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"イーグルスがやってるアレ" は NFL で禁止されるのか?

稀代のフットボーラーであるチャールズ・ウッドソン (Charles Cameron WOODSON) でも、マンデーナイト・フットボールを観ながら感じたことは僕たちと同じだったみたいだ。「なんなのこのプレイ?」って。

"フィリー・プッシュ" でも "ハーツがやるアレ" でも呼び方はなんでもよいのだが、とにかくこの、オフェンスの選手を一ヶ所に全員集めて行うスニーク (QB sneak) の話だ。
ここのところイーグルス (Philadelphia Eagles) が短い距離のファーストダウン更新やタッチダウンを狙うとき頻繁に選択して猛威を振るっているこのプレイを知らない人のために説明しよう。

画面左が攻撃側。11 人全員が集まってセットしている

まず、上に示したように完全に密集した隊形を作る。
スナップと同時に OL が全員そろって前に飛び込む。
その後ろからボールを持った QB が一緒に突っ込む。
残りの選手はそれらを後ろから押す(この行為は昔は禁止されていた)。

そんだけである。本当にきわめて単純な、創造性のカケラもない退屈なプレイだ。
しかしこれが、単純なだけに受けにくい。あまりにも単純すぎて守備側に工夫の余地がないのだ。これ一発で 3 ヤードも 4 ヤードも出るわけではないが、「1 ヤード進めば十分!」という目標になると、それを防ぐのが物理的に不可能なのである。

フットボールは、攻める側はスナップが出るタイミングをあらかじめ知っているが、守っている側はそれがわからない。したがって、守る側の選手はボールが動くのを見てから動くことになる。この反射はかなり速い人間でも 0.1 秒くらいはかかるので、その間に先行されてしまう。
また、仮に守備側がなんらかの方法で出るタイミングを完全に知れると仮定しても、なお止めるのは難しい。守備側が本当に全員中央に集まったら、攻撃側は左右にボールを出す選択肢を得てしまうからだ。それを抑止するには、結局 11 人で押す攻撃に対して 10 人か 9 人くらいで瞬時に押し返さなければならない。守備側は人間の代わりに河馬かばを配置してよい、みたいなルールがないと、対抗するのは無理だ。

というわけで、このプレイはきわめて高い確率で 1 ヤードくらいは出る。ということは、ふつうのオフェンスと違って 4th & 1 で攻撃の継続を躊躇する必要がない。遠慮なく使えば 3rd & 2 なんかでもかなり安定してファーストダウンまで持っていくことができるだろう。
早い話、攻撃が簡単になる。ガンガン点が入るってわけだ。

たしかにケルシー (Jason Daniel KELCE; #62) のいうようにこのプレイはイーグルスだからうまくいくのかもしれないし、禁止はおかしいという意見も当然ありうる。しかし、結果がわかっているプレイを見守るほど退屈なものがあるだろうか? 勝負事は、紡錘形ぼうすいけいのボールと同じように次の瞬間どう転がるかわからないから面白いのではないだろうか。チャールズの「なんでみんなコレやんないの?」は、そういう意味だ。
フットボールは誕生以来、ひたすら点が入りやすいようにルールを改定されつづけてきたものの、それでも NFL はこのプレイについてはあまり好ましく思っていないようだ。すでに俎上そじょうには上がっている。あとは決断だけだ。

僕はこれは嫌いだ。物量にあかした飽和攻撃みたいなもので、面白さがない。
あなたはどう思うかな。


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