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【保育の場から】それってすごいことですか?

病児保育室にいたときの話。

4~5歳くらいの子が、マグフォーマーという磁石でくっつくブロックで大作をつくりました。
付属の説明書を見ながら、一生懸命。
保育士も助言はしましたが、ほとんど自分だけの力でやりました。

とても素敵なのができたねとみんなで話していると本人から
「あとでママに見せたい」

そりゃ、そうだよねぇ。
たくさんのパーツを使っていたので、他の子が使いたい場合は何時間も作品をとっておくのが難しいときもありますが、その日の利用者でやりそうな子もおらず。
なにより、これをママに見せたい気持ちは十分に理解できるので、とっておくことにしました。

病児保育室では、保育室に保護者の方は入れません。
だからお迎えが近づいたタイミングで、みんなでそーっと大事に玄関まで作品を運びます。
きっとママも喜んでびっくりするね!

お迎えがあると、まずは保育士がその日の様子を先にご説明。
その際、これ見てください!○○ちゃんがつくったんですよ!すごいでしょ!!と私。

ジャジャーン!ていう効果音が脳内で鳴る勢いで見せたのですが……
ママは真顔で
「それって、すごいんですか??」

あ、あれ…?
自分との温度差に驚きつつも。
すごいと思いますよ、だって自分で説明書を見てパーツも揃えたし…ほとんど自分でやったし、えっと…
と、しどろもどろ。
あ、それに、私がここに来てからこのブロックでこんなに大きなのを完成させたのは初めて見たから……

するとママ、打って変わって
「まぁ!先生も初めて見たくらいですか!?それならすごいんだわ!うちの子の年齢にしてはすごいんですね!」

そう、思います……

お子さんを玄関に呼んでくるとママは
「すごかったのねぇ、先生が誉めてくれてたよ!」
とお子さんに伝え、
そんなにすごいのなら写真を撮ろう、と撮影していました。

横で見ていた私は複雑な気持ちになりました。
他者からの評価というポイントがないと、すごいねって、言えないのかな…
私の「すごい」って言葉がよくなかったかな…
お子さんの作品に対して、年齢に応じた能力があるかどうかを先に考えちゃうのかな…

私は、子どもが大きなものをつくってママに見せたかったということだけで、喜んでくれるかなって思っていた。
病気が快復してきて、集中して作品がつくれたこと自体に喜んでくれるかなって思っていた。

あとから聞いた話ですが、教育熱心なママさんだったそう。

その子がブロックをつくるときに、自分が考えたなにかではなく、説明書に載っているものをつくりたい、と話した理由がなんとなくわかりました。

きっとその子は、うまくできたかどうか、能力が高いかどうかで、ジャッジされ続けてきたのでしょう。

ママを責めたいとは思いません。
おそらく、ママ自身がこれまでそういうものさしでジャッジされ続けてきたのでしょう。
根っこにあるのは、子どものために能力をつけさせたい、能力があれば大人になって成功できるから…という、子どものためを思う気持ちなんだろうけど。

昨今言われている、「非認知能力」を高めるのとは、反対の方向に疾走している感じがするんだよなぁ…
それになにしろ、幸せそうに見えない。

保育室から去っていくふたりの背中を眺めながら、ふたりとももっと楽な気持ちになれるときが訪れますように…と願ってしまいました。


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