US/Biotech/Startups 投資検討メモ-Oxford Nanopore Technologies
今回はOxford Nanopore Technologies のビジネスを多角的に評価していました。投資判断の参考になれば幸いです。本レポートでは、Annual Report、株主向けプレゼンテーションを引用するとともに、評価基準としてマッキンゼーの企業価値評価 https://amzn.asia/d/3yNfsuVx を参考にしています。投資の判断は自己責任でお願い致します。
1.ビジネス
Oxford Nanoporeは、ナノポア技術に基づくDNA/RNAシーケンシングを開発している、技術オリエントの会社です。この技術は、ナノサイズの孔(ナノポア)を通して分子を解析するもので、他の従来型シーケンシング技術とは異なる以下の点が特徴です。
リアルタイム解析: サンプルを機器にかけると、その場でリアルタイムにデータが生成されるため、迅速な解析が可能です。
長鎖シーケンシング: Oxford Nanoporeの技術は、超長鎖のDNAやRNA分子をシーケンスすることができ、従来技術よりも複雑なゲノム解析に適しています。
携帯性とスケーラビリティ: シーケンシング装置は小型かつ持ち運びが可能なものから、大規模な高出力装置までさまざまで、研究室外でも利用できるのが強みです。
直接シーケンシング: DNA/RNAを直接シーケンスでき、修飾された塩基なども同時に検出可能です。これにより、エピジェネティクスや環境DNAの解析が容易に行えます
Oxford Nanoporeの収益モデルは、装置とサービスの販売による収益と、シーケンシングに必要なフローセル(ナノポアを含むチップ)やサンプル準備キットなどの消耗品(Consumerbles)が主な収益源です。これらの消耗品は、シーケンシングごとに使用されるため、安定した反復収入を生み出します。実際に、23年度のレポートによると、75%が消耗品でした。
2.マーケット
これらの診断用とのマーケットには、研究用と臨床用の大きな二つのドメインに分かれます。研究用途は参入障壁が低いけれども、市場規模が小さいです。一方で、臨床用途は、保険適用されれば継続的な検査が実施されるため大幅な収益源となります。このようなスタートアップでは、はじめは研究用途で実績を築き、臨床用途に応用しているのが基本戦略だと思っています。
Nanopre の現在参入しているマーケットは、研究市場Life science research tools (LSRT) marketです。人類遺伝学、がん研究、感染症、植物や動物の研究など、多様な分野の科学者たちに独自の技術を提供し、これまでにない研究成果を上げることをサポートしています。
Annual Reportによると、臨床用途を目指すためにパートナーシップを構築しているようです。
「体外診断(IVD)の分野で世界をリードするbioMérieux SAとのパートナーシップにより、感染症のIVD市場向けの製品の開発と展開が成功するようサポートします。一方、アメリカのMayo Clinicとの共同開発では、メイヨークリニックのラボにナノポアシーケンシングを導入し、がんなどの人間の疾患に対する新しい臨床検査の開発を支援します。」
bioMérieux は6%のNanopreの株を取得しており(141M euro、224億円 )、株価の減少により半額程度を減損処理しています。出資先の会社の規模からすれば余裕はあるようですが、このまま投資先の会社の価値が下がると、出資する蓋然性への説明責任が問われることになります。一刻も早く、体外診断用の製品を開発することが期待されます。
3.成長戦略
このようなスタートアップにおいて、重要な指標となるのがROICよりも成長率です。したがって、企業の成長戦略の良し悪しを比較する方法として、マッキンゼーの企業価値評価が提案している分類表(Exhibit9.3)を基準にして検討した。まず、企業の成長に影響する項目は以下のとおりである(マッキンゼーの企業価値評価、Exhibit9.3)。
・インパクト大ー新しい製品の導入により新しい市場を作る、既存の顧客に対して新しい製品を売る、新しい顧客を引き付ける
・インパクト中ー成長している市場でマーケットシェアを拡大する、企業買収により製品成長を加速する
・インパクト低ー競合他社からマーケットシェアを奪う、プロモーションや価格戦略、大規模な買収
Nanopreの主要な成長戦略としては、「新しい市場の創出」ではないでしょうか。 Oxford Nanoporeは、特に臨床診断や感染症診断市場など、従来のゲノム解析に比べて新しい市場に進出しています。例えば、bioMérieuxやMayo Clinicとの提携により、医療分野で新たな市場を開拓しようとしています(annual-report-2023 (1))。また、mRNA製品の品質管理市場への進出など、バイオファーマ分野でも新たな市場を開拓しています。
すなわち、「インパクト大」の成長戦略を実践しようと思われます。
4.マネージメント
CEOのGordon Sangheraは、Oxford Nanoporeの共同創業者の1人であり、2005年に同社を設立しました。彼は化学工学の博士号を持ち、20年以上にわたってバイオセンサーの開発に従事してきました。創業以前は、創業前は、Abbottの研究開発で研究をリードしていたようです。すなわち、このセンター技術において豊富な経験を有していることが分かります。
5.財務状況
2023年の総収益: £169.7 million(約297億円)で前年2022年の£198.6 millionに比べ、COVIDテスト収益の終了により、総収入は14.6%減少しています。しかし、コア事業の成長率(Life Science Research Tools:LSRT):COVID-19関連収益やEmirati Genome Program(EGP)を除外した場合、39.3%の成長を記録しています。
また、売り上げの先行指標として、ユーザー数(アクティブ顧客アカウント)があげられます。これまでの推移は以下のようになります。
2020年: 4,500以上
2021年: 6,500
2022年: 6,839
2023年: 7,615
前年比で11%の成長を記録しているので、今後も増収が続くのではないでしょうか。
6.Pros/Cons
継続的にアクティブユーザー数が増加していることは、収益の向上に直結します。特に、臨床検査会社からの出資により、臨床用途への応用が着実に進んでおり、これは新たな市場機会を生む要因となります。臨床市場への進出は、同社の技術の幅広い適用を促進し、長期的な成長に寄与するでしょう
一方で、現在の最大の課題は継続的な赤字、特にマーケティングやセールス部門におけるコストの増加です。コスト削減策が講じられていない状況では、今後の黒字化の見通しが不透明です。このため、持続可能な成長を実現するためには、効果的なコスト管理と収益性向上に向けた戦略的な施策が求められます。