グランドサービスの第一歩はクリーニングでした
グランドサービスのスタッフは、航空機や空港が大好きな人たちです。
パイロットやキャビンアテンダントに憧れて受験したものの叶わず、地上職に就いている人も少なくありません。そんな、たとえ空で仕事ができなくても航空業界に関わりたいと思う人ばかりです。
今回は、私の経験をお話しします。
私が元演劇部であることは前回お話しした通り。演劇(の裏方)とグランドサービスには共通点がある、そのことに気づいたのは学生時代に見た洋画がきっかけです。空港を舞台にしたアクションもので、実は映画館ではなく深夜テレビで見たんですよね(笑)。だからタイトルも覚えていないんですが、刑事が空港から高飛びしようとする指名手配犯を捕まえるというストーリーでした。そのとき刑事に力を貸したのがグランドサービスの人たちで、個性豊かな面々が絶妙なチームワークで犯人を追い詰めるんです。同時に、専門技能を持つ多くの人たちがお客の見えない場所で航空機の運航を支えているシーンも描かれていて、これは演劇に似てるなあと。
それで、今のグランドサービスの会社の試験を受けて入社しました。面接でもその映画の話をしたんですよ。面接官の人も映画好きで、とても盛り上がったのを覚えています。
入社して、私が最初に配属されたのはクリーニングの部署。といっても服を洗うのではありません。機内清掃をする係です。
今だから言えることですが、最初に配属先を聞いたときはがっかりしました。だって、これでも一応大学を出てるんですよ。清掃なんて、施設や遊園地ならアルバイトがやる仕事じゃないですか。
私のその生意気な鼻っ柱は、一日目に叩き折られました。
航空機が空港に着いてお客様をおろしたら、清掃スタッフが乗り込んで掃除機をかけます。同時に手際よくシートを一つ一つチェックして、汚れや破損がないかを確認し、シートの背に差してある機内誌やアメニティグッズを補充していきます。
正確な作業が求められるのは当然ながら、この仕事は常に時間に追われています。1秒でも早く作業を終わらせるために、スタッフには無駄な動きが一切ありません。だから動き方が理にかなっているし、それこそ手を伸ばして引っ込めるストロークすら無駄がない。連携もシステマチックで、ほとんどスポーツのようでした(実際、先輩たちもスポーツ感覚で清掃していると言っていました)。
研修中の私は、作業する先輩たちに見とれていました。それは最高にインテリジェンスを感じる作業でした。ごめんなさい、プロのクリーニングをなめてました。
私はクリーニング部署からスタートして、その後いくつかの部署を経験しました。ですが、機内清掃の初日の衝撃は今でも脳裏に焼き付いています。そこにはグランドサービスの仕事のエッセンスが詰まっていたと思うから。
空港は、海外からの人々も含め多種多様な人や貨物が行きかう特殊な場所。そこを舞台に仕事をする私たちは、一人ひとりがプロフェッショナルです。はじめに「裏方」と言いましたが、裏方は「脇役」でも「その他大勢」でもありません。単にお客様から見えにくいというだけで、持ち場においては誰もが主役のプライドを持って働いています。
他の仕事と違うところと言えば、常に緊張感があって神経をすり減らすことも多い点かな。けれど、担当した航空機が無事に離陸したときの「やり遂げた」感はこたえられません。誰かの役に立っているという実感を得たい人にはお薦めの仕事だと思います。
ああでも、私をこの世界に引っ張り込んだあの映画、なんてタイトルだったんだろう…