Diet or Alive (Part.9)

(前回のお話から20年が経過しました)

雪乃は困惑していた。

ダイエット戦士ゲロッピーナの活躍で
陰謀は暴かれ、忌まわしいダイエット規制法が廃止されてから
早や20年。
人々は思うさま減量を謳歌し、リバウンドをも愛しんだ。
雪乃も戦いに明け暮れた日々は遠い過去のものとなり
今では13歳と8歳の二人の子の母となった。
二人とも娘だったが、すくすくと健やかに育っている。
・・・と、昨日までは思っていた。

上の娘の様子がおかしいことに気が付いたのだ。
いや、おかしいと言うほどでもないのかもしれない。
気のするほどの事ではないのかもしれない。
ただ、いつも大好きで必ずおかわりをしていた
雪乃特製レシピのカレーライスを
夕食の時、半分しか食べなかったのだ。
最初は具合が悪いのかと思った。
「るま、どうしたのカレー残したりして。晩ご飯までに何か食べた?」
「う、ううん。そういうワケじゃないんだけど、なんとなく食欲がなくて・・・ごめん、残りは明日食べる。ごちそうさま。」
「食欲がないって・・・あ、ちょっと待ちなさい!」
長女のるまは雪乃の問いを振りきるように自室に戻った。
「いつもカレーの時はあんなに食べるのに・・・学校で何かあったのかしら。」
「お姉ちゃん、ダイエットするんだよ、きっと。」
「ダイエット?!」
次女のりまがぽつりと呟いたのを、雪乃は聞き逃さなかった。
「お姉ちゃんがダイエットしてるって本当?」
「うん・・・さっきダイエットの本読んでるの見ちゃったもん。」
「あの子がダイエットを・・・。」

雪乃は困惑していた。

自分は戦いの果てにダイエットの自由を勝ち取った。
ダイエットは人類が獲得した第三の本能だとまで思っていた。
だが・・・可愛い娘が食べるものも食べないと知ったとき、
最初に感じたのは不快感だった。
(あなたぐらいの年齢でダイエットなんて必要ないじゃない・・・)
そんな考えが浮かんだ後、ハッとする。
わたしが戦ってきたのは、誰もがダイエットする自由を獲得するためだった・・・そして今ではダイエットしても誰も罰する者はいない。
そのわたしが、ダイエットしようとしている娘に何とか止めさせようと説得する言葉を探している。
わたしは・・・。

その瞬間、急に吐き気を催した。
おのれの偽善性に反吐が出る・・・というのではない。
『羅臼』が反応しているのだ。
最後の戦いに勝利して以来
一度も作動しなかった体内の超兵器が作動しようとしている。
それは、何を意味しているのか。
雪乃は必死にツバを飲み込みながら耐えた。
何故だか恐ろしかった。

(つづく)

2006年06月20日

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