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【決算熟読】レーザーテック 2025年Q2 :過去最高業績だが今後は業績リスクあり?
レーザーテック社は2025年Q2において過去最高の業績を記録しました[1]。売上高、営業利益ともに前年同期比で大幅な伸びを見せています。そこで今回はレーザーテック社の決算を深堀していきます。決算資料はこちらからどうぞ。
1. 全体概要
2025年Q2は、売上高、営業利益ともに前年同期比で大幅に成長しました(図1)。具体的な数値は以下の通りです。
売上高:922億円(前年同期比+93.4%)
営業利益:477億円(前年同期比+122.3%)
営業利益率は51.8% という驚異的な水準を記録しました。この成長の主な要因として、半導体関連装置の需要拡大、生成AI市場の活況、EUV露光装置関連技術の進展が挙げられます。市場全体では、先端技術の導入が進む中で、レーザーテックの強みが一層際立っている状況です。特に、台湾や米国での販売拡大も順調に進んでいます。
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また、FY2025年の通期業績見通しとして、以下のような堅調な成長が予測されています。
売上高:2,400億円(前年比 +12.4%)
営業利益:1,040億円(前年比 +27.8%)
この成長の背景には、世界的な半導体需要の拡大と新技術導入による競争力の強化があります。ただし、今回の好調な業績にも関わらず、この通期業績見通しが据え置かれている点には注意が必要です。決算資料によると、EUV露光装置向けのマスク関連装置の受注が大幅に減少する見通しであり、現在の好業績が今期までにとどまる可能性も考えられます。
2. 業績分析:2025年Q2までの推移
2025年Q2までの四半期推移を振り返ると、図2に示すように、今期は急激な成長を記録しました。半導体関連装置事業は773億円、サービス事業は122億円と、双方ともに四半期ベースで過去最高の売上高を達成しています。
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2.1 過去最高の売上高を支えた要因
この好調な業績の背景には、以下の成長要因が挙げられます。
生成AI市場の拡大による半導体需要の増加
ChatGPTをはじめとする生成AI技術の急速な進展 により、関連ハードウェアの需要が急増しています。市場分析レポートでもAI向け半導体の需要は今後も堅調に推移すると指摘されており[2]、レーザーテックの事業もその恩恵を受けているものと考えられます。
EUV露光装置向け製品の需要増加
EUV露光技術の進展により、半導体製造プロセスでの高付加価値製品へのシフトが加速しています。レーザーテックの昨年度の製品別受注高データを見ても、図3に示すようにEUV露光装置向け製品が受注高の半分以上を占めています。需要増加の流れに乗って、必要な製品を市場に提供できていることが売上に繋がっています。(※EUV露光技術の市場動向については、ASMLの決算解説も参考になります。)
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主要市場でのシェア拡大
地域別に見ると、図4に示すように台湾や米国といった主要市場での販売が好調 です。レーザーテックの主力製品であるEUV露光装置のマスク検査装置は、台湾のTSMC、米国のIntelなど、大手半導体製造メーカーに供給されています[3]。また、EUV露光装置はハイエンドスマートフォン向けチップの製造に使用されるため、今期の成長にはiPhone向けの設備投資が影響していたと考えられます。
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2.2 設備投資の動向
研究開発費は前期比でわずかに減少し、21億円(▲1.3%)となりました。これは、設備投資額が38億円(+525.8%)と大幅に増加したため、一部の費用を補填する必要があり、研究開発費が抑制されたと推測されます。この設備投資は、新工場「Fab-4B」の稼働準備が進められていることによるものです(図5)。また、将来的な生産能力の拡大を見据えた、中長期的な成長戦略の一環とも言えます。
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3. 事業領域ごとの分析
3.1 半導体関連装置事業
売上比率
全体売上高の約84%を占める中核事業です。主な成長ドライバー
EUV露光装置向けマスク関連装置の堅調な受注
EUV露光装置関連技術の進展 により、同社の市場での競争優位性がさらに強化されています。特に、世界シェア100%を誇る製品もあり[4]、価格交渉力が高まっていることが成長を後押ししています。新製品の継続的な投入
技術革新に伴い、製品ラインナップの拡充が進んでおり、先端市場でのシェア拡大が期待されます。最近では、図6に示すようなEUV露光装置向けの新製品を投入し、さらなる市場開拓を進めています。
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3.2 サービス事業
売上比率
全体の約13%を占めています。設備販売の拡大に伴い、メンテナンスやアフターサービスの需要も増加傾向にあります。その結果、売上高も右肩上がりを続け、安定した収益基盤を築きつつあります。成長要因
装置販売の増加に伴うアフターサービス需要の拡大
製品導入後の定期メンテナンスや技術サポート が、長期的な顧客関係の強化に貢献 しています。特に、EUV露光装置のマスクに欠陥があると、製造されるすべての半導体に影響を及ぼすため、検査の確実性が極めて重要です。そのため、検査装置の保守・メンテナンスに多大なリソースが投入されています。サービス品質の向上
技術サポート体制の強化や現場ニーズに応じたカスタマイズサービスの提供が、売上増加に寄与しています。特に、顧客の生産ラインに最適な検査装置を共同で開発する「顧客密着型」の研究開発が高く評価されており、今後のさらなる成長が期待されます。
4. 現状の課題と今後の展望
4.1 現状の課題
2nmノード以降の技術開発
半導体の微細化および3D構造化技術への対応が求められる中、検査装置の高精度化はますます重要になっています。特に、次世代EUV露光に対応した装置開発は不可避の課題です。また、高NA(Numerical Aperture)のEUVリソグラフィ[5]に対応するための技術開発強化が必要とされています。これにより、さらなる微細化を実現し、次世代の半導体プロセスに対応できるようになることが求められます。市場環境の変動
EUV露光プロセスに関しては、TSMC、Samsung、Intelの3社が2025年後半に2nmプロセスの量産開始を予定していると報じられています[6]。2025年初頭現在では、TSMCが高い歩留まりを実現[7]しているようですが、他の2社の投資計画が見直される可能性もあり、市場の不透明感は依然として残っています。また、パワー半導体市場の低迷[8]など、特定セグメントにおいて需要の変動が顕著になるリスクも考慮する必要があります。市場環境の変化に適応する柔軟な戦略が求められる状況です。競合の参入
KLA社がEUV光源を用いたマスク欠陥検査装置を開発中であり、2025年に市場投入予定との報道があります[9]。KLA社は資本力が大きく、参入すれば競争の激化が予想されます。そのため、レーザーテックとしては技術力とコスト競争力の両立が重要な鍵となります。ただし、EUV露光装置のマスク検査装置の市場は決して大規模ではなく、KLA社が多額の技術開発投資を行うかは不透明です。さらに、レーザーテックの技術力はすでに確立されており、仮にKLA社が参入しても、短期間で市場を塗り替える可能性は低いと考えられます。そのため、今後の競争環境を見極めつつ、技術革新を継続し、市場での優位性を維持する戦略が必要です。
4.2 今後の展望
レーザーテックは、今後の成長を見据え、以下の施策を中心に取り組みを進めています[10]。これらの施策は、現在の好調な業績をさらに後押しし、将来的な市場リーダーとしての地位を確立するための重要な戦略です。
EUVリソグラフィ対応製品の強化
進化を続けるEUVリソグラフィに対応するため、新製品開発を加速しています。特に、高NA EUVリソグラフィに対応した「A300シリーズ」の開発強化により、市場での競争力を一層高める方針です。また、高輝度EUVプラズマ光「URASHIMA」などの先端技術への投資も進めており、これらの技術は将来的な市場支配力の向上において重要な鍵となると期待されています。リードタイム短縮
現在、受注から納品までの期間が1.5年~2年以上かかるケースがあり、需要増加に対応しきれていないという課題があります。これを0.5年~1.5年に短縮することを目標に、生産体制の強化、製造プロセスのボトルネック解消などの取り組みを進めています。また、新工場 「Fab-4B」 の本格稼働を迎えることで、生産能力の拡大が期待されています。ローカルサービスビジネスの強化
メンテナンス体制の充実を図るため、リモートサポートを活用した保守の導入、海外拠点の増設、ローカル人材の登用推進など、各地域での対応力を向上する施策を進めています。これらの取り組みにより、迅速なカスタマーサポートを実現し、顧客満足度をさらに向上させることを目指しているようです。
5. 通期決算の見通し
2025年通期の業績目標は以下の通りです。
売上高:2,400億円(前年比 +12.4%)
営業利益:1,040億円(前年比 +27.8%)
純利益:740億円(前年比 +25.3%)
これらの数値は非常に力強い成長見通しを示しています。しかしながら、今回の好業績にもかかわらず、期初の業績見通しが据え置かれている点には注意が必要です。決算資料によると、EUV露光装置向けマスク関連装置の受注が今後大幅に減少する見通しが示されており、現在の好調な業績が今期までにとどまる可能性も考えられます。そのため、今後の受注動向や市場環境の変化には引き続き注視が必要です。
6. まとめ
レーザーテックは2025年Q2において、半導体関連装置事業とサービス事業の双方で過去最高の業績を達成し、業界内での競争優位性を改めて証明しました。生成AI市場の拡大やEUV露光装置関連技術の進展を追い風に、今後も力強い成長が期待されます。
一方で、EUV露光装置への設備投資が一段落しつつある点や、パワー半導体市場の不調といった課題も浮上しています。また、今回の好業績にもかかわらず、通期業績予想が据え置かれた点には注意が必要です。これは、受注の大幅減少を見越している可能性が考えられます。引き続き、今後の動向を注視する必要があります。
投資家にとっての注目ポイント
短期的な業績好調よりも、中長期的な技術革新の進展や競合の動向が重要なポイントとなるでしょう。今年度から四半期決算資料に受注状況を掲載しない方針を取っている点も注目に値します。個人的には不確実性が増すのでネガティブな印象でしたが、これは短期的な売買を行う投資家を避けたいという意図がある可能性も考えられます。
今後は、新技術の開発や市場拡大にどのように取り組むか、リードタイム短縮に向けた施策をどのように進めるかが、同社の成長戦略の成否を左右する重要な要素となるでしょう。市場動向や技術革新の進展を踏まえると、レーザーテックの戦略的な投資は中長期的に大きな成果をもたらす可能性が高く、引き続き注視する価値があると考えられます。
最後に
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参考文献
レーザーテック株式会社, "2025年6月期 第2四半期 (2024年10月~2024年12月) レーザーテック 決算説明会," レーザーテック公式HP, 2025年1月31日 (Accessed 2025年2月11日), URL.
一般社団法人 日本半導体製造装置協会, "2025年1月発表, 半導体・FPD 製造装置 需要予測 (2024年度~2026年度)," SEAJ公式HP, 2025年1月16日 (Accessed 2025年2月11日), URL.
古川 有希, 望月 崇, "レーザテク新社長、2ケタ成長継続に意欲-半導体市場上回る伸び," Bloomberg, 2024年9月11日 (Accessed 2025年2月11日), URL.
栫井 駿介, "半導体株「レーザーテック」は今が買い?長期投資に向く銘柄か?成長性とリスクを解説," マネーボイス, 2024年10月24日 (Accessed 2025年2月11日), URL.
斉藤 壮司, 石橋 拓馬, 久保田 龍之介, ”造れるのは世界でASML1社のみ、鍵を握るのはミラーレンズと光源," 日経クロステック, 2024年4月19日 (Accessed 2025年2月11日), URL.
RX Electronics, "TSMC、サムスン、インテルは2025年までに2nmチップの大量生産を競う," RX Electronics, 2024年12月25日 (Accessed 2025年2月11日), URL.
日経クロステック, "TSMC、サムスン、インテルが2025年までに2nmチップの量産を競う," 日経クロステック, 2024年12月25日 (Accessed 2025年2月11日), URL.
稲葉 雅巳, "岐路に立つSiCパワー半導体市場、事業戦略の見直し迫られる," 電子デバイス産業新聞, 2025年1月31日 (Accessed 2025年2月11日), URL.
Scorpion Capital, "LASERTEC CORPORATION (TOKYO: 6920)," Scorpion Capital, 2024年6月5日 (Accessed 2025年2月11日), URL.
レーザーテック株式会社, "統合報告書2024," レーザーテック公式HP, 2024年 (Accessed 2025年2月11日), URL.
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