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US/Biotech/Startups 投資検討メモ-Tempus


今回はアメリカのスタートアップTempusのビジネスを多角的に評価していました。投資判断の参考になれば幸いです。本レポートでは、10-kや、株主向けプレゼンテーションを引用するとともに、評価基準としてマッキンゼーの”企業価値評価”https://amzn.asia/d/3yNfsuVxを参考にしています。投資の判断は自己責任でお願い致します。

この企業は2024/6にソフトバンクが出資した際に、日本でニュースになっているのでご存じの方も多いのではないでしょうか。早速ですが、この会社のビジネスについてみていきましょう。


1. ビジネス概要

Tempus AI, Inc. は、ヘルスケアにおける人工知能(AI)の応用を通じて、患者一人ひとりに適した、より個別化された医療の提供を推進する企業です。彼らの主力製品は、次世代シークエンシング(NGS)や分子遺伝学検査を実施し、その結果の臨床データを基にAIを使ってパーソナライズされた治療を提案するものです。また、研究機関のがん研究用途として、ゲノムや分子データを患者個々のプロファイルと結びつけデータベース「Tempus Platform」を提供することで、がん研究を効率化します。

収益モデル は、主に以下の3つのプロダクトラインから成り立っています:

  • Genomics:次世代シークエンシング(NGS)や分子遺伝学検査を提供。臨床的な検査サービスを病院や製薬会社に提供し、結果をデータ化して診断を支援。

  • Data & Services:製薬企業に対し、非識別化された臨床データや解析ツールをライセンス供与。臨床試験のマッチングサービスも展開。

  • AI Applications:AIを活用して診断を支援するアルゴリズムを提供。これにより、医療従事者が適切な治療を見つけやすくする。

このビジネスモデルで着目すべき点は、GenomicsとData Serviceが密接に関係していることです。遺伝子解析サービスの結果を提供するだけの既存サービスは数多くあります。この会社は、そのデータを用いてランダム化した遺伝情報のデータベースを構築しています。そのデータベースのアクセス権を製薬企業に販売、または解析サービスを提供しています。既存の測定受託サービではありません。そこで入手したデータを作成しデータベースを構築しています。このデータベースは、データ解析サービスや臨床試験のマッチングサービスなどに活用されることから、非常に価値の高いことが容易に想像できます。実際に、Cohort Lifetime Valueとして、遺伝子解析サービス(sequencing cost)の約7倍近くあると主張されています。

2. 会社が参入しているマーケットの概要

Tempus AIがターゲットとする市場は、主に以下の領域です:遺伝子解析サービスは参入障壁が低いものの、臨床試験支援など製薬企業との信頼性が必要で収益源となるマーケットに参入しています。

  • 分子遺伝学検査:ゲノム解析やAIを活用して個別化医療を実現する分野。市場規模は急速に拡大しており、特にがん治療において高い成長が見込まれています。

  • 臨床試験支援:製薬企業に対し、患者データを用いて臨床試験のマッチングを行い、治験の進行を効率化するサービス。

  • データライセンス市場:Tempusは大量の医療データを構築し、それを製薬企業にライセンス供与して収益を上げています。

3. 成長戦略(マッキンゼーのフレームワーク)

インパクトの高い成長戦略を優先させています。

高インパクト

  • 新市場の創出:Tempusは、AIを用いた精密医療という新しい市場を開拓しています。新製品である「AI Applications」や、がんだけでなく神経心理学、心臓病への拡大を通じて、新たな市場への進出を図っています。

  • 新しい顧客層の獲得:病院や医療機関に加え、製薬会社やバイオテクノロジー企業にデータとサービスを提供することで、顧客ベースを拡大しています。

中インパクト

  • 市場シェアの拡大:米国内の病院ネットワークと深く連携し、製薬企業との関係を強化し、マーケットシェアの拡大を図っています。また、臨床試験支援サービスの「TIME」などを通じて、より多くの顧客を巻き込む戦略を取っています。

4.マネージメント

Eric Lefkofsky(CEO、創業者、会長):Eric Lefkofskyは、Tempus AIの創業者であり、連続起業家としても知られ、過去に成功した複数のテクノロジー企業を設立しました。連続起業家であることから、ビジネスにおける実績は疑いようない才能があることが分かります。

5.財務状況

Tempus AIは、急成長中の企業で、2023年の総売上は約5億3180万ドルでしたが、同年の純損失は約2億1410万ドルに達しています。成長期にあるため、収益拡大に伴い損失を出しながらも、今後の収益基盤の確立を目指しています​。財務のハイライト:

  • 2020年: $188M の売上

  • 2023年: $531.8M の売上

  • 2023年の純損失: $214.1M

直近では、IPOに伴う、従業員へのボーナスが大きく2024の利益を大幅に押し下げる要因となりそうです($488M程度)。

6.Pros/Cons

従業員へのボーナスが気前が良すぎるので直近の利益に懸念を持ちます。しかし、このようなデータの積み重ねによるデータベースは、他社が参入できない圧倒的な資産になることが予想されます。

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