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『はな恋』イヤホンの意味-LとRの二項対立-
映像クリエイターの優希です。
大ヒット映画『花束みたいな恋をした』2本目の記事になります。僕、この映画大好きでした。どのセリフをとっても、どのシーンをとっても、本当に無駄のないき綺麗な映画です。今回は、この映画の重要なキーワードとなっている「イヤホン」について紐解いていきます。
※ネタバレをおおいに含みます
予告編は下記より。
https://www.youtube.com/watch?v=I7BIENRbF2g
イヤホンの意味
この映画には、あるテーマが主軸としてあります。それは、「恋愛とは、2人で1つではなく、2人で2つである」ということです。同じものを見ているようで、実はそれぞれ感じ方や考え方は違い、それに気づかないふりをしているとすれ違いが起こってしまう。
このテーマが、LとRから違う音が出ているステレオのイヤホンに象徴されて、描かれています。よくカップルが一つのイヤホンをLとRで分け合って音楽を聴いていたりしていますね。同じ音楽を聴いているようで、実はLで聞いている彼と、Rで聞いている彼女とでは別の音を聞いている。その様子を恋愛と紐づけて表現しています。
菅田将暉と有村架純は、お互い共通の趣味が多く、気が合い結果的に付き合うことになります。しかし、学生から社会人になるにつれて、2人の中で生活や生き方に対する価値観にすれ違いが生じ、最終的に別れてしまいます。なぜ、このような結果になってしまったのでしょうか。
2人が別れた理由
僕は、人生の段階を進むにつれて価値観にすれ違いが生じるのは仕方のないことだったと思います。しかし、2人の関係が続かなかったのは、お互い自分の本音や、2人の生活にかかわる大切なことに対して意見交換をしなかったからのように感じました。菅田将暉が就活を始めるときも、有村架純に対して相談ではなく宣言でした。有村架純が転職するときに至っては、会社に辞めることを報告した後にばれるという形でした。その出来事がきっかけで起こった喧嘩でも、どちらも気を使い、結論も出ず、すり合わせもできないまま終わります。告白のシーンが直接ではなくスマホ越しだったのは、趣味の話では盛り上がるけど、大切な本音だったり意思を正面からぶつけられない2人を象徴しているように感じました。
同じ相手と長く付き合っていたらすれ違いが生じてきます。まだ付き合って日が浅く、お互い好きな気持ちが前面に出ていたら、その違いというのは気にならないでしょう。しかし、だんだん恋人から家族という存在に近づくにつれ、そういうわけにもいかなくなってきます。そのときに有耶無耶にするのではく、お互い別の人間で他人なのだから、しっかり向き合い、折り合いをつける場所を模索しなければならない、というのがこの映画のテーマだと思います。LとR(一人の人間と一人の人間)は独立して別々であり、別々の音(価値観)を持っていることを忘れてはならない、ということですね。
イヤホンから発展した2項対立
イヤホンのLとRの二つが菅田将暉と有村架純に例えられて表現されているように、物語のあちこちに対比構造が散りばめられています。映画を見た後にこの映画を語りたくなる人が続出している理由のひとつでもあると思います。これら一つ一つをピックアップしても充分に語れるのですが、今回はまとめてご紹介しましょう。
1.趣味の世界と現実の世界
二人が出会った趣味の世界(好き嫌い別れる言葉ですが「サブカルの世界」)と物語が進むにつれて菅田将暉の主戦場になる現実の世界。この2つの世界の存在が、二人のすれ違いのきっかけにもなってしまいます。
2.「責任のために働く菅田将暉」と「好きなことを仕事にしたい有村架純」
二人は仕事への価値観が大きく違いました。もともとは菅田将暉もイラストを描いて生きていきたいと志していたのですが、有村架純との現状維持(同棲生活)を続けるためにも仕事一筋になっていきます。その傍ら、給料は下がってしまうけど好きなことを仕事にするために転職をする有村架純。喧嘩の原因にもなってしまいましたね。
3.小説とビジネス書
今井夏子の『ピクニック』は二人のお気に入りの作品でしたね。しかし、ある日2人で本屋さんに行ったとき菅田将暉が手に取っていた本は前田裕二の『人生の勝算』。有村架純が面白そうな本を見つけて菅田将暉に声をかけようとするが、Newspicksど真ん中のビジネス書を読んでいるというシーンです。この本もめちゃくちゃ素敵な本で僕は大好きなんですけど、こういう使い方をするのかと驚きましたね。(笑)
4.「花の名前を教えない有村架純」と「お揃いのタトゥーを入れる先輩カップル」
女の子が花の名前を教えると、男の子はその花を見るたびにその子のことを一生思い出す。その前提の中、菅田将暉は有村架純に花の名前を教えてと尋ねますが、有村架純は教えませんでした。一方、菅田将暉の先輩カップルはお揃いのタトゥーを彫っています。タトゥーは一度彫ったら消えないですよね。有村架純がなぜ花の名前を教えなかったのかは、議論の余地がありますが、行為そのものをとってみたら対比の構造になっています。
5.先輩と菅田将暉
菅田将暉がアーティストとして尊敬する先輩がいます。「社会性や協調性は才能に毒だ」みたいなセリフが印象的でした。ある意味、常識のない、彼女に暴力を振るい、大人の仕事をさせ、自分は好きなことに没頭する先輩。そして、穏やかに生き、したくないことでも社会での仕事に一生懸命になる菅田将暉。憧れていた側面も沢山あったと思いますが、それと同時に自分はそうならないようにと思っていた部分もあるのではないでしょうか。
6.「お風呂で溺れる先輩」と「『社会はお風呂よ』と言う有村架純の母」
そんな先輩がお風呂で溺れて亡くなってしまいます。有村架純の母が二人のもとを訪れたときにプレゼンした「社会はお風呂のようなものよ」のセリフがここで効いてきますね。ものすごい皮肉の効いた表現で感動してしまいました。
7.ファミレスのお姉さんと菅田将暉
好きなことを仕事にしたファミレスのお姉さんは、ミュージシャンとしてどんどん有名になっていきますね。そして、かつてはイラストで生きていくことを志したが、日々余裕なく働きそのお姉さんの映像をスマホで眺める菅田将暉。切なかったですね。
7.仕事中にトラックを川に捨てちゃうと仕事仲間と菅田将暉
ある日、仕事中に「誰でもできる仕事なんてしたくなかった」とトラックを川に捨てちゃう仕事仲間が現れます。その対応のリーダーになってしまい夜遅くまで対応する羽目になってしまう菅田将暉。仕事は責任、人生は責任と言い聞かせます。心の中ぐちゃぐちゃになりそうです。
8.結婚する友人カップルと分かれる直前の二人
二人が別れる直前の場面です。友人カップルの結婚式に参加した二人はそこで別れることを心に決めます。友人からしたら、自分の結婚式で別れを決意なんかされたくないですけど、こちらも幸せそうな新婚と別れるしかないカップの対比になってますね。
9.ファミレスの二人と若いカップル
非常に印象的なシーンです。別れ話をしている二人の前にかつての自分たちを重ね合わせるような若いカップルが現れます。そして、いつも自分たちが座っていた席に座る。二度と戻れないその姿を前に2人は涙します。
僕が気づいてないだけでまだまだ沢山あると思います!!他にもお気づきの方がいたら教えてください!
終わりに
物語のテーマが一貫して通っている、どのセリフ、シーンにも意味がある。後から振り返ってみると本当に気の抜けない映画です。考察したくなる映画ですので多くの人が記事を上げていると思います。是非僕のでも、他の方のでもご覧になってみてください!
お読みいただきありがとうございました。