休耕畑の草刈りに思う
僕は、田んぼで草を刈っている。
携帯が鳴る。
着信を見ると、市内から。だが、知らない番号だ。会社にかけてきている。
はい、もしもし。
僕は電話に出る。
「◯◯さんですか?」
女性の声だ。
はいそうです。私は“ゆき”と申します。どうなさいました?
ご用件を伺ってみよう。
「実は、700平米ほどの畑があるんですけど、草刈りをお願いできますでしょうか?」
市役所で僕達のことを知ったらしい。
ええ、もちろん。
僕は、事情をもう少し伺ってみる。
「実は母が“畑”をしていたんですけど、2年前に亡くなって。私には出来ないし、それから荒れてしまって・・」
なるほど。
わかりました。では後日、現場を見に伺いますね。それでどうするか検討しましょう。
「はい。よろしくお願いします。」
700といえば面積的にはそこそこ。女性にはしんどいだろう。
数日後。
僕はアニキの大麦転作田の草刈りの途中、ふと思って彼女に電話する。
もしもし、先日お問い合わせをいただきました、ゆきです。
「ああ、こんにちは。」
急で申し訳ないんですけど、本日夕方、お邪魔してよろしいですか?
いらっしゃいます?
「はい、おります。」
と言うわけで、僕はアニキの仕事を早めに切り上げて、彼女のお宅に伺う。
彼女は小柄な女性だった。
名刺を渡し、立ち話しながら畑に向かう。自宅から2分くらいかな。
「ここなんですけど・・」
なるほどねー。
結構広いよね。でも草はそれほど多くない。
えとですね・・
僕は現状の見立てと、見積額を口頭で提示する。どうやら、以前頼んだシルバーさんの価格と大差がないようだ。
もしよかったら、今からやっちゃいます?
「え!出来るんですか?」
彼女はびっくりしている。
どうかな?と思ったけど、
「お願いします!!」
とのこと。
ありがとうございます。では、終わったら電話しますね。
「よろしくお願いします。」
彼女を家に帰し、僕は作業を開始する。
さて・・
道路から見て手前三分の一は、地面が硬く、畑状態ではない。
奥の三分の二が畑状態にあるが、耕作はされていない。亡くなったお母さんが作っていたであろう、イチゴがところどころに株を残していた。
これは刈れないよな・・
そう考えながら、僕は作業を進めていく。
そうして作業すること約2時間。草刈りは終わった。
僕は彼女に連絡する。
「すごいー!!」
驚いておられる。(笑)
今後のこととか少し談笑して、僕は帰路についた。
この程度の草刈りは、僕にとってどってことない。
だが、出来ない人には出来ない。
ここにビジネスが成立する。
だが何よりも思ったのは、
こんなパターンは、これからどんどん増えるだろうな・・
ということ。
そう、
管理者をなくした農地が静かに増えていく。
アニキとか親方とか、専業農家を救う草刈りとは全く違った世界観に、僕は少し寂しさを覚える。
今はしょうがない。けれど今後、この問題に何らかの打開策を見つけたいと思う、そんな一日であった。