シークレット・ラブ
私がロンドンに来て最初に入居したフラットにはガウリーという女子とツシャールという男子のインド人カップルがいた。大学院生で、学校で出会ったという二人。でも彼らは、その時点で残り3週間でイギリスを出て国に帰らなければいけない運命だった。
インドでは、結婚に関しては、保守的、伝統を重んじるタイプの親世代がまだまだ多く恋愛結婚は難しいらしい。ガウリーとツシャールも、まずカーストが違うから結婚は許してもらえないだろうという。カーストがどのくらい大切なのか、感覚は分からないが、インドではとても重要らしい。
「私たちの世代はもっと自分の人生を大切にして、伝統とかは気にしない人も多いけど、やっぱり親世代はまだそういう考えじゃないんだよ。」
とガウリーは言った。
インドでは、簡単にデートだってできない。男女が一緒に歩いているだけでも、周りの人に見られ、親族に見られようものならばすぐ親に連絡が行くらしい。だから、今同棲しているのも、実は親に内緒。親には、お互いはただの友達で同じフラットの別部屋に住んでいる人、程度にしか説明していない。でも実際は同じ部屋でラブラブで住んでいる。秘密の恋、最高。
こんな話を聞いていると、「ああ、そしたらこのカップルは、インドに帰ったら離ればなれで一緒になる方法はないのか、望みは薄いのか。」となんだか悲しい気持ちになる。インドなんて広い国でお互い実家に帰ったら、きっと頻繁に会えなくなるに違いない。今は明るく話しているけど、きっと離ればなれになるのは辛かろう、と思って聞いてみる。
「二人の実家はどのくらい離れているの?」
すると、ガウリーは答えた。
「それがね、歩いて15分なの!」
一同、” What????"
なんと二人は、はるばるイギリスまで来て、徒歩15分の場所に住む人と出会ったというのだ。ガウリーの家の近くのレストランに、ツシャールは何回も行っている(もちろんガウリーも行ったことがある)し、実は共通の友達もいたらしい。そのくらい近所。日本なら同じ小学校に通っていたレベルの距離感なんじゃ?
出会い方も斬新。ツシャールとガウリーは同じ大学の学部に所属していた。ある日、ツシャールは退屈していた。その時なんとなく学部のインスタのグループで、目に入ったガウリーに”Hi"とメッセージをした、というのがきっかけ。これだけ聞くと、プロフがかわいかったからじゃないの~?なんて思うけど、いつもはそんなことしないし、かわいかったからとかではなく、なぜかメッセージしてしまったらしい。そしたら、同じく退屈していたガウリーが返事をして、話し始め、実際に学校で会い、なんと出会って2週間で交際に発展!すばらしい、出会うべきして出会った二人。
さらにドラマチックなのが、ホロスコープ(占星術)での二人の相性も抜群ということ。結婚するには、ホロスコープも重視されてている。お互いの名前、生年月日と時間、場所などを占ってもらい相性を見るらしい。いくら親同士が決めた結婚でも、最終的にホロスコープでマッチしなければ破談になることもあるそう。ガウリーは今年2月に帰国した際に、彼との相性をホロスコープで占ってもらった。結果は、見事マッチ!もうなんなの、貴方たち運命じゃん。ガウリーは、「ホロスコープは占いじゃなくて、もっとサイエンティフィックな統計とかに基づいているから、私は信じていて重視しているの。」と言う。
人口14億人のインドで生まれ、徒歩15分圏内で生まれ育って、はるばるイギリスに来てから出会って、ホロスコープもマッチしているならもう一緒になってくれよ、ていうかさせてくれよご両親 please。きっとイギリスで出会わなかったら、恋もできなかった二人。インドでは、外でデートも許されない二人。イギリスだから、自由に恋愛できたなんて、運命的で素晴らしすぎる。
フラットメイトの香港人女子ジェリーは映画専攻の大学院生で、この話を聞いてからずっと、「君たちをドキュメンタリーにしなきゃいけない!」と興奮気味に話を聞いている。
家が近いなら、きっと密会を重ねつつ、時期を待って結婚できるかもしれない。ツシャールが沢山お金を稼げるようになったら、可能性はあるみたい。
インドでは、200~500人くらい人を集めて、4~5日に渡る結婚式をするという。ぜひお邪魔してみたい。インドだとご祝儀£2で、よく知らん親族が10人くらい来たりするらしいけど、そんなこと言わず私は1人で£300払うよ、だから絶対結婚して、招待してくれ。
世界のどこかの小さくて大きな恋物語。みんなもこれを知って、心の中で応援して欲しい。数年後、彼らの結婚式で幸せな二人を見る事を祈って。