夫婦の会話の言語学:言語学者の家庭変4
以下は創作です。大阪弁はなんちゃってです。
妻:スイデンのなんちゃらってあった?
夫:え、なんのこと?
妻:よだれが垂れるやつ。
夫:よだれ???
妻:なんか、うらやましいとかすばらしいとかあるやんか。
夫:垂涎(すいぜん)のこと?よだれが垂れるという。垂涎の的とか垂涎のまなざしとか。なんでそんなん知りたいの。
妻:サークルのみんながハイキング行くていくてゆうてんねんけど、私はいけへんから、うらやましいなあとか言うのをスイゼンやなあて言えるの。
夫:そら言えへんやろ。「垂涎の的」やったら「その対象の性質として、いいとか高いの性質から欲しくてよだれがでる」言うことやで「そのピクニックはよだれがでるほど行きたい」とか言うのはたまたま行かれへん言うてるだけやから、そのピクニックの性質とは言えへんで。
妻:なんでやの、「ピクニックよだれ出るほど行きたい」て言えるやんか。皆がピクニック行くのうらやましいわ、わたしも行きたいのにっていうの、スイゼンやわーって言わんの?
夫:うーん、少納言引いてみよか。
妻:なにそれ?
夫:国語研のコーパス。実際の例を集めて、その表現がどうやって使われてるか調べられるようにしてるもの。中納言は登録せな使われへんけど、こういう難しい漢語引くだけやったら、登録のいらん少納言いうのがあんねん。引いてみよか。
夫:おもったより、用法広いなあ、だいたい買えないものとかを羨ましがってるみたいやけど、「それって垂涎の企画やなあ。私も行きたいわ」なら言えるかなあ。でも、それは企画を羨ましがってるので、「そんな立派な企画、わが社ではできんわ」という場面かなあ。単にサークルのピクニックに「垂涎のピクニックやわー」て言って、「私も行きたいわ」て意味にはなりにくそう。ほかのサークルが自分とこと比較してるみたいな感じがするけど。
妻:なるほど。
夫:そんなんより、なんでそんなふうに言いたいの?「うらやましいわー、私も旦那の世話せんでいいなら行きたい」ぐらいやったらあかんの。
妻:なんか、かっこいい言い方したいやないの。
夫:かっこいいて、言うけど、垂涎やで、よだれたらすほどうらやましいんやで。そんなんかっこええことないと思うけど。
妻:そういわれたらそやなあ。あんた、ものしりやなあ、学者できるんちゃうか。
夫:(学者なんやけど)はいはい。僕二時から会議やし、はよ昼ご飯して。
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