ピエトロドレッシングは、母と私の懐かしの味
「ピエトロ」というメーカーを知っている人はどれくらいいるだろうか。ご存知の人は、きっと九州かその近辺の出身の人が多いんじゃないかと思う。
「ピエトロ」は福岡市に本社を置く食品メーカー。レストランもあったり、パスタソースなんかもあるようだけど、一番有名なのはドレッシングだと思う。
ところで、私は生まれも育ちも東京だ。そんな私がなぜ「ピエトロ」を知っているか。それは、福岡出身の母が、いつも食卓にピエトロドレッシングを置いていたから。
母はきっと、地元の味が恋しくてたまらなかったんだろう
今、私は夫の仕事の関係で福岡に住んでいる。昔はよく親戚に会いに遊びに来ていたものの、住むのは初めてだ。
引っ越して初めて、晩ご飯の食材を買いに近くのスーパーへ行った時、ハッと気付いたことがある。母が作っていたものが、母が好んでいたものが、そこにはたくさんあった。
母の作るご飯が、福岡寄りであることは知っていた。冷蔵庫には明太子と高菜がいつも常備されていたし、皿うどんやちゃんぽん、福岡独特の柔らかいうどんはよくお昼ご飯として食べた。母と一緒に行くラーメン屋は、いつも豚骨ラーメン。豚肉より牛肉が多くて、ネギといえば白ネギより青ネギ。お正月には、あごだしとかつお菜が売られていない…とお雑煮を作るたびに嘆いていた。そして、食卓にいつも置かれていたのはピエトロドレッシング。
いざ自分が福岡に住んでみて、スーパーに並んだ食材を見て、あぁ母は自分が生まれ育った地元の味が恋しかったんだなぁ、としみじみ思った。特に、母が結婚して上京した当初は今ほど流通が整っていなかっただろうから、東京に「福岡の味」はほとんどなかったんだろう。豚骨ラーメンを食べた祖母(母からすると姑)に、牛乳入ってるの?と言われたなんて逸話もあるくらいだ。
私は「馴染みの味が食べたい」くらいのもんだと思ってたが、母はそれよりももっともっと、地元の味を切望してたんだろう。40年前に、一人故郷を離れた母の寂しさが少し分かったような気がした。
私は福岡生まれじゃないけど、福岡の味が懐かしい
そんな気持ちを抱きながら食品売り場を歩いていたら、目立つ位置に陳列されたピエトロドレッシングを見つけた。実家を出てからもうしばらくピエトロは使っていなかったけれど、つい懐かしくなって手に取った。
不思議だなと思った。私は福岡で生まれ育ったわけじゃないのに、この味を懐かしいと感じる。母が寂しさを埋めるために作っていた料理は、私が幼少期に食べた味として根付いている。
もう母は、昔ほどは福岡の味にこだわらなくなった。冷蔵庫にはたまに明太子があるくらいだし、ちゃんぽんや皿うどんを食べる頻度も減った気がする。牛肉にもそこまでこだわってないし、味噌汁には白ネギが入る。そして、ドレッシングもいつの間にか違うメーカーのものに変わっていた。
でも、今度実家に帰るときは、福岡のものをたくさんお土産に持って帰ろう。「そんなにいらないよ」って言われると思うけど、でもきっと、母は喜ぶだろうから。
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