美大小論文(多摩美)を教えて②〜方向性〜

哲学の領域の一つに、価値論というものがある。
その名の通り価値を論じるもので、「価値ある〇〇とは何か」を問う。

価値には複数の方向性があり、
正しさを考える倫理学や美しさを考える美学、
それから富やサービスの価値を考える経済学なんかも価値論に通ずるところがある。

そのうち倫理学における正しさとは、社会的な正しさである。
たとえば、人を殺してはいけないのはなぜかといった善悪判断や、
正義とは如何なるものかといった問いも倫理学の領域だ。

義務教育下の作文指導では、倫理に沿った形での解答を求められることがあり、教師の言うことを素直に聞いてきた学生こそ、小論文で倫理を論じがちだ。
しかし倫理のみで美大小論文の答案を作成してしまうと、出題意図からズレてしまう。

というのも、近年の問題には特に「あなたにとって」というワードで明確に表現されるように、求められているのは倫理的解答ではなく、受験者自身の思考、あくまで「あなたにとっての〇〇(価値観)」なのだ。

つまりこれは、「あなたにとっての強さ」だとか「あなたにとっての役に立つ」とか、あなたが何に感動する人なのか(美学寄りの思考をして)、教えてねー、というメッセージである。
(※とは言っても美学者にならない人も受験する教養科目なのだから、極端な美学的専門性を求められるわけではないのだけど。)

もちろん倫理的な思考に100%影響されないということはないだろう。
その場合、具体例や更なる理由説明で自身に引き寄せた文章とすることで、あなたにとっての美大小論文として完成させることができる。

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