【ライブレポ】釜山国際ロックフェス@サムラク生態公園(韓国)



2023年10月8日、曇天。
見事な灰色の空を仰ぎ「SPYAIR日和だ」と呟く。異国の言葉と屋台のサムギョプサルを焼く匂いが交互に五感を刺激する此処はそう、韓国・釜山。
ワタシはこの地に国境を越えた音楽を引っ提げやってくる4人のサムライを、日本から先回りして追い掛けるグローバルストーカー。
彼の地から遥か離れ、新たな歴史が刻まれる今日という日を目に焼き付ける為、大きく深呼吸をした。



【世界で一番盛り上がるのは何祭り?】
~釜山国際ロックフェス編~



言葉の壁に苦しみつつなんとかチケットを発券、11:00AMにゲートを潜り見渡した光景に早速度肝を抜かれた。

ステージがデカい……!敷地が広い……!

そう、釜山国際ロックフェスの会場に選出されたサムラク生態公園は湿地を併せ持つ非常に大きな公園である。釜山といえど釜山駅からは少し距離があり、ワタシは市バスでノコノコやってきた。端から端まで歩けば2,30分はかかるこの会場をゆったりと散歩するだけでも祭!という感じがしてワクワクする。「ワッショイ」と呟いた。


とりあえず公式グッズを買い、カップ飯なる韓国の軽食とホットドッグを胃に納め(どちらも非常に美味しかったです)現地アーティストの素晴らしい演奏にノッてみる。これが案外楽しい。全然言葉は分からないし曲も知らないので見様見真似だが、頭を振れば振るだけジモティー達が「なんだコイツ!?意外とやるじゃねえか!」という表情で祭りの輪に入れてくれる。サークルの中心に招き入れられジャパニーズ盆踊りも披露した。ややウケにて終了。SPYAIRのファンは頭がおかしいと思われたらどうしようと一抹の不安に駆られたが「一緒に写真撮ってよ!」とか言われて多分杞憂に終わった。頼む、杞憂であれ。

それにしても天気が安定しない。晴れたり降ったりを繰り返す自然公園の水溜りに困惑する蛙。舞台裏では雨男3名と雨回避男1名による壮絶なバトルが繰り広げられているに違いなかった。降り出せばSPYAIRを想い、晴れ渡ればまたSPYAIRを想う。同じような姿勢でころころと表情を変える空をスマホに映すSPYAIRファミリーの姿に、言葉は無くとも癒された。因みに本番中は見事に雨回避。YOSUKEさんの若い力に押されて雲は少しずつ遠くに離れていく。

待ち時間が非常に長いしどうしたものかと思いあぐねていたが、例によって今回も一瞬でSPYAIRの出番がやってくる。
現地のヲタクと翻訳アプリで若干の交流をしたり、1人で踊って騒いでビールとチキンを流し込み暫し休憩。日本のヲタクに情報共有などしていれば瞬く間に1時間2時間と過ぎていく。SPYAIRのファンは何処にいても心強くあたたかい。国を跨ぎ海を越え堂々たる眼差しで一目散にステージを目指し駆けていく。非常に美しく眩しい光景だった。


サウンドチェックが始まる頃にはSPYAIRが出演するGREEN STAGEは人の海と化し、とてもではないが遠くを見渡すのは不可能であった。正直想像以上である。SPYAIRは海外お招き⭐︎アーティストの枠を完全に越えていた。贔屓目無しで今回一の集客を誇っているんじゃないかと思う。二つ前のアーティストから少しずつ距離を詰めていたワタシも、とうとう5列目くらいに立つのが限界だった。SPYAIRのシャツを着た人、タオルを首から下げた人、CDを両手に友達とはしゃぐ人。
韓国での人気は噂には聞いていたがどう考えても書面上では確認出来ない未知なる熱気が溢れ出ている。韓国語が分からなくても分かるのだ。皆メチャクチャ楽しみにしている。


KENTAさんのドラムから始まったサウンドチェックはファンのボルテージを上げるには十分すぎた。優しい声でスタッフに的確な指示を送るKENTAさんに女子の黄色い悲鳴が木霊する。それにしても彼は本当にメンバースタッフ分け隔て無くありがとうを欠かさず言葉尻も丁寧だ。慣れない土地で焦る様子も特に見せず、しっかり15分ほどチェックをして席を立った。
それにしても。

韓国ではMOMIKENさんトテモニンキデス……!

ライブ中は思わずYOSUKEさんも笑っていた。あまりにもMOMIKEN愛に溢れた国の少女達は狂ったように拳を突き上げMOMIKENコールを連発するのだ。サウンドチェックでは松葉杖を器用に扱いすいすいとはけて行くMOMIKENさんの後姿を見つめて皆心配の溜息を吐いた。さながらアイドルに送る眼差しである。ワタシはそっと胸に手を遣り、海を越え輝く目の周りがやけに黒いアイドル兼バンドマンに畏敬の念を示した。

そうこうしてる間にUZさんも加わり、楽器隊全体のサウンドチェックへ。リハ曲に選ばれたサムライハートは大合唱で迎えられた。YOSUKEさんは本番以外出さない演出にしていたようで、ボーカル不在のカラオケ状態がより一層ファンの声を際立たせる。当たり前だけどサムライハートは日本語の歌だ。そして当たり前に皆日本語で歌う。涙が溢れて止まらなくなってしまった。この国に確かに新しいSPYAIRを待っている人たちがいた。ワタシはそれを目の当たりに出来て感動したのだ。ここからまた始まるんだ、SPYAIRは終わったんじゃなく、生まれ変わったんだ、そんな気持ちになって胸がいっぱいだった。釜山の空に明るく響くヘイヘイ!コールを存分に味わいながら、こぼれ落ちる涙をタオルで拭った。

因みにステージ裏の指示音声が漏れていて、スタッフさんがこれ以上ないくらい優しい声で「よーすけ、ごめん、上手(かみて)来れる?」と話しかけていたのが印象的だった。スタッフさんに愛されてるなとは常々思っていたが、声があたたかすぎてちょっと会場がざわついていた。上手に走るYOSUKEさんを想像して癒される一同に雨の気配が遠のいて行く。


そして、ライブが始まった。
セットリストは端的に言えば超豪華だった。
以下参照していただきたい。

【SPYAIR】2023/10/8セットリスト
1.現状ディストラクション
2.轍
3.Wendy ~it's you~
4.アイムアビリーバー
5.My World
6.サクラミツツキ
7.RE-BIRTH
8.RAGE OF DUST
9.イマジネーション
10.サムライハート
11.SINGING

YOSUKEさんの生歌を聴くのはこれで通算3回目になるが、掛け値無しに今回が1番安定していた。3回行ってるから分かる。彼は歌が上手くなっている。目を剥く成長度合いは楽器隊の献身的なサポートと本人の努力によるものだろう。色々な意見があると思うし、心揺さぶられなかったクチの人もいるだろうが、この一生懸命さを前にしては拳を突き上げ叫ばずにはいられない。SPYAIRのこの泥臭さと必死で音楽を演る姿勢に惚れたワタシは格段に上がった演奏のクオリティに一発目の現状ディストラクションからノックアウトされた。プロのアーティストとして努力のカケラが透けて見えることを好まない方がいるのは重々承知で申し上げるが、段階的に成長していくSPYAIRと共に走れることの喜びをなんと形容すべきか。それ程までに今、彼等の姿は勇気と希望に満ち溢れている。名古屋で撮らせていただいた轍の音声を改めて聞き返しながら、明らかにステップアップした二曲を振り返っている。

そしてWendyへと続く。恒例のシェイカー、楽器隊とYOSUKEさんの戯れ合いがなんとも可愛らしい一曲だ。ステージ丸ごと立ち姿勢だったMOMIKENさんはシェイカータイムに見事にYOSUKEさんに煽られ少し跳ねていた。それを見たUZさんは「大丈夫かよ!?」という表情でしかしニッコリ。

韓国でも仲良いね君ら…………

同じくYOSUKEさんに煽られUZさんもステージ中央に集合し思いっきり演奏を楽しむ4人。釜山は大いに揺れた。流れるようにアイムアビリーバー。この曲前のYOSUKEさんのMC、「もしこの曲を知ってたら一緒に歌おう。出来る範囲で大丈夫だよ」と英語で語りかける姿が印象的だった。冒頭に「ようこそ、SPYAIRのライブへ!」と恒例の挨拶で始めたり、所々懐かしさを孕んだ優しさに胸が締め付けられる。かの人の面影を浮かべながら聴くSPYAIRもまた一興である。

そしてMy World。膝を降り時折声を詰まらせながら歌うYOSUKEさんの姿が印象的だった。もしかしたら、少し泣いていたのかもしれない。青い照明に照らされたSPYAIRのメンバーが、とっぷりと陽が落ちた釜山の夜に浮かんでいる。切なげに眉を顰め、力強くもしっとりと歌い上げるこのナンバーは何度聴いても涙が出る。自分の軌跡と築き上げた世界を振り返りまた一歩踏み出す勇気。SPYAIR特有の表現を海の向こうで聴くと一際響いて仕方ない。歩いていく道にどこまでもついていこう、そんな空気を会場の至る所からひしひしと感じた。

ピンクの照明が夜に映えるサクラミツツキも聴衆はうっとりと堪能し、曲紹介。YOSUKEさんはまたしても英語で「7月にリリースしたばかりの曲です」と流暢に話す。察したファンが歓声で応え、加入後の新曲RE-BIRTHへと続く。
ここでも非常に驚かされた。シンガロングの声量だ。韓国に響き渡るYOSUKEさんの作った詩。新しい息吹。受け入れる、なんて生半可なものではなかった。ずっと待ってたよ!早く歌いたかったよ!そんな圧倒的な声の厚みにSPYAIRも思わず微笑んでいた。シャウトの度に爆発するような歓声。嬉しそうなYOSUKEさんの笑顔。見守る3人の音も心なしか跳ねていた。

RAGE OF DUST、イマジネーションと人気のアップテンポ曲が次々披露され会場のボルテージは最高潮を迎える。ああ終わってしまう、終わらないでほしい、そんな気持ちで悔いがないように叫んだ。

そしてサムライハート。背後のファンが2時間も前からずっと「サムライハート大好き!」と友人と話しているのを聞いていた。ワタシまで嬉しくて、やった!と思いながら振り返ると彼女は号泣していた。好きな曲を好きな人が目の前で演っている。どこにいてもこの気持ちは世界共通なんだと思ったらワタシまでまた泣けてきた。
釜山中のタオルというタオルが回り、風が出来る。髪も服も煽られて揺れ、それを見たSPYAIRも嬉しそうに笑う。叫ぶ度に楽しくて身体がグッと熱くなり、名曲は褪せないと新鮮に思い知らされた。途中、ガードのスタッフに担ぎ上げられて元気よく歌うYOSUKEさんを見たUZさんが思わず、といった様子で破顔していたのが印象的だった。可愛く明るく愛嬌がある我らが新ボーカルは、今日も元気に飛び跳ねメンバーをも笑顔にしていた。

YOSUKEさんは一呼吸置いてから、「また必ず韓国に来ます」と英語で話した。JLT同様にここに来るまで色々と思うところがあったと推測できる。自分がいない歴史の中で築き上げられてきた韓国ファンとの絆。そこに入り、どんな反応が待っているか。慣れない場所、慣れない言葉、長い移動時間の中で葛藤もあったかもしれない。
だけどステージ上のYOSUKEさん、そしてメンバーの表情は晴れやかだった。流行病の制限が終わり、やっと芸術が海を越え自由に行き来する時代が戻ってきた。やっと会えた。そんな顔をしていた。過去にいなかった筈のYOSUKEさんも、それを辿るが如く熱い眼差しで言葉にした。

「また必ず。約束です。」



SINGINGの途中、YOSUKEさんが徐にスマホを掲げライトを点けてと合図をした。現物を取り出して示すのも彼なりの気遣いだ。言葉よりもずっと分かりやすい指示にオーディエンスが嬉しそうに応える。スクリーンに映し出されたそれを見たとき、あっ、と声が出た。
星のように美しい光が、ぽつり、またぽつりと灯って瞬く。人のあたたかさの光。明るくてきらきら光る。メンバーがふっと目を細めたのがはっきり分かった。YOSUKEさんが英語で「綺麗な景色です」と優しく言葉にした。歌声と共に、星が光る。

平たくいえば国籍など関係無かった。其処にはただSPYAIRのファンが居て、歌声が響き、涙する人、興奮して叫ぶ人、目を閉じ音を噛み締める人がいた。
本当に来てよかった。此処に来なければずっと知らないことだった。SPYAIRは海を越え確かに愛されていて、その愛は今も揺らいでいないのだ。

きっとまだ世界の想像もしない場所にSPYAIRを待ってる人がいる。好きで好きでたまらない人がいる。煌めく光の海の中で、ワタシは漠然とそんなことを思った。そしてそれは凄いことだと思った。誇らしかった。嬉しかった。同じ国から来た、違う国で輝く4人。眩しくて楽しくて夢のような50分はあっという間に終わった。
心にじんわり残る余韻を噛み締めて歩く途中、あちらこちらからSPYAIR最高だったね!という声が聴こえてくる。ボーカルが変わっても、歴史が途切れ掛けても、歩みは確かに続いていく。この世界の果て、どこまでもどこまでも光は灯っていく。


ちなみにワタシは帰り際、沼に嵌った。
これはヲタク特有の比喩表現でも何でもなく、TwitterことXに興じていたら深さ15センチほどの沼に落ちた。
新しいスニーカーが泥塗れになった今、改めて思う。
この会場は、湿地である。



2023.10.09
文責: yuki (@yuki___snowy__)



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