日記「赤」
「音楽の森のかわいい鳥」
娘が小学3年生の時に市の展覧会で選ばれた絵。なんとも可愛らしい絵だ。あれからもう9年近く経つが我が家の壁に唯一飾られているもの。私は壁に何かをかけるのがあまり好きではない。カレンダーひとつ時計ひとつ、それだけでいい。いやそれも本当はいらないくらい。殺風景な部屋が好きなのだ。でもこの絵だけはずっと壁にかけている。
太陽を描く時やはり「赤」が正しいのだろうか。
幼少期の私は納得がいかなかった。私が思う太陽の色はクレヨンにはなかったから、真夏の海の太陽を百歩ゆずって黄色のクレヨンで描いたらお友達に笑われた。そうしたら幼稚園の先生は言った。
「太陽は赤色のクレヨンでぬろうね」
私は少しだけ拗ねた。だって真夏の海の太陽は赤くなかったもんっ。なんで赤のクレヨンなのっ。あの時、先生に聞いてみたら良かったのだ。
「先生。窓の外の太陽は赤く見えますか?」
ダイニングテーブルの指定席に座ってなんとなくぼんやりと夕飯の献立を考えていた。雨に湿った重たい頭を両手のひらでなんとか転がせ、西の窓に向かって目をつむった。A地点からやってくるはずの夕陽が雨雲をかきわけ瞼の奥へくい込んでくる。その映像はモノクロの中に赤。ん?やはり太陽は赤いのか?いやこれは瞼に張り巡らされた毛細血管の血の赤だ。太陽が赤いのではなく私の赤だ。
瞼をひらく。湿りすぎた身体を乾かしたい。雨だれの音に少し飽きてしまった。A地点の夕陽は雲にふさがれて部屋が一気に薄暗くなる。太陽は赤いのか問題よりも夕飯の献立を考えねば。
とりあえず完熟トマトとあまった野菜で、真っ赤なミネストローネを作った。ふむ。
これは誰がなんと言おうと「赤」だよね。
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