US/Biotech/Startups 投資検討メモ-10X Genomics
今回は10X Genomicsのビジネスを多角的に評価していました。投資判断の参考になれば幸いです。本レポートでは、10-K、株主向けプレゼンテーションを引用するとともに、評価基準としてマッキンゼーの企業価値評価を参考にしています。投資の判断は自己責任でお願い致します。
1.ビジネス
3つのプロダクトを研究市場に提供しています。いずれのプロダクトも、専用の消耗品が提供されていることにより、装置の売り上げだけでなく、関連する消耗品の売り上げも重要な収益源となります。
Chromiumプラットフォームは、個々の生物学的要素を高スループットで解析できるシステムです。サンプルを数百万の小区画に分割し、それぞれにDNAバーコードを付加することで、並行して多数の微小反応を行います。これにより、例えば単一細胞レベルでの詳細な解析が可能になり、多様な実験を同時に行うことができます。遺伝子発現、タンパク質、クロマチン、CRISPRなど、複数のオミクスデータを同時に取得可能です。2023年の売上$468Mで、すでに6500件もの論文、5150台の累計売上台数を記録している主力商品です。
Visiumプラットフォームは、「空間解析」を通じて、生物学的要素がどこに位置し、どのように配置されているかを解析します。DNAバーコードを使用して、サンプル内の解析対象物の物理的位置を特定し、その情報を視覚的にマッピングします。これにより、組織全体にわたる高解像度のゲノム情報を取得可能です。
Xeniumプラットフォームは、in situ解析のために設計され、特定のRNAターゲットの位置や発現パターンを直接組織内で検出します。従来のシーケンシングを使わず、詳細な遺伝子発現マップを提供します。2023年に発売された新しいプラットフォームです。すでに250台も売れています。競合他社の装置と比較して、感度・精度・処理能力が高いことが報告されています。
2.マーケット
10-Kによると、世界の生命科学研究ツール市場は年間670億ドルを超える規模です。多様な製品とソリューションは、生物学的システムを高解像度で広範囲に解析することを可能にし、DNAなど特定の解析対象に限定されない包括的な生物学の理解を促進します。10xGenomicsの対象としているカテゴリは4つあり、それぞれ以下の規模と推定されています:
細胞アトラス作成:組織の細胞や分子の構成要素を特定する研究(20億ドル)
遺伝メカニズム:遺伝子とその機能を理解する研究(20億ドル)
細胞・分子生物学:遺伝子、タンパク質、細胞経路の機能を解明する研究(50億ドル)
トランスレーショナル研究:生物学の知見を人間の健康向上に応用する研究(70億ドル)
3.成長戦略
このようなスタートアップにおいて、重要な指標となるのがROICよりも成長率です。したがって、企業の成長戦略の良し悪しを比較する方法として、マッキンゼーの企業価値評価が提案している分類表(Exhibit9.3)を基準にして検討した。まず、企業の成長に影響する項目は以下のとおりである(マッキンゼーの企業価値評価、Exhibit9.3)。
・インパクト大ー新しい製品の導入により新しい市場を作る、既存の顧客に対して新しい製品を売る、新しい顧客を引き付ける
・インパクト中ー成長している市場でマーケットシェアを拡大する、企業買収により製品成長を加速する
・インパクト低ー競合他社からマーケットシェアを奪う、プロモーションや価格戦略、大規模な買収
このフレームワークを用いて10xGenomicsの成長戦略を評価してみる。
https://s28.q4cdn.com/592666581/files/doc_presentations/2024/01/2024-TXG-JPM-Healthcare-Presentation-vF.pdf
10x technology innovation to drive adoption by delivering better insights, workflows and cost structure >よりよいソリューションを、製品改良等によって顧客に提案することと解釈をすれば、インパクト中と考えられる。
Expansion of single cell approaches into more areas of academic research
Adoption of single cell in translational and biopharma applications>既存の製品のアプリケーションを広げること、すなわちインパクト中である。
Continued momentum in spatial biology as it delivers a new era of genomic analysis>Spatial Biologyの収益化を目指すことであれば、今後の成長に対するインパクトは限定的である。
Early evidence of clinical utility of single cell and spatial approaches>臨床的なニーズ(何かの検査に使用されるアプリケーション開発)があれば保険適用され、このプラットフォームが日常的に使用されることになり、継続な収益源となるため成長に大きなインパクトがある。
現在の製品はRUO, Research-use-onlyであり、臨床的なニーズ(Invitro Diagnostics Products)が想定されていない。IVDマーケットサイズが$74Bである一方で、$16BのResearch Market と比較すると会社の規模が限られている。また、臨床的な用途についても具体的な疾患やアプリケーションについては言及されておらず、時期についても記載がないため、この分野としての成長性を評価することができません。
”We also plan to demonstrate new applications using our solutions, including applications that synergistically use multiple 10x solutions, to investigate the potential clinical utility of single-cell and spatial approaches enabled by our solutions.”
4.マネージメント
CEO Segre Saxoの学歴はHarvard-Applied Math/ Stanford-Bio informaticsを専攻しており、非常に優秀であることが分かります。 また、10xGenomicsの創業前に遺伝子解析サービス23andMeでの経験があります。すなわち、彼は技術に精通しているだけでなくビジネスも理解があることから、経営者として適任ではないでしょうか。
https://www.linkedin.com/in/serge-saxo
5.財務状況
現時点での主力製品は、Chromiumで装置売り上げ金額よりも、消耗品の売り上げ規模が大きいことが分かります。一方でSpatialの装置売り上げが大幅に増加しており、来年以降の消耗品の売り上げの増加が予想されます。
また、利益はマイナス$255Kで、研究開発とセールスの規模に売り上げがついていない状況がうかがえます。セールスやマーケティングには、科学的観点から顧客にインサイトを提供するためにPhDレベルの優秀な人材を確保する必要があります。また、アプリケーションの拡大を目指すには、研究開発コストを削減することは選択肢ではありません。なので、直近ではこの成長を維持するためには、組織をスリム化し売り上げ効率を上げて黒字化を目指すことは困難であることが予想されます。
6.Pros/Cons
強い技術的なバックグラウンドを持つCEOが率いる会社で、装置売り上げ実績やそれをサポートする論文等のエビデンスがそろっているので、顧客の製品に対する信頼性が高い。
一方で、臨床用途や今後の製品開発戦略について具体的な言及がないため、今後の成長性が読めないことが懸念される。