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マイクロメータの日々 7
ニートもこごえる12月に突入。
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ニートはお金がほしかったため、タイミーに登録してみた。僕が住んでいる実家の市町村にはバイトの募集がなにも出ていなかった。なにかないのかと目を皿にして探したが、皆無なのである。
畑しかない土地は、世間から見放される運命なのかと悲しくなった。でも、過去、同県でよりひなびた場所に住んでいたことがあるが、そこは短期バイトの募集が何件が出ていた。
見くびった相手に急所を突かれたとき、ひとはいっとき呼吸ができなくなるのだと知った。
そういえば、先日、ものはためしとUberを検索してみたら、配達依頼ができるレストランが1件もなかった。
だれも自身に寄り添う者がいないと気がついたときに心を震えさせる冷気を「孤独感」と呼ぶ。
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見放された土地に鎮座する1軒のスナックがある。さながら荒廃の地の救世主然として夜間も店先にあかりをともしている。
店の名は「ジュゴン」。海からほど遠い寂寞の奥地に迷い込んだ海洋生物。
ジュゴンは畑をのぞむ小屋のような建物に看板を立てている。同じ建物のとなりの店はコインランドリーだ。
冒頭で夜間も店先にあかりをともしていると書いたが、光っているもののいつ見ても基本的には堅いシャッターで戸を閉ざしている。ときおり夜9時にシャッターが空いていることもあるが、不定期だ。
怠惰な海洋生物である。その内側にいるスナックのママは、はたしてジュゴンのような巨体なのだろうか。真実はシャッターに呑まれたままだ。
◆◆◆
これ以上のジュゴンの体型に近づきたくないと願う僕は、毎日、午後に1時間ほどかけて田舎道を歩く。
田んぼにはさまれた見晴らしのいい舗装道路。ただし非常にせまいため、車が通るものなら路傍の草むらに立たなければいけない。
田んぼに植えられた無数の稲穂は太陽のもとでほんのり光る。すすきの穂も照らされると光るのだと気がついた。林の緑色は日に日にあせていき、黄色や朱色に染まっていく。
季節は目に見える。
夜になると、オリオン座が濃く浮かんでいる。
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さんぽをすると自然がよく見える。アプリを開くと田舎がよくわかる。
うん、早く転職活動を終えて引っ越しをしたいものだ。