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Photo by
shinsukesugie
底なしアルコール
だれかもぐって拾ってくれませんか?
◆ ◆ ◆
金曜日、ベトナム北部のゲアン省というところに出張をした。初めての出張で、初めてのお客さんとあいさつをした。
その夜、お客さんと二人で飲んだ。50代前半の日本人男性で、とても柔和な笑みを浮かべる素敵な方だった。こちら側に寄り添うように話を展開してくれて、生き方についてをこんこんと話してくれた。
僕は相づちを打ち、自分の体験談や思いも伝えて、相手のことばを深く理解しようと心がけた。相手はお酒に強いらしく、ビールを早いピッチで飲んでいくので、それに自然と合わせようとして僕もすばやくジョッキをかたむける。
次の日、僕は昨日どんな話をしたのかよく覚えていなかった。
◆ ◆ ◆
大学生時代、ひとりの恩師がいた。彼の講義をたまたま受講したことが縁で仲よくなり、よく僕の友人もふくめて飲みにいった。
彼は50代男性で柔和な笑みをよく浮かべる方で、学生たちに寄り添って話をしてくれた。そして、お酒が強かった。
恩師と飲んだ次の日、どんなことを話したのかをあんまり覚えていなかった。すべては、多量のアルコールの底に沈んでいった。
◆ ◆ ◆
僕がお酒をたくさん飲むときは、静かに心から楽しんでいるときだ。
心から楽しめるとき、そこで大事な話が繰り広げられていることが多い。
ゆえに、大事な話を覚えられない。
今も昔も反省しているのだが、この悪癖が治る見込みは今のところない。
「でも楽しかったのは覚えているからいいか」と最後は僕の楽観が僕の肩を持つから、治せないのだろう。