ごはんを炊くという至福の時間


朝、7時。


ダイソーで330円で買った
ステンレス製のボウルに、
お米をはかりとる。


うちには、一合マスも
計量カップもないから、
プロテインシェイカーを使っている。


すくいとる量は、200mL。


だいたい一合程度だ。


きっちりはかると面倒だから、
だいたいで。


ボウルに入れたそれを
たっぷりの水であらう。


最初は、
ざっとかき混ぜて
すぐに水をすてる。


こうしないと、
米ぬかの臭いが
米についてしまうらしい。


次に、
また水をたっぷりと入れて、
ざっざっと、
かき混ぜるようにあらう。


今度は少し長めに。


そうしたら、
また水をすてる。


このときは、できるだけ
水をすて切るようにする。


そうしないと、炊いたときに
お米が柔らかくなりすぎるからだ。


炊飯ジャーで炊くならば、
そこまで気にする必要はない。


お釜にラインがついているから。


しかし、
うちには炊飯ジャーなる
文明の利器はない。


ピッとボタンを押すだけで
ごはんを炊いてくれる
便利な相棒はいない。


うちの相棒は、フライパンだ。


ニトリで買った、
二千円強の深底フライパン。


500mLと1,000mLのラインはあるが、
炊飯用のラインは引かれていない。


だから、水切りは重要だ。


しっかりと水を切ったお米を
フライパンにうつす。


炊飯用の水を注ぎいれる。


水をはかりとるのは、
これまたプロテインシェイカー。


これで、240mLをはかりとる。


とはいえ、
プロテインシェイカーについている
目盛りは、50mLごとなので、
250mL弱をめざして水を注ぎいれる。


ちょうどいいところで水をとめ、
台所の窓ぎわにある
一段高くなっているタイルの上に
プロテインシェイカーを置く。


250mLのラインの
3mm下あたりに水面がある。


まあ、こんなものだろう。


そんなノリで、
お米を入れたフライパンに
水を注ぎいれる。


あとは、
フタをして30分待つ。


今は暦の上では秋だが、
まだまだ残暑がきびしい夏だ。


だから、
30分でお米はじゅうぶんに水を吸う。


読書をしたり、
ごろんと横になって
その時間が来るまで過ごす。


本当なら、別のおかずや
お味噌汁の準備などをすれば
いいのだろう。


だけど、あいにく、
うちの調理器具は
あのフライパンだけなのだ。


だから、お米が炊けるまで
何もすることはできない。


ペラリペラリと本をめくるか、
音楽を聴きながら横になっている。




30分がたったら、
フタを開けてお米の状態を確認する。


うっすらと透き通っていたお米が
白くなってふっくらとしていたらOK。


水を吸い切った証拠だ。


再びフタをフライパンにかぶせ、
カセットコンロに火をともす。


最初は中火。


こうして沸騰するまで待つ。


強火でやってもいいのではないかと
思われるかもしれない。


しかし、強火は厳禁と
フライパンに書いてある。


だから、中火にかける。


ほどなくして、
フツフツという音を立てはじめ、
それがどんどん大きくなってくる。


鍋ブタについたガラスの窓から
中をのぞくと、
大きな、少し粘り気のある泡が
モコモコとわき出してくる。


それが鍋ブタの天井につき始めると、
次なる逃げ場をもとめて
フタとフライパンのふちの方に
広がっていく。


そのときを見はからって、
コンロのつまみを回す。


弱火の弱火、
消えかける寸前まで
火を弱くする。


これをおこたると、
吹きこぼれがおきて、
フライパンとコンロの掃除に
手間がかかる。


掃除はあまりしたくないので、
ここは気をつける。


ふきんでコンロの汚れをふきとったり、
スポンジでフライパンの外側を洗ったり
すればいいだけの話だが、
その微妙な手間が嫌なのだ。


だから、
沸騰するまではコンロの前から離れない。




火を弱めたら、
あとは10分ほどそのままで放置する。


こちらがすることは待つことだけだ。


その時間、また読書にもどってもいい。


しかし、僕はその場に
居のこり続けることがよくある。


なぜなら、
ごはんが炊きあがるまでの様子を
ながめるのが好きだからだ。


鍋ブタの窓からなかをのぞくと、
泡の変わりようがみえる。


最初は大きく膨らんでいたのが、
少しずつ小さい泡になっていく。


モコモコがポコポコとなり、
それが次第にプチプチとしてくる。


そして、
ほのかな甘い香りが漂いはじめる。


まるで、
夏の田んぼのわき道を
歩いているときのような
甘い香りが漂ってくるのだ。


なんともいえない
幸せな気分になってくる。


ほんのりふんわりとした
なんともいえない
ゆっくりとした甘い香り。


それを嗅ぎながら、
炊きあがるのを待つ。


とても豊かな気分になる。


さらにじっと見ていると、
プチプチとした泡がプツプツとしてくる。


それが見えなくなると、
炊きあがりが間近になってくる。




もう2分くらい待つ。


そうしたら、
フタを開けて
箸でごはんをほんの少しすくいとり、
口のなかに放りこむ。


数回かむ。


じんわりと甘みがする。


これまた至福のときだ。


そうしながら、
ごはんの水っぽさを確認する。


まだ水っぽいなら、
フタをしてさらに数分、火にかける。


ちょうどいいなら、火からおろす。


ここのさじ加減は
けっこう気をつかう。


なぜなら、
おいしいごはんを食べたいからだ。


水っぽいごはんは嫌だし、
おこげのあるごはんも嫌だからだ。


おこげがあると、
噛んでいるときに歯につまる。


だから、よくかむのをしたくなくなって
ごはんをかむ楽しみをうばわれる。


それが嫌なのだ。


だから、
この工程はものすごく気をつかう。




炊きあがったごはんは
箸で底のほうからすくいあげて、
上と下とを入れかえるように混ぜ、
ふたたびフタをして10分待つ。


これが蒸らし。


なんでするのかは知らない。


それが終わったら、
ようやく食べられる。


お味噌汁もつくるなら、
ごはんを茶碗がわりのボウルにうつして、
フライパンを空にする。


それからつくる。


お味噌汁ができるころには
ごはんがやや冷めている。


でも、
僕は猫舌なので、ちょうどいい。




食事の時間。


うちには
あいにく冷蔵庫という
文明の利器がない。


なので、
卵も魚も漬物もない。


あって、塩こんぶとふりかけくらいだ。


それで食べる。


食べる場所は縁側。


畑を見ながら、
朝の風を感じつつ食べる。


ごはんとお味噌汁しかない
質素な食事ではあるが、
ゆったりと食べるおかげか
ふしぎと満足感がある。


正直なことを言えば、
つけものとお味噌汁に具がほしい。


涼しくなったら、
ぬか漬けでもつくろうかな。


あと、わかめを買ってこよう。





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