見出し画像

脚本 恋の距離感

【人物】

佐倉葵(15) 高校一年生
志摩環樹(たまき)(15) 高校一年生
水沢香織(15) 高校一年生。葵の友人。
佐倉玲奈(42) 葵の母
佐倉誠司(43) 葵の父
志摩正則(43) 環樹の父
志摩美紀(40) 環樹の母
男子A
男子B

【本文】

〇桑名高校・廊下
   佐碧葵(15)と水沢香織(15)が歩いていると、志摩環樹(15)がやってくる。
葵「あ、環樹」
   葵が手を上げるが環樹は目も合わせずにすれ違う。
   ムスッとしている葵。
香織「誰? 友達?」
葵「幼稚園から一緒の奴」
香織「え? その割には無視されてたけど」
葵「なんかねー、私の事嫌ってるみたいなんだよね。なんでか知らないけど」
香織「なにそれ? 話は聞いたの?」
葵「いや、無視すんだよねあいつ」
香織「へー、幼馴染みなのにね」
葵「は~っ。なんなんだろあいつ。ホントに」

〇佐倉家・リビング(夜)
   テーブルに着いている葵の前に佐倉玲奈(40)も腰を下ろす。
   葵は手を合わせてご飯を食べ始める。
玲奈「ねえ葵、志摩さんち東京に引っ越すんだって。聞いた?」
葵「え? 志摩って、環樹んち?」
玲奈「転勤なんだって。お爺ちゃんとお婆ちゃんはこっちに残るみたいだけど、まあ環樹君だけ残していくわけにもいかないしね」
葵「へ~……高校入ったばっかなのに」
玲奈「ホントに聞いてなかったの?」
葵「うん。最近じゃ話もしないし」
玲奈「昔はあんなに仲良かったのにね。なんでそうなっちゃったわけ?」
葵「そんなの私が聞きたいよ」
玲奈「まあとにかく、引っ越しの日はお別れの挨拶に行くから、そのつもりでね」
葵「ええ~? 私が行っても喜ばないって」
玲奈「そういうわけにもいかないでしょ。幼馴染みなんだからお別れくらい言いなさい」
葵「いや、まあ別にいいけどさぁ……」

〇同・葵の部屋(夜)
   ベッドに仰向けに寝転がっている葵。
葵「あいつとの縁もここまでかぁ。ホント、昔はいっつも一緒にいたなぁ……」

〇(回想)野原
   葵(5)と環樹(5)が網を振り回している。
環樹「俺、バッタ捕まえた!」
葵「私も!」
環樹「葵ちゃん、次は蟹を捕まえにいこう!」
葵「じゃあどっちが早く着くか勝負ね! よーい、どん!」
   走りだす葵。
環樹「あっ! ズルい! 待て! 待てって!」
   笑っている葵。環樹も笑って駆ける。

〇(回想)桑名小学校4年2組教室
   葵(10)が教室に入ろうとやってくる。
環樹の声「だからちがうって!」
   驚いて開いた扉から教室を覗き込む葵。
環樹(10)が男子A、Bと話をしている。
男子A「だってこの間言ってたじゃん。なあ?」
男子B「うん。うちに泊まった時」
環樹「あれは、俺も誰か言わないといけない空気だったから……」
男子A「でも、今日も一緒に帰るんだろ?」
環樹「だから、今日はゲームすんだって」
男子A「一緒にいたいからだろ?」
環樹「だからぁ!」
葵「なんの話?」
   葵が教室に入る。
男子B「あ、佐倉だ」
男子A「環樹が佐倉の事好きなんだって」
   ニヤニヤしている男子A、B。
葵「……え?」
   環樹を見る葵。
環樹「バッ、ちげえよ! お前らふざけんな!」
   環樹が男子Aを蹴る。
男子A「いたっ! 蹴んなよ!」
環樹「変なこと言うからだろ!」
男子A「お前が言ってたことだろ!」
環樹「うるせえっ!」
   環樹、また蹴る。
男子A「いてぇだろ!」
   男子Aも蹴り返し、蹴り合いになる。
   環樹の肩を掴んで停める葵。
葵「やめなって! 環樹!」

〇(回想終わり)佐倉家・葵の部屋(夜)
葵「好きなのかなって思っちゃった時もあったけど、まさか逆だったとは……」
   横に置いていたスマホを持ち、環樹とのチャットを開く。
   前回の履歴は二年前、『町内会の餅つき大会延期になったって』という葵からのメッセージ。
葵「……」
   メッセージを打ち始める。
   『なんで私のこと、嫌いになったの?』
葵「……やめとこ」
   送信ボタンは押さず、手を下ろして大きく溜め息を吐く。

〇志摩家・前
   車の前で志摩正則(43)と志摩美紀(40)が玲奈と佐倉誠司(40)と話している。
誠司「こんな田舎から東京に引っ越したらカルチャーショックだろうなあ」
正則「正直不安だよ」
誠司「そんなこと言って、夜遊びにハマるんじゃないぞ」
正則「バカ、美紀の前でなんて事言うんだよ」
   笑っている4人。
   葵は周囲を見回し、場を離れる。

〇海岸沿いの道路
   海を眺めている環樹。葵がやってくる。
葵「環樹」
   環樹はビクッとするが振り向かない。
   葵は小さく息を吐く。
葵「せっかく同じ高校になったのに残念だけど、東京でも元気にやりなよ」
環樹「……」
   沈黙が降りる。葵、眉間に皺を寄せる。
葵「ねえ、最後までそれはないんじゃない?」
環樹「……あ?」
葵「私が何したか知らないけど、それだったら言ってくれたらよかったじゃん。何も言わないで腹立ててさ、そういうの卑怯だよ」
環樹「……何言ってんの?」
葵「だってずっとそうじゃん。目も合わせてくれないし話もしてくれない、最後だから言うけどさ、私だって傷ついてたんだよ? 私が何かしたなら言ってくれればいいじゃん。どうしてそうなっちゃったわけ?」
環樹「ちょっ、待て待て……。葵、傷ついてたのか?」
葵「当たり前じゃん。傷つかないわけある? そりゃ腹も立ったけど、辛かったんだから」
環樹「……そっか」
葵「ねえ環樹、私なにしちゃったの? そんな嫌われるようなことちゃった?」
環樹「……いや、してない」
葵「……え? じゃあなんで?」
環樹「……」
葵「あ~もうなんなの? なに? やっぱり理由も言いたくないわけ? ならもういいよ。よかったね。私と離れられてせいせいするでしょ」
環樹「いや、ちがう。そうじゃない」
葵「ちがくないでしょ。じゃあなんなのよ」
環樹「それは……」
葵「それは?」
環樹「……だよ」
葵「……え?」
環樹「好き避けだよ!」
葵「……え? 好き避け?」
環樹「俺だってわかんねえよ! でもなんか、話せなくなっちゃったんだよ!」
   環樹、そっぽを向く。
環樹「妙に意識しちゃってさ……。女らしくなってきたなって、そう思ったら、なんか、前みたいには話せなくなっちゃって……」
葵「えっと……」
   環樹の目は潤み、頬は染まっている。
葵「……ホントに?」
   そっぽを向きながら頷く環樹。
環樹「前に、からかわれたことがあっただろ? あの後くらいから、おかしくなっちゃって……。それで調べてみたらさ、こういうの『好き避け』っていうらしい。それで気が付いたんだ、俺、葵のこと好きなんだって……」
葵「……ぅ」
   葵も頬を染める。
環樹「お、俺だってこんなの言うつもりなかったけど、傷ついてたなんて言われて言わないわけにいかないだろ!」
   沈黙が降りる。
   波音が響く。
葵「……プッ。クク、ハハッ!」
環樹「え?」
葵「ふざけんな」
環樹「いてっ」
   葵が軽く蹴りを入れる。
葵「私がどんだけ悩んだと思ってるわけ?」
環樹「いや……ごめん」
葵「ごめんで済むか」
   また軽く蹴りを入れる。
環樹「だからごめんって!」
葵「あー、でもそっか。そうだね、そういうところあったかも。不器用というかナイーブというか、そっか……そうだったんだ」
環樹「……ホントごめん」
葵「もういいよ。思わず笑っちゃったし。じゃあべつにチャットも電話もしていいんだよね? 休みには戻ってくるの?」
環樹「うん、戻ってくる」
葵「じゃあこれでお別れってわけじゃないね。……私もそうしたいし」
環樹「え? それって……」
   環樹が目を見開いて葵を見る。
葵「まあ、彼氏できてるかもしれないけどね」
環樹「……んだよ」
   笑う葵。

いいなと思ったら応援しよう!

遊木さく
励みになります!ありがとうございます!LOVE!