達が増やしたいだけだった。最後はその仕組みを大切にしただけだった。

そう、それだけだったのだ。


SNSはドラッグのような中毒性と潜在的ストレスをユーザーの心に刻み、今では座礁した船のように、その大枠の形を残したまま朽ち始めている。

私たちはその船を時々眺める程度だ。
虚しさに捧げる時間がないことを、大人も子供も学んだ。

(現在FB社、TW社は過去のユーザーの動向、嗜好に関するデータを再構築し、webメディアの制作、サービス開発コンサル事業等を拡大している。同時に、最終ログインから一定期間経ったアカウントは自動的に凍結され、個人の投稿や画像のデータは閲覧不可となった。)


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