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元カレが結婚した。

「久しぶりに会わない?」
20歳のころに別れた元カレから、4年ぶりに会おうと連絡がきた。
彼は中学の同級生で、共通の友人から話は聞いていたけれど、なんとなく会うことは避けていた。
何か会いたい理由があるのだろうなと思ったから、会おうと返信した。


彼とは、19歳から20歳の間、1年交際していた。
中学のころ、彼に片思いをしていた私は、未練がましく中学卒業後も定期的に連絡を取り、大学生になったころ、共通の友人を交えて会うようになった。
深夜まで続くLINE、複数人で会っているときにも合う視線に浮かれていたのは私だけではなくて、
数か月ほど経った頃、彼から告白をされた。

しかし、世間は新型コロナウイルスの流行が始まったばかり。
会うこともままならず、私たちはオンライン上で毎日やり取りをしていた。
ようやくデートらしいデートができたのは、交際して半年ほど経ってからだったと思う。

そのころ私は地元の公立大学に通う真面目な()大学生で、教員免許を取得するために毎日遅くまで課題に取り組み、その傍らでアルバイトにも精をだしていた。
一方彼は高校卒業後、就職をして、社会人2年目だった。
休日は少しでも会いたい彼と、課題をこなし、アルバイトをするのに必死な私の間にはすれちがいが生まれていたと思う。
加えて、勉強一本の高校生活を送ってきた当時の私には、恋愛スキルというものがまったくなく、可愛げのない女だった。
甘え方も知らず、一切の隙も見せず、指一本触れさせないような私はきっと彼にとってとても扱いにくかったのではないかと思う。
それでも、「いつもがんばりすぎなくらいがんばってるね。」「だいすきだよ」と声をかけてくれる彼のことが私は好きだったし、それなりに平和な交際期間だったと思う。
私が恋愛におけるすべてのはじめてを経験した、1年間だった。

別れた理由は、やはり価値観の違いが大きかったのだと思う。
必死で勉強して入学した大学で、少しでもいい成績を取ろうと躍起になっていた私をみて彼は「そんなにつらいなら勉強なんてやめれば?」
といった。
中学時代から勉強が苦手で、テストはいつも平均点以下、最下位争いをしていた彼らしい言葉ではあったけれど、当時の私のプライドにはほしい言葉ではなかった。
キスをするより、エッチをするより、勉強しなきゃ。
高卒の彼には、私の苦しみも努力もわからないんだ。
なぜかそう思い詰めていた私は、彼との関係を切ることを選び、お別れをした。
雪が降りそうな天気の中、別れ話をした公園で1時間近く号泣した。

家の前に迎えに来てくれる黒色の軽
お揃いで買ったSHIROの香水
クリスマスにプレゼントしたグレーのダウンと
もらったゴールドの揺れるピアス
毎日のように思い返した。
優しい彼には、私みたいな可愛げのない女よりも、
甘えん坊なふんわりとした女の子がいい。
そう何度も考えた。


それから4年がたって、私も何人かの人とお付き合いをした。
そして、今お付き合いをしている人と、次の春から同棲をすることになった。
きっと、この人と結婚するのだろうなと思っている。

会う約束をした日、
家に迎えに来てくれた彼の車は、もうあの頃の黒の軽ではなく、大きな黒いSUVになっていた。
乗り込みながら、車、かっこいいね。というと、
もう軽じゃないんよ。と彼は照れ臭そうに笑った。
車でたわいもない話をしているなかで、
「俺、結婚したんだ。」と言われた。
いやいや、本題、道中でいっちゃうのかい、と心の中でツッコミつつ、
車に乗ったときから気が付いていた左手薬指をみながら、おめでとう、といった。

そうか。こんな気持ちなのか。
うれしさでもくやしさでもない、
時間が経ったんだな。変わったんだな。という気持ち。
「わたしもね、今度、同棲するんだ。」
と伝えると、彼は少し驚いた顔をしたあと、
笑いながら、お互いに大人になったなあ。といった。


それからごはんを食べながら、結婚のこと、お互いの相手のこと、付き合っていたころのこと、だらだら話した。
今の相手はどんな人なの?という話題で、私のことを甘やかしてくれるけど、たまにけんかになっちゃうんだよね、というと、
「今の人はけんかができるのか。それは君がきちんと甘えて頼ることができている証拠だね。それ聴いて安心した。」と言われた。

そうか、と思った。
20歳の私は、たとえ恋人であっても、自分の弱みを見せることも、頼ることも、甘えることもできなかった。
それは、彼に対してどんなに残酷なことだっただろう、と今思い返してようやく気が付く。
苦しかったのはわたしだけじゃなくて、彼もそうだったんだな、といまさらながらに申し訳なくなって、なんかごめん。というと、俺が頼りなかったからしゃーない!と返ってきたので、そうだね、と言っておいた。

あのころのちょっと気の利かない彼はもういなくて、
当然のように車のドアは開けてくれるし、
冷房は直接当たらないようにしてくれるし、
ブレーキは優しくなっているし、
帰りたくないとぐずらずに私の帰る時間を気にしている。
あのころ、私が嫌で嫌で仕方なかったはずの優柔不断さも今日は感じない。

あのころの彼も、私も、もういないんだな。とすとんと心に落ちた。


おたがい、大人になったね。
素敵な相手に巡り合って、育ててもらっているね。
もし自分があのままあなたと結婚してたら…とはまったく思わないけれど、
これからも幸せでいてね。
わたしも幸せになるね。
たくさん成長させてくれてありがとう。






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