去る人、残る人。LGBT水商売事情。
僕はLGBT。女で生まれて男として生きているFTMトランスジェンダー。1980年生まれ。鈴木優希。
LGBTを取り囲む夜の街の現状
僕の世代はLGBTなどという言葉はなく、僕たちトランスジェンダーは「オナベ」「オカマ」と呼ばれていた。
女から男になるFTM。男から女になるMTF。
居場所は「夜の世界」にしかない。そんな時代だった。
僕も自分が性別違和を確信した時、居場所を求めさまよったのは「東京」「二丁目」「歌舞伎町」のオナベバーだった。
小学生か中学生の頃にオナベバーで働いている人達をお正月のテレビ番組で見たあの日から「ここしかない!これしかない!」
そんな考えと同じ人が存在するという希望だけで思春期を生きた。
昼間に男として働くという考えなど持つことは出来なかった。
元々夜行性であったし、派手な世界、何より女の子にモテたかった僕は夜の世界には特に抵抗もなく、むしろ憧れに近い気持ちもあった。
その後、様々な事情があり
結果としては、オナベバーで働くことはなく、地元名古屋で女として水商売をして、カミングアウト後アフターバーの店長を経て、25歳の時に起業。
今現在はオナベバー「Venus」とLGBTQBAR 「JIRO‘S」の2店舗を経営している。
今昔
僕の店は「自分らしく生きる場所」をテーマにしている為、求人はどんな時も常に受け付けている。
こんなにLGBTが理解されてきたこの令和の時代に変わっても、夜の街に飛び込んでくる当事者はかなり多い。
しかし、今はLGBTに理解がある企業も多いため、働ける場所の選択肢があるからか、入店しても1ヶ月、2ヶ月続く子は稀である。
YouTubeやInstagramなどのSNSで見るキラキラと輝いたこの世界のイメージだけが先行していて、実際に白鳥が足をかいている水面下の部分を考えても見ないのだろう。
どの世界でも同じ。輝くためには努力が必要。
そして特に女から男の僕たちがわかっておかなければならないのは、
FTM・ボーイッシュの世界は水商売=稼げるわけではない。
ということ。
「女」というものを捨てた僕たちは、ホストと同じで売れないと稼げない。
女としてもキャバ嬢、ホステスの経験がある僕は、このスタートの違いにはギャップを感じた。これが「男扱い」かと。
男社会の厳しさを知った。
その結果、この何年かのVenusは
入店しては辞めるの繰り返し
結果を出す前に失速。水商売の「良さ」を知る前に去っていく子が大半。
実際に面接して、一緒に働いてみても、この世界で稼ぎたい!売れたい!良い車!良い女!などという野心はないように感じる。
リスクを背負う覚悟もサラサラない。
ノリでも良い。覚悟なんて要らない。
全然ノリで構わない。
「興味があったから、なんとなく...」大歓迎!
覚悟を持って来る子の方が珍しいし、逆に思い描いていた理想と現実の違いを目の当たりにして潰れやすいくらいだ。
しかし、ここでたったひとつだけ、大切なことがある。
それは、ノリでも何でも自分で選んだ仕事に責任を持てるかどうか?
約束は守る。昼職も夜職も同じ「仕事」である。
水商売を特殊で常識から外れた世界だと思っている人は考えを改めて欲しい。
LGBTQにとって職業の選択肢がある事はとても良い事だが、自分から飛び込んできた世界を直接「辞めます」も言わずに逃げていく。そんなことをやってしまう人が今後大成するとは思えない。
女とか男とかFTM、LGBT関係なく、
人として自分の行動に責任を持って欲しいと強く願う。
同じセクシャリティの人間たちがあまりに弱く非常識だと、その度にがっかりする。
性的少数派の僕たちが社会からもっと認められるように。
それぞれの一度の人生。
豊かな暮らし、経験をするためにはどんなに便利でデジタルな世の中でも自分の気持ちをきちんと言葉で伝えること。逃げずに人とぶつかることを諦めて欲しくはない。
近頃の若いもんは..
こんな話をすると、
僕が歳を取りオジサンFTMになってしまっただけだと思うかもしれないけど、僕たちにも「今どきの若いもんは」と人生の先輩たちにあきれられていた時がある。
そう考えると、歳や時代は関係なく、ダメなモノはダメ。良いものは良い。という基準は変わっていないのだと思う。
【イヤなことこそ、やるべきこと。】
どうか自分に責任を持って生きよう。
水商売でなくてもいい。みんなの「自分らしく生きる場所」を見つけて輝いて欲しい。
2022.7.19(火)LGBT社会人交流会「BRUSH UP」第10回無事終了。沢山のご参加ありがとうございました!