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笑うオコゼ

 深夜に心が揺さぶられる。

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 土曜日の夜、洋画「エアフォースワン」を観たら映画欲が高まってしまい、前々から興味があった「ジョゼと虎と魚たち」を連続で観てしまった。深夜である。アマプラで無料配信はなかったので、レンタルをした。
 車いす生活をしている女性「ジョゼ」が、夢を目指しながらバイト三昧の「管理人」に出会ってから物語が始まる。
 非常にすばらしかったので、みんなにオススメしたい。

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 2000年代後半の中学生時代、釘宮理恵が声優を務めるツンデレキャラクターが好きだった。釘宮ボイスもさることながら、針のようにとがったことばや表情の、合間にはさまれる純粋な感情の発露に、テンションがよくあがったものだ。
 格好つけるために「あがったものだ」などと過去形のように書いたが、それは29歳になった今でも変わらない。二次元でそのような性格の描写に触れると、いまだに中学生の僕が心のなかで踊ってしまう。
 登場人物のジョゼを見るたびに、中学生の僕が熱い血潮とともに激しく踊っていた。キャラクターが好みど真ん中であった。

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 物語において深い海底にもぐるような絶望をえがくことができる人間を、僕は尊敬している。冗長にえがいたり、登場人物がひとりでに沈むばかりであれば、視聴している側は海底には深く沈めない。この技量はやさしいものではないはずだ。
 しかし、「ジョゼと虎と魚たち」は、端的な動きで、登場人物が僕の胸もとをぐっとつかんで深い穴に沈んでいく。しかも同時に何人も沈む。息ができなくなる。殺す気か。
 物語の最後には、ちゃんと視聴者が海面から顔を出せるのかという点はネタバレになるから、言えない。
 ただ、ゆいいついえることは、僕はきっと明日もこの映画を見るだろう。

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 タイトルの漢字をつなげると「虎魚(オコゼ)」になる。針に毒を持つ魚である。
 僕はしばらく、このしびれを引きずりそうだ。

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