楽しいおじさんデー
日本にはなかったんだもん。
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ベトナムには女性の日が年に2回ある。3月8日の「国際婦人デー」と10月20日の「ベトナム女性の日」である。
この日は、男性が女性に花を贈ったり、食事をごちそうしたりする。弊社もご多分にもれず、男性社員が女性社員たちにお昼ご飯をごちそうする小さなパーティーが開かれた。
僕は、そもそも「国際婦人デー」の存在を知らずに、お客さんとのアポイントを入れており、パーティーには参加できなかった。参加できなかったが、お金はしっかりとられた。
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訪問先のお客さんに「今日は女性社員になにかするのですか」と訊ねると、「なにもやらない」という回答があった。「僕はそもそも存在を知らなかったんですよね」と答えてから、ふたりで女性の日を考える。相手は50代のおじさんだ。
ベトナムには女性の日が2日あるし、バレンタインデーも男性から女性にプレゼントを渡す日である。そういえば、日本には女性の日はないが、レディースデイという名で、映画が安くなる日があったり、女性専用の食事のメニューがあったり。
ふたりで話して、なにも結論らしい話の終着点はなく、ただなんとなくだべって終わった。下手な結論を出してはいけない話題だとは思った。
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お客さん訪問が終わったお昼、運転手のおじさんとローカルの食堂に入り、ふたりでごはんを食べる。
パーティー側の写真が、グループチャットに送られてくる。楽しそうだ。
まあ、ふたりだけだろうとおいしいごはんの味は変わらないと、僕は運転手のおっちゃんとともに白米をかき込む。
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事務所に帰ってくると、同じチームの女性に「女性の日はなるべくパーティーに参加しないと楽しくないよ」と厳しく言われた。「日本にはそういう文化がないから、そもそも国際婦人デーの存在を知らなかったんだ」と答えると「国際なんだから日本にもあるだろ」と怒られた。
そのあと、なんとか信じてもらえたが、たしかに国際というわりには、日本にはまったく浸透していないなと考える。
バレンタインデーもホワイトデーも企業努力によりお菓子を渡す日として浸透させたのだから、なにかを渡す日として国際婦人デーも日本に広めようとする企業があってもいいだろうに。
まあ、そこを考えるのは僕のすることじゃない。僕がしなければいけないことは、ベトナムにいるうちは、年2回の慣れない特別な日を頭に叩きこむことだけだ。