#57 炎上商法とは何か
~思ったことをしゃべっていてはいけない,よく考えてからしゃべるべきだ(キケロ)~
情報が少なかった時代,民衆はデマゴギーにより扇動され,後の世から見ると愚かしい選択をした歴史的事実が見られます。中世ヨーロッパの魔女狩りしかり,日本では関東大震災後の朝鮮人虐殺しかり,情報が混乱し根拠のない流言飛語で大衆は不合理な選択をしてしまいました。
それでは,個人が消化しきれないほどの大量の情報の波に身をさらしている現代はどうなのでしょうか。昨今のコロナ禍における自粛警察などの動きを見るに,民衆が不合理な行動をとることと情報量とは関係がなさそうです。大衆は情報の量に関係なく,先行きが見えないという不安な状況下に置かれると,いとも簡単にデマゴギーに流されてしまいがちです。
そいうった人間の衆愚な面に着目して成立するマーケティング手法のひとつが炎上商法です。つまり炎上商法は,人間の非理性的な性質にフォーカスしているものといえます。そういったマーケティング手法は,デマゴギーに動かされた歴史からも明らかなように,実際に集団心理を操作するのに効果的なようです。
現代の情報化社会では,人間は未だその膨大な情報量をさばくのに慣れておらず,それらの情報を整理し解釈してくれるインフルエンサーの意見に吸い寄せられてしまうようです。しかしながら,その情報が悪意に満ちていたり,不安や恐怖から怒りを発していたりするならば,そこから立ち去るほうが賢明です。それがいいとか悪いとか反応すること自体を避けて,無視するのが理性的と言えるのではないでしょうか。
ネットの匿名性を隠れ蓑にして,他者と比較し自分を劣ったものと感じて嫉妬する,将来の不安から自分を守ろうとして攻撃的になる,過去につまづき思い通りにならない今を怨嗟する,こういった感情をまき散らす人間心理がネット上に蔓延しているのは打ち消しがたい事実です。
情報は玉石混合です。それら情報を見分けるには,他人の意見を鵜呑みにするのではなく,自分を信頼し自分の心の声に耳を傾けることが大切です。人間の理性をアンテナとするならば,人間は他人との比較ではなく自分がどう生きるかという意思と選択により形作られるのだと,理解できるはずです。また,未来において確かなことは「死」でしかなく,人間は結果ではなくプロセスとしての人生を生きる存在です。全ては自分の納得のいく人生の道程であるという自己信頼があれば,どのような過去も未来も受け入れられるでしょう。
すなわち我々は,自ら判断できない情報の選択を他人に委ね他人の人生を生きてゆくのか,自ら情報を選択し自ら行動を決定するという理性的な人生を送るのか,の選択をするということなのだと思います。非理性的な衝動で動かされる社会のままでよいのか,理性によって築かれる社会を望むのか,現代人類は選択を迫られている,ということなのではないでしょうか。