#202 どうして、今、ここで歌うの!?!?!?・・・ニューヨーク1人旅 2018年11月20日(火)20日目・・・2
(#201からの続き)
地下鉄を乗り間違えて、Hidemiさんとの待ち合わせ約束時間を、大幅に遅刻してしまうことがわかり、早く早くと焦りながら、気持ちは猛ダッシュしながら乗っていた。
どこの駅だったかわからないが、1人の男性が乗ってきた。
20代くらいの、がっちりした体格のいいお兄さんで、見た目は優しそうな好青年だった。
お兄さんは、車内は不気味なほどガラガラなのに、よりによって、私のお向かいに座った。
〝はぁ~? 何でそこに座る? 車両の真ん中ガラッガラじゃん。あっち行ってよ~〟と遅刻決定に焦りながら思っていると、電車が動き出したと同時に、大きな声で歌を歌い出した。
ひょえぇぇ~、どうして私の真ん前で歌う? しかも大音量というか、かなりの声量。その歌声は車内中に響き渡っている。そしてよく聞いてみると、上手い。もちろん英語なので歌詞の意味は分からないが、スローテンポのロッカバラードっぽい歌を、座ったまま両肘を両足の膝少し上に乗せ、その手を組みながら、歌っている。しかも私の真正面で。
いやぁ~困った。まず目のやりどころがない。別に聞きたくて聞いてるわけではなく、あまりジロジロ見ても変だし、うっかり目を合わせて高額チップを要求されても困るし、何より私は今、間違えて反対方向の電車に乗ってしまい、約束の待ち合わせ時間に大遅刻決定で、焦って焦って焦りまくって乗っているのだ。優雅に歌を聞いていられるほど、冷静な精神状態ではないのだよ。
困りながら焦ってどこを向いていいかもわからないので、固まったまま足の上に両手の握りこぶしをそろえて置き、自分の両手のグーをじっと見る。
やっとお兄さんの歌が終わる頃、次の駅に到着した。すると、扉を挟んだ先の席に座っていた男性が、お兄さんに何か話しかけた。
どうやら素晴らしかったというような内容だと思う。お兄さんは照れたように可愛らしくはにかみながら、小さく頭を下げた。
すると、隣の車両に乗っていた女性が下車し、ホームから車内のお兄さんに向かって、窓越しに何か言葉をかけて去って行った。やはり素晴らしかったというような内容だと思う。きっと隣の車両の乗客たちも、聞き入っていたのだろう。
私はと言えば、相変わらず硬直した身体に困りながら、そして焦りながらドギマギしていた。
発車間際になって、お兄さんは車外へ降りて行った。ホッとした。それまでの緊張がほぐれて体の芯がふにゃふにゃした。同時になんていい街なのだろうと感動した。こんな日常は日本では出逢えない。殺伐とした車内では、しょっちゅう言い争いや肘のこづきあい、ガン飛ばしがあって悲しくなる。
再び電車が動き出し、今度は隣の車両から、再びお兄さんの歌声が響いてきた。やはり上手だ。お兄さんの歌声を、隣の車両から聞きながら、チップをあげるまではしなくても、せめて拍手の1つでもしてあげればよかった。
優しそうで、悪人とはかけ離れた雰囲気だったし。
Manhattanの中心で、ポールダンスやヒップホップダンス、楽器の演奏をする人たちと同じようにパフォーマンスをしていただけだ。ただ、場所、車内の乗客の数、私のその時の精神状態がアンバランスすぎて、私がそれに順応できなかったのだ。言葉は通じなくても、上手だったよのアプローチはできたはず。ちっせーな、自分。
自分の度量の小ささに、遅刻決定に焦りながら自己嫌悪に陥った。
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