僕はこんなバカげた球団のファンになった (7)
おはようございます~。当です。
おいおい、僕が肩こりと頭痛で苦しんでるあいだにもう開幕してんじゃねーか。いつ終わんのこの不定期投稿? 一ヶ月もあれば書き終わるみたいなこと思っていたのにな。
前回のあらすじ
2014 年シーズンのパッカーズ (Green Bay Packers) は QB の故障にもスペシャルチーム (special team; 互いのキックとパントの際に投入される部隊) の脆弱性にもめげずレギュラーシーズン最終週をなんとか勝ちきり、#2 シードを得て本拠地にカウボーイズ (Dallas Cowboys) を迎えてのプレイオフ開幕となった。しかしその裏では、長年に渡って懸案事項であり続けている、統率の取れていないスペシャルチームの不吉な影がちらついていた……。
パッカーズのスペシャルチームについて
NFL は、よほどのマニアックでないとよそのチームの内情までは知らない。本当に。専門家でも運営に関してテキトーな予想を言うし、書く。さすがに NPB のほとんどの解説者たちほどデタラメではないかもしれないが、知らないものは知らない。
したがって、僕のようなただのファンならよけいに知っているはずがない。じゃあどうなるかというと、もっともらしい伝聞を書くことになる。
パッカーズのスペシャルチームというものは伝統的に――ちょっとどこで読んだか失念してしまったのでヨタ話として受け取ってほしいのだが――主力以外で構成されている。仕組みはこうだ。
まず、オフェンスのチームとディフェンスのチームが作られる。その中でポジションごとに先発級の力のある選手が頭角を現す。そのメンバーが固まってくると集中してスナップを取って練習する。こうしてオフェンスとディフェンスは固めた主力どうしで連携を高め、さらに高いレベルを目指していく。
一方、その中に残らなかった、悪い言い方をすれば二線級の選手を三々五々集めたものをスペシャリストたち (K、P、LS など) と合流させたものがスペシャルチームとなる。能力の高い選手は本来の持ち場で練習するのに忙しく、スペシャルチームには参加できない。
この注力する部分をはっきりとした分業制は何を生むのだろうか?
答は、練度の高い一線級と、それが欠けたときに穴埋めにならない控えという、プッ◯ンプリンなみに明確な二層構造だ。メンバーが揃っているときは相手を圧倒できるが、負傷者が重なると、何をしたらよいのかわからずプルプルしているだけの状態の選手がフィールドに逐次投入されてしまう。パッカーズ流スペシャルチームの実態は、構造的な帰結として生じるこのイマイチな部分を軽く煮詰めて三流のコーチをトッピングしたものと捉えるのがもっとも実態に沿う。
いまこの記事の時間は 2014 年だが、その後も 2021 年になってもいっこうに改善されない。この日進月歩の世界でこの長さの停滞はエグいなオイ。ええ、するってぇと、なにかい。スペシャルチームなんて NFL ではどうでもいいってことかい?
では、それを軽視したチームが何を払ったのかを引き続き振り返っていこう。
年が明けて
2015 年 1 月 12 日、パッカーズの本拠地ランボー・フィールド (Lambeau Field) には 79,704 人が詰めかけた。このチームのファンは、オフシーズンにチャリティーイベントでソフトボール大会をするぞといっても大挙して駆けつけるくらいには熱心だ。それがホームでの試合を全勝のままプレイオフを迎えたとなれば、気温が -4 ℃であろうと、もう立錐の余地もない。この満員の客席にカウボーイズのファンを探すのは、干し草の山を食べるラクダに針を刺す作業だっただろう。
先々週の試合で負傷したパッカーズの QB であるロジャース (Aaron RODGERS; #12) は、1 週空いたとはいえ万全には遠く、脚を痛そうにヒョコヒョコさせながらフィールドを走っていく。当然ながらプレッシャーをうまくさばくどころではなく、持ったまま走ることもてんから選択肢にない。こうなると、時間を稼いでのロングボム or スクランブル or セイフティバルブという 3 択を迫るいつものパターンにつなげるのは難しく、このシーズンのアウェイゲーム 8 試合を全勝という凄まじい成績を残してきたダラスが 9 勝目を積み上げる可能性は徐々に高まってきたように思われた。
しかし前半の残り 34 秒、14 ― 7 でリードしていたダラスはベイリー (Dan BAILEY; #5) の 50 ヤードのフィールドゴールをブロックされて 3 点を入れそこねると、パッカーズはこの自陣 40 ヤード地点から残ったわずか 29 秒とタイムアウト 3 つを活かして逆にフィールドゴールを決め 3 点を取り返し、本来なら 10 点差になっていそうなところを 4 点差とすることで、決定打を与えず前半をしのいだ。
ダラスの後半最初のドライブも、そのままならタッチダウンになるところをジュリアス・ペパーズ (Julius PEPPERS; #56 僕の大好きなプレイヤーだ……彼の話もいずれ書こう) がファンブルさせて防いだうえ、これもグリーン・ベイのフィールドゴールにつながって 1 点差。その後、両軍ともにタッチダウンで 7 点ずつを加えて 21 ― 20 と、ダラスの 1 点リードで最終クォーターへ向かった。フラッグ (yellow flag; 反則のときに投げ込まれる黄色い旗) が飛びまくり、双方ともにファンブルを繰り返す荒れた試合はどちらへ転ぶかもはや見当もつかない。
その最終クォーターに入る前後でロモ (Antonio Ramiro ROMO; #9 ダラスの名 QB。日本では "Destiny の人" で知られる) がたて続けにサックを受けてボールを手放すと、ロジャースが 7 本連続でパスを成功させて瞬く間にタッチダウン。残り時間 9 分 10 秒、21 ― 26 とグリーン・ベイがこの試合で初めてリードを奪った。そして、結果からいうとこれが最終スコアなのだが、じつはここからが 10 年近くが経った今日でもすぐに舌戦に火が点くハイライトだ。なんならもう 10 年よけいに経っても言い合っている可能性まである。
グリーン・ベイ陣 33 ヤード、4th & 2。ショットガン。第 4 クォーター、残り 4 分 42 秒。
2 ヤードだ。ほんの 2 ヤード進めばダウンが更新されてダラスは攻撃が続行できる。逆にもしこのドライブがタッチダウン以外で終われば、試合はほとんど絶望的だ。次のスナップにはダラスのシーズンそのものがかかっていた。
ボールが出る。中央でちょうどいい距離のビーズリー (Cole BEASLEY; #11) が空いているし、なんならその前を走るウィッテン (Jason WITTEN; #82) でもよさそうだが、ロモは目もくれない。強いパスを投じる。長い! 驚きだ、とりあえず 2 ヤードを目指すなんて我々のようなケチな考えは彼にはなかった。ターゲットは左側でシールズ (Sam SHIELDS; #37) と一対一になっているデズ・ブライアント (Desmond Demond BRYANT; #88) だ。ボールは悲鳴にも似た歓声を受けながら勢いよく奥へと飛んでいく。デズの身長は 6'2'' と特別デカいわけではないが、このプレイではジャンプのタイミングが素晴らしい。完璧な読みと完璧なボールと完璧なジャンプ。さしものシールズも完全にノーチャンスで、エンドゾーンへ残り 1 ヤード地点までのゲインを許してしまった! こうなればダラスの再逆転は確実で、あとは 1 点差か 3 点差をもう一度パッカーズのオフェンスが奮起して跳ね返せるかの勝負だ。
……と見えたのだが……。
次のプレイを始めようとするところで笛が鳴った。何だ? 負傷者か? 闖入者か? いやチャレンジだ。
パッカーズのヘッドコーチ、マイク・マカーシー (Michael John McCARTHY) が判定を不服としてチャレンジ・フラッグ (challenge flag; 赤いてるてる坊主みたいなやつ。タイムアウトをひとつ使用し、判定に対してレビューを要求する) を投げた。
対象はデズのキャッチだ。つまり「キャッチしてない」という主張だ。しかし、どこが? どう見てもデズは捕っているし、ボールが手から離れたのは捕ったあとさらに進みながら地面に叩きつけたときだ。
CM 明けて、注目の判定は……
ワォ! 判定は当初のパス成功からひっくり返った! いま 4th ダウンだったから、パスが不成功ならダウンによるターンオーバー、すなわちボールはパッカーズのもので、さっき述べたようにこれで試合はほぼ終わりということになる。ワォ。こいつはワイルドだ。デズも信じられないという顔で叫んだが、モニタの前のカウボーイズ・ファンはその百倍は怒鳴り散らしたはずだ。
しかし正直なところ、僕はリプレイを見た瞬間に「チャレンジするべき」と思ったし、おそらく判定は覆るだろうとも思った。
というのは、この年はパスに関するルールの適用具合が他の年と微妙に違っていた記憶があるからだ。もちろん僕の記憶が正しければの話だが……。
2014 年のルールブックを見ると、パスに関して (Rule 8, Section 1, Article 3) 2013 年のそれと何かが変わっているわけではない。フットボールはそもそもあやふやな判定が多いが、あっちで OK といわれたものが同時にこっちで NG といわれたら、それはみんな怒る。そこのところ厳格に運用していきましょうよ、となったのがこのころだった……ような記憶がある、気がする。確信はない。ハハハ、なにしろ昔の話だ。誰か覚えていたら教えてほしい。
で、肝心のルールそのものは、こうある。
訳せばこうだ:
「プレイヤーが地面に倒れるとき。プレイヤーがパスキャッチの最中に地面に倒れるとき(相手プレイヤーとの接触の有無によらず)には、インフィールドでもエンドゾーンでも、地面との接触の後をふくめてボールのコントロールを保持しつづけなければならない。もしボールのコントロールを失い、しかもそれを取り戻すまでにボールが地面に落ちたときにはパスは不成功となる。地面に落ちるよりも先にコントロールを取り戻せば、パスは成功である。」
これを見ればわかるように、デズのパスキャッチは「地面との接触の後をふくめてボールのコントロールを保持しつづけなければならない」の部分に抵触したため、インコンプリートだと判断されたわけである。この点については疑いがない。
したがって、このプレイにはルール上、紛糾する要素はない。
あるのは、どこまでをパスキャッチの一連の動作と見るかによって結論が分かれるという主観の問題だけである。「だけ」とはいったがそこが大問題で、あくまでも見た人間の感想でしかないから解決しえない。
要するに「ボールを両手で捕って着地したところでパスは完了」だと見ればそのあとは肘が先に着いているからカウボーイズのボールだし、逆に「飛びこんだところまでがパスの全体」だと見れば接地した瞬間にボールは手から離れているのでパスは不成功ということになる。
ただ、僕はこの年のどこかのゲームで「捕ったあとアウトオブバウンズに倒れ込んだ瞬間にボールが離れたのでパス不成功」という判定を食らい、「ナンデ!?」となった記憶があった。最後までボールを持っていないとパスは成功と認められない……前年までは同じような状況でもパスは成功扱いだったように思ったので、記憶に残っている。さっきの「あっちで OK のものがこっちで NG は許せん」という話だ。なので「これは覆る可能性がある」とマカーシーも踏んで、最後のタイムアウトとチャレンジ権を投入する勝負に出たことに違和感はなかった。結果が不成功の判定になったことにも納得している。
とはいえ念のために強調しておかなければならないのは、デズはパスを捕るのに苦しむようなレベルのレシーバーではないことだ。しかもボールを持ったのは利き手である左で、たまたま入ってヨタヨタしたとも考えにくい。つまり、当時からいわれているように捕ったあと余裕があるからついでにもう 2、3 ヤードくらい稼いでおくか、という感じで倒れ込んだように思える。
しかし判断としてはそこまでをパスを捕る過程だと捉えられてしまったわけで、結果からいえばこの「余裕」が仇になったのかもしれない。僕の個人的な見解としては、あれはキャッチだ。ただ、あのときの判定はそうではなかった。
またちょっと長いな! 続きは今度にしよう。