ワークショップのアイスブレイクで溶かすべきもの
ワークショップでは、プログラムの冒頭で参加者同士の「アイスブレイク」と呼ばれる活動を行います。「チェックイン」と呼ぶ場合も多いかもしれません。
多くの場合、自己紹介にアレンジが加わっているケースが多く、その日の活動を共にする参加者が、お互いのことを知り合う活動として行われます。単なる「緊張ほぐし」のように思われがちですが、アイスブレイクはワークショップの非日常性と、そこから生まれる学習と創発を担保するために重要な営みです。
目的を見誤って、単なる"仲良しレクリエーション"のような独立した活動を設定してしまうと、かえってワークショップのプロセスが途切れてしまうリスクもあります。以下では、ワークショップのアイスブレイクによって意識すべきポイント、何を溶かすべきなのか?についてまとめました。
1.固定観念を揺さぶる
ワークショップは非日常的なテーマ設定のもとで、日常を異化(慣れ親しんだ当たり前のものを、そうでないものとして相対化すること)する学習方法です。
それによって、日常の様々な経験を通して固着化してしまった暗黙の前提(信念、価値観、専門知識、習慣、ルール、常識など)が揺さぶられ、普段のモードでは考えつかないような洞察やアイデアを得られるところが、その魅力です。
アイスブレイクの役割は、参加者が日常から離れて、思考と身体を非日常のモードに誘うことです。したがって、いつもとちょっと違うモードで自分の経験を振り返ったり、あるいは自分が「当たり前」だと思っている暗黙の前提が場に可視化されるような問いを、自己紹介のお題に含めておくとよいでしょう。
2.集団の関係性を揺さぶる
ワークショップは、日常で形成されてしまった集団の関係性を揺さぶり、新たな関係性を構築したり、関係性の質を向上させるところにも、意義があります。
経営学者の宇田川元一先生は、著書『他者と働く-「わかりあえなさ」から始める組織論』のなかで、ロナルド・ハイフェッツの問題の整理を引用しながら、現代社会に積み残された多くの問題は、ノウハウで解決できる問題ではなく、集団の関係性の中で生じる問題であることを指摘しています。
これだけ知識や技術があふれている世の中ですから、技術的問題は、多少のリソースがあれば、なんとかできることがほとんどです。つまり、私たちの社会が抱えたままこじらせている問題の多くは、「適応課題」であるということです。
見えない問題、向き合うのが難しい問題、技術で一方的に解決ができない問題である「適応課題」をいかに解くか──それが、本書でお伝えする「対話」です。(上記の画像含め、https://cakes.mu/posts/27398から引用)
現代社会の課題解決にワークショップが重宝される理由もまた、この適応課題(集団の関係性の中で生じる問題)を解決するため、といっても過言ではありません。
したがって、参加者が日常の関係性をワークショップに持ち込んでしまっている場合には、アイスブレイクに普段の役割を背負った関係性では見えなかった意外な一面がわかる問いを入れるなどして、関係性に揺さぶりをかけたり、新たな関係性を編み直せるようなチームビルディング的な要素を入れる必要があるでしょう。
3.警戒と緊張をほぐす
最低限の要件として「緊張をほぐす」ことも重要です。
日常から離れて、非日常の世界に誘うワークショップには、一定の不安や警戒、緊張感を持って参加される方も少なくありません。参加の心理的安全性を担保できなければ、深い対話や、創造的なアイデアは期待でいません。
言語的な活動だけでなく身体を動かす活動を導入したり、笑いが起きやすい失敗談などをお題にしたり、お互いの自己紹介に拍手をするなど承認しあう空気を醸成したりすることで、緊張状態を緩和させるとともに、「場にどんな人がいるのか」を全体に可視化し、心理的安全を担保するとよいでしょう。
大事なことはテーマとの接続性
以上、ワークショップのアイスブレイクによって溶かすべき対象として1.固定観念、2.集団の関係性、3.警戒と緊張、について解説してきました。
大切なことは、日常で形成されたこれら3つの"アイス"に揺さぶりをかけながらも、アイスブレイク自体が自己目的化せず、きちんとプログラムデザインのなかで自然な流れになっていることです。冒頭で述べた通り、テーマと関連しないレクリエーション活動が独立して設定されてしまうと、参加者からすると「なぜこのワークをやらされなければいけないのか」「いま、自分たちはアイスブレイクをされているのだな」と感じ、アイスブレイクどころか活動に対する違和感とメタ認知が促進されてしまい、アイスブレイクは失敗してしまいます。
アイスブレイクの具体的なテクニックやTIPSを挙げればキリがありませんが、本質的に「なんのためにアイスブレイクをするのか」を考えながらデザインすることが重要であると思います。
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