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サンタからサンタへのメッセージ

 サンタの艱難辛苦を味わってみた。

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 会社のクリスマスパーティー兼忘年会があるということで、なにかインパクトがあることをしようと考えた結果、サンタのコスプレをすることにした。
 当日の昼、ごはんを食べた帰りに歩いてデパートを散策したがコスプレ衣装が売られていない。1時間近くだらだらと歩き続けたが見つからずに、家に帰った。
 パーティースタートの2時間前、だしぬけに再度奮起して、少し離れた観光客通りへと走り、探索をする。見つかった。帽子、ひげ、上下の衣装。合計約2,500円。まぎれもなく無駄づかいだった。
 帰宅したあと、さっそく着替える。姿見のなかにいる自分はまぎれもなくサンタだった。アプリでバイクを呼んで、サンタクロースは乗車した。
 バイクが疾駆する。僕の長いひげがベトナムの風になびき、となりにならんだバイクの後部座席に乗った子供の「サンタクロースだ」という声をなでた。

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 結論、日本人にもベトナム人にもまあまあ笑ってもらえた。まあまあで上出来だった。なぜなら、このパーティーに参加した社員の子どもたちに気に入ってもらえれば、僕の第一目標は達成できるのだ。
 子どもたちはみな僕を見てくる。同じテーブルに座っている同僚の子どもは「サンタじゃない」と言いながら僕をにらんでくるが、そのとなりの同僚の子どもは、僕をサンタと信じきって話しかけてくれる。聞き取れないベトナム語には口を鳴らして応えると笑ってくれた。
 僕のベトナム上司と5歳ほどに見えるそのご令嬢も同じテーブルに座っていた。
 しばらくするとパーティーの進行役が僕に近づいてきた。このあと、子どもたちにプレゼントを配る時間があるから、そのときに配ってほしいということだった。ふたつ返事で了承した。
 これからおそろしいことが起きるとは思いもしなかった。

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 時代はさかのぼる。高校2年生の春、3年生の卒業式予行の日に、午後、友達ふたりとともに仮病で早退をした。河川敷で友達2人と僕とでキャッチボールをしたあと、公園に行った。
 しばらく3人で公園で話していると、下校時間となった近所の小学校から小学生低学年の大群が公園に流れ込んだ。全員は鬼ごっこを始めて、どういうわけかいつのまにか僕たち3人も参加していた。しかし、鬼ごっこはだんだんとルールを変化させていき、最後には「高校生3人に暴力を加えて楽しんだ者が勝ち」となり、僕たちは地獄のど真ん中でひざを折っていた。
 小学生低学年の大群が笑いながらつかむ、殴る、蹴ると僕たちを襲ってくる。この恐怖は、僕のトラウマになった。
 さて、話はパーティーにもどる。ステージには小さな子供たちがあがっていた。僕も袋いっぱいのプレゼントをかかえて会場のステージにのぼり、司会者が「サンタからのプレゼントです」と告げる。
 泣きそうだった。純朴な子どもたちが目を輝かせながら僕を囲み、袋をひっつかんで中身に手を突っ込んでいく。ぐいぐいと引っ張られながらなすがままにプレゼントを強奪されていく。これは、配っていない。
 トラウマがよみがえった。暴徒と化した子どもたちがこの世で一番こわいのだと、しみじみ思い知った。

◆ ◆ ◆
 プレゼントは水筒であった。席にもどった僕のもとへ、「水を入れたよ」と言いながらその水筒を僕のもとに持ってくる少女。僕はもったいぶってなかをのぞき、「入っていない!」とわざと大きな声で言う。少女はきゃっきゃっと喜びながら駆けていく。これを延々とくり返す。
 疲れていた。なんだかよくわからない遊びに巻き込まれていた。しかし、断ることはできなかった。なぜなら、その少女は上司のご令嬢であり、テーブルの目の前には上司が座っていらっしゃるからだ。
 ここで邪険にしたらクビを切られるのだろうと直感し、僕はご令嬢の気がすむままつき合った。

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 親愛なるサンタさんへ。あなたは偉大だ。
 僕にはぜったいにこんな仕事をこなせない。

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