「看護師を辞めたい」と思ったらやってみてほしいこと
医療機関で看護師採用の支援をしていると離職の問題も目の当たりにします。様々な離職理由のなかで意外と多いのが「看護師を辞めたい」というもの。
「せっかく苦労して国家資格を取得したのにもったいない」と思ってしまいますが、看護師の過酷な労働環境を見ていると、それも仕方なく思えてきます。
看護師の労働環境が過酷になりやすい背景
・夜勤による不規則な生活
・命を左右する仕事のプレッシャー
・女性比率が高いため産休・育休が多く、常に十分な人員補充を行うことが難しい
・一般より有効求人倍率が高く、採用による人員補充に時間がかかる
・人員補充が難しいので残業が増えやすい
・医師、看護師、介護職、リハビリ職、患者、患者家族など、仕事で接する人数が多く、人間関係の問題を抱えやすい
しかし、実際に「看護師を辞めたい」と言ってきた人たちがみんな看護師を辞めているかというと、そういうわけでもありません。勤務病棟を変えるだけでストレスが減ったり、別の施設でいきいき働いていたり、パートの看護師と副業を両立していたりします。
なぜ看護師をやめなかったのか?どうやって辞めたい気持ちを乗り越えたのか?副業はどうやってはじめたのか?
このあたりの実例やアイデアは「看護師を辞めたい」と思う方の参考になると思ったので、本記事にまとめます。どなたかのお役に立てば幸いです。
①現状維持を選ばない
まず、「看護師を辞めたい」と思ったときに何もアクションしないことだけは避けましょう。キャリアの不満を解消した人に、我慢して周りが変わるのを待っていた人はほとんどいません。どんなに小さなアクションでも良いので変化が必要です。
具体的には、キャリアに関する本を読む、転職体験のブログを読む、転職経験のある知人に相談する、悩みを紙に書き出してみる、など小さなことで構いません。
これで自分が進む方角を1度でもずらしましょう。はじめはたった1度のずれも長距離を進むにつれて大きなずれになり、まったく異なる目的地に到着することになります。今と同じ方角に進んでいたのでは何も変わりません。
仮に「このまま我慢して働き続ける」という結論になるとしても、自分でアクションして考えて得た結論と、何もせずに惰性で引き受けた結論とでは、その後の心境がまったく異なります。その意味でも何かひとつアクションを起こすことが得策です。
②他施設での看護について学んでみる
「看護師を辞めたい」と言う方のほとんんどがひとつの病院での看護しか経験していませんでした。もっと言うと、ひとつの病棟しか経験していない方も多く、多岐に渡る看護のほんの一ケースを経験して挫折した状態にありました。
そんな彼女ら(彼ら)を救ったのは、多くの場合、これまでの異なるケースでの看護にチャレンジすることです。
急性期度合いが高い病棟から回復期や療養期の病棟への異動、訪問看護ステーションへの転職、介護施設への転職、産業看護師としての企業への転職などなど。
まったく異なる視点で看護を捉えられるようになったという感想を数多く聴きました。
私も仕事柄、様々な施設における看護について勉強していますので、参考になる本をいくつかご紹介しておきます。まずは今とは異なる機能の病棟や施設に移った際に、どのような看護に携わることができるのか学び、視野を広げてみるのはいかがでしょうか。今とはまったく異なる看護への関心が芽生えるかもしれません。
③悩みを書き出してみる
私は求人サイトで看護師の転職支援にも携わってきましたが、多くの転職希望者は自分の悩みや実現したいことを言語化できていませんでした。何度か面談を重ねるうちに、徐々に思考が整理され、解消したいことや実現したいことが明確になっていく場合がほとんどです。
このように、悩んでいるのにその悩みを言葉で表現できない、ということはよくあることです。まずは自分の悩みが何なのか、言語化して整理してみると悩みがすっきりしたり、進むべき方向性が見えてくることがあります。
まずは自分が考えていることや悩んでいることを紙に書き出してみましょう。書き出す際は、以下の順序で行ってみてください。頭の中を整理しやすくなると思います。
①悩みを書き出す
②悩みを発生させている原因を書き出す
③それぞれの原因について、自分の取り組み方で解消できることと解消できないことに分類する
④今いる環境で自分の取り組みを変えるべきか、別の環境に移るべきかについての考えを書き出す
⑤今いる環境で自分の取り組みを変える場合、取り組み内容と取り組み期限を書き出す
⑥別の環境に移る場合、同じ悩みが発生しにくい環境の条件を書き出す
また、悩みの多くが人間関係に関連する場合、認知行動療法について学ぶこともおすすめです。人から言われた発言に対して過度に反応したり、過度にマイナスに捉えたりする傾向を緩和できます。こちらの本は漫画を交えて認知行動療法についてわかりやすく解説されています。
④コーチングを受けてみる
悩んでいるのにその悩みを言葉で表現できない、という課題に対しては人に悩みについて話すこともおすすめです。
人に説明をしていると、自分の中でも頭が整理されたと感じることはないでしょうか。人間には頭の中にある感情や情報を言葉にすることで自己認識が深まる側面がありますし、相手からの質問や感想に答える中で自分の思考が及ばなかった部分まで整理されていきます。
こうした利点を取り入れるために、最近多くのビジネスマンが利用しているのがコーチングです。月に一回一時間程度、プロのコーチと面談し、自分の悩みや目標、それらに対する活動等について会話します。コーチは思考を促す質問や矛盾がある点についての客観的な指摘をしてくれるので、自分の悩みや目標がかなり整理されます。
私も利用していますが、ある意味「赤の他人」と会話できることが利点だと感じます。知人に悩みを話す際はどうしても見栄を張ってしまいますし、人材紹介会社のカウンセリングは転職を促す方向でのコメントが多く、偏りが出てしまいます。自分の気持ちをフラットに見つめるにはコーチングは力強い手段です。
最近ではオンラインでのコーチングが増えていますし、初回は無料で受講できるサービスもあります。ぜひ一度試してみてはいかがでしょうか(主要なサービスを載せておきます)。
⑤求人サイト・転職サイトのキャリアカウンセリングを受けてみる
「悩みを解消するために環境を変えるべき」という考えなのであれば、求人サイト・転職サイトに登録してキャリアアドバイザーのカウンセリングを受けることも検討してみてください(基本的に無料です)。
大手企業の求人サイトでは月に数百~1,000名程度の転職を成立させています。あなたと似た悩みを持つケースを何度も扱っているはずですので、過去の実例をもとにしたアドバイスが期待できますし、他の施設形態に移るメリット・デメリットも教えてもらえます。
ただし、彼らは看護師の転職を成立させてやっとお金をもらえるビジネスをしています。あからさまに転職斡旋を行うことはかなり減っていますが、どうしてもバイアスはかかってしまいます。こちらの記事を参考に彼らのビジネスを理解したうえで利用することをおすすめします。
また、求人サイト・転職サイトはどこも同じような見た目ですが、運営企業の規模やサービスの品質はピンキリです。選び方についてもこちらでまとめましたので気になる方は参考にしてください。
求人サイト・転職サイトに登録するとしばらく電話やメールで連絡が来ますので、そこまで本格的に支援を受けたくないという人は各都道府県に設置されているナースセンターで相談してみるのも一つの手です。企業と比べると体制が厚くなく、転職市場の最新情報では劣りますが、親切に対応してくれます。
⑥履歴書・職務経歴書を一日一行書いてみる
「他の環境に身を移すべき」ということが明確になっても、そこから前に進めない方は意外と多いです。そのボトルネックのひとつが選考書類の準備です。
実際、求人サイトに登録してきても、書類準備がめんどうになって離脱してしまう属性が一定存在します。日々仕事に追われる中で履歴書や職務経歴書を準備することは意外とエネルギーを要します。
いざ転職活動を始めるとなっても、書類の準備で停滞してしまうこともありますので、少しずつ準備しておいてはいかがでしょうか。本当に小さなことですが、「自分は環境を変えるために動いている」と意識できる取り組みでもあります。
基本的にはパソコンなどでデータ入力しておき、手書き書類が必要なときは書き写すだけでOKという状態にしておくと、魅力的な求人に出会えたときにすぐに動き出すことができます。
⑦副業の下地づくりを始めてみる
副業を始めること自体はハードルが高いかもしれませんが、副業の下地となるスキルを磨くことで本業がうまく回り出したという人も少なくありません。
私自身もそうでしたが、「いざとなったら別のキャリアを進める」「本業以外に熱中できるものがある」と思えるだけで、精神的に楽になりますし、副業に取り組むことで視野が広くなり、本業の狭い世界でのゴタゴタがどうでもよくなったりします。看護の世界は専門的な一方で閉鎖的にもなりがちです。少し視野を広く持てるだけでも、本業の見方が変わるのではないでしょうか。
副業に関しては「何から手を付けたら良いのかわからない」というのが問題です。周りにモデルケースも少ないので、相談できる先も限られています。
まずはWeb上で開始できる通信講座やスクールでどのようなスキル習得が選択肢になるのか調べてみることをおすすめします。
私の知人はSHElikesを参考にしている方が多いです。「女性のためのクリエイティブスクール」を謡っており、オンラインで身につけてオンラインで受託しやすいスキル研修がメニュー化されています。
SHElikesさんの公式noteで実例が具体的に載っていました。参考になりそうなのでよろしければ。
最後に
「看護師を辞めたい」と思ってもいきなり他の業界に足を踏み込むのは簡単ではありません。看護経験が活きるビジネス職もありますが、当たり前ながらビジネスの知識やマインドセットが求められます。そういう意味では、まずは看護師であり続けながら進む方向を変えていくことが現実的な手段です。
また、安易に転職したり、派遣看護師として働くことも後悔する可能性が高いです。「転職ガチャに失敗した」という方の多くは、自分の悩みや不満の棚卸を十分にしていませんし、転職先も厳選できていません。
まずは、自分の悩みや不安を整理し、他にどんな選択肢があるのか視野を広げる活動をしてみてはいかがでしょうか。その際に本記事が少しでも参考になれば嬉しいです。