草刈りという浄化
「こんな田んぼ、草を刈る意味あるんですかねえ・・」
相棒のD氏が言う。
ここは水田転作を行なっている圃場だが、圃場内の抑草に失敗したらしく、作物はまばらで農地としては見る影もない。
それでも僕達は畦畔の草刈りを頼まれているので作業するのだが、冒頭のような感想を彼は持ったわけである。
作業開始。僕達は二手に分かれて圃場に入る。僕は手前を担当。
アタッ!!
開始して程なく、右手中指に小石がヒットした。刈り刃が弾いたものなのであるが、滅茶苦茶痛い。
気を取り直して作業再開。すると今度は、顔の左を小石がヒュンと飛んでいく。
こいつはかなり危ない。
もっとも僕は、防護具を付けて作業しているから大丈夫なのであるが、危険であることは間違いない。
・・・
僕はこの時、「ある疑い」を抱いた。
時間が経って作業も後半。
あろうことか今度は、刈り刃のナットが緩み始めた。通常はあり得ないことである。
何かがおかしい。
ここで僕は一つの仮説を立てた。
田の神が、圃場をきれいにしてくれと言っている。
うまく栽培できなかった圃場。
この田んぼを見下ろすたびに、耕作者はため息をつき、「あかん・・」と呟いただろう。
道ゆく人も、「ひどい・・」と漏らしただろう。僕の相棒のように。
それでこの田には、ある種の「念」が溜まっていった。それが邪気となったかはわからないが、場所の波動を引き下げることになった。
そこで神は、たまたま草を刈りに来た僕に「気付き」を求めたのである。
かなり荒っぽいやり方ではあったが・・(笑)
わかりました。
僕は一旦車に戻り、守護の「御守り」に、
この田を浄化するつもりで草を刈ります。
と告げ、作業を仕切り直した。
するとすぐに雨が降ってきた。じき止んだそれは、何かの「応答」のよう。
時折「光明真言」を唱えながら、圃場の「氣」を整える体(てい)で草を刈る。
畦しか手を加えられないことが残念だが、それでも、風の「道」を作り、この一帯に風を通していく。風は場の澱みを払っていく。
ナットが緩んだ地点。ここは特に気を入れて作業を行う。
何かあったのかも知れないし、何もないかも知れないが。
ただ、ゴミが一つ落ちていたので、引き取った。
作業すること約一時間。草刈りは終了した。
草刈りがその場を浄化することについては、以前、ハッキリと親方の圃場で経験している。
田んぼ全体が軽くなり、虫も草も石も輝く。
田んぼの神様が喜んでいると感じられる。
今回は、諸般の事情により十分な作業が出来なかったが、気持ちを向けられたことは幸いであった。
僕が草を刈る理由。
農家を助けること以外に、案外こういうことがあるのかも知れない。
この日の仕事が終わり、このエリアを出た時・・
雨が降っていなかったのは、その一帯だけだったことを知る。
・・ありがとうございます。