シャインマスカットをお酒で漬けた場合の法的な処理に関する考察
免責
筆者は法律の専門家ではない。当記事の内容はあくまで参考であり、実際に実行した場合に発生するいかなる損害や法的罰則などに関しては一切の責任を負わない。
酒税やお酒の免許(製造・販売)等に関するご相談は、各地域の税務署(酒類指導官設置署等)で伺います。
事業をしている(する予定の)地域を所管する国税局を選択し、ご相談先をご確認ください。
導入
今年の9月、X上であるポストが反響を呼んでいた。
ポストの内容としては「シャインマスカットを炭酸水と日本酒で浸漬すると、大人のスイーツが出来上がる」というものである。
しかしながら、当該ポストは「酒税法上の解釈の懸念から」として既に削除されている。
シャインマスカットのアレンジ投稿につきまして、お騒がせしており申し訳ございません。…
— 「クランド」クラフト酒のお店 (@KURAND_INFO) September 11, 2024
本題
さて、その上で今回の主題としてはこのようなものである。
シャインマスカットを炭酸水と日本酒を混和した液体で浸漬したものを自家で作成し喫食するのは酒税法的に合法か。
結論
シャインマスカットを炭酸水と日本酒を混和した液体で浸漬したものを自家で作成し喫食するのは酒税法上は合法だと思われる。
ただし、その過程で浸漬に利用した炭酸水と日本酒を混和した浸漬液を飲用してはならない。
酒税法上の解釈の懸念
今回はあえて結論のみを先行させたが、ここからは順を追って「なぜ削除するに至ったのか」に関係がする箇所も含めて確認をしていく。
自家醸造
家で梅を酒類に浸漬させて梅酒を作るといったことを行ったことがある人もいるかもしれない。まず、これは合法だろうか。
国税庁のサイトおよび条文には以下のようにある。
Q1 消費者が自宅で梅酒を作ることに問題はありますか。
A 焼酎等に梅等を漬けて梅酒等を作る行為は、酒類と他の物品を混和し、その混和後のものが酒類であるため、新たに酒類を製造したものとみなされますが、消費者が自分で飲むために酒類(アルコール分20度以上のもので、かつ、酒税が課税済みのものに限ります。)に次の物品以外のものを混和する場合には、例外的に製造行為としないこととしています。
また、この規定は、消費者が自ら飲むための酒類についての規定であることから、この酒類を販売してはならないこととされています。
1 米、麦、あわ、とうもろこし、こうりゃん、きび、ひえ若しくはでん粉又はこれらのこうじ
2 ぶどう(やまぶどうを含みます。)
3 アミノ酸若しくはその塩類、ビタミン類、核酸分解物若しくはその塩類、有機酸若しくはその塩類、無機塩類、色素、香料又は酒類のかす
根拠法令等:酒税法第7条、第43条第11項、同法施行令第50条、同法施行規則第13条第3項
11 前各項の規定は、政令で定めるところにより、酒類の消費者が自ら消費するため酒類と他の物品(酒類を除く。)との混和をする場合(前項の規定に該当する場合を除く。)については、適用しない。
14 法第四十三条第十一項に該当する混和は、次の各号に掲げる事項に該当して行われるものとする。
一 当該混和前の酒類は、アルコール分が二十度以上のもの(酒類の製造場から移出されたことにより酒税が納付された、若しくは納付されるべき又は保税地域から引き取られたことにより酒税が納付された、若しくは納付されるべき若しくは徴収された、若しくは徴収されるべきものに限る。)であること。
二 酒類と混和をする物品は、糖類、梅その他財務省令で定めるものであること。
三 混和後新たにアルコール分が一度以上の発酵がないものであること。
3 令第五十条第十四項第二号に規定する財務省令で定める酒類と混和できるものは、次に掲げる物品以外の物品とする。
一 米、麦、あわ、とうもろこし、こうりやん、きび、ひえ若しくはでん粉又はこれらのこうじ
二 ぶどう(やまぶどうを含む。)
三 アミノ酸若しくはその塩類、ビタミン類、核酸分解物若しくはその塩類、有機酸若しくはその塩類、無機塩類、色素、香料又は酒類のかす
このことから、アルコール度数が20度以上の酒類に梅を浸漬させて梅酒を作る場合には自家で消費する場合には製造行為に当たらない、すなわち酒税法上の規制を受けないと考えられる。
しかしながら、今回はシャインマスカットの浸漬について考察を行うため、酒税法第四十三条第十一項により定める物品ではない。すなわち、ぶどうを浸漬させると製造であると見做される、つまり酒税法上の規制を受けると考えられる。
直前の混和
しかしながら、(本来のレシピとは異なるが)自家製のサングリアなど消費の直前の混和に関しては例外的に製造とみなされない。
なお、消費者自ら又は酒場、料理店等が消費者の求めに応じて消費の直前に混和する場合や消費者が自ら消費するために混和する場合(Q1参照)にも例外的に製造行為としないこととされています。
10 前各項の規定は、消費の直前において酒類と他の物品(酒類を含む。)との混和をする場合で政令で定めるときについては、適用しない。
これは、酒税法第四十三条第十であり、酒税法第四十三条第十一項の前項にあたる。そのため酒税法第四十三条第十一項の「前項の規定に該当する場合を除く。」という記述より、サングリアはアルコール度数が20度未満のワインを用いて作成されるが、消費の直前に混和することで提供を可能としているのだ。
同様に、ぶどうを混和する場合においても消費の直前であれば製造とみなされずに酒税法上の規制を受けないと考えられる。
ただし、今回のシャインマスカットの浸漬に関しては消費の直前と弁護するには苦しく、この条文に基づく規制の回避は現実的ではない。
合法と判断した理由
ここまでは「酒税法上の解釈の懸念」となりうる箇所を提示した。
ここからは一転して、なぜ合法だと考えられるのかに関してを記述していく。
ラム・レーズンの作成と自家醸造
ぶどうを浸漬する実例としてラム・レーズンの製造がある。これは酒税法的にどのように扱われるのだろうか。
レーズンとはぶどうの果実を乾燥させたものであり、ここまでの話を踏まえると酒税法上の規制を受けるように感じるだろう。
しかしながら、実際には自宅でのラム・レーズンの製造に関してはどうやら酒税法上の規制を受けないようである。
・記事公開後、レーズンの使用についてお問い合わせいただき、税務署に「自家製ラムレーズンの作成は問題があるか」と問い合わせをいたしました。回答は下記のものでした。
① 蒸留酒にレーズンを漬け込む行為自体に問題はない。「ラムに漬けられたレーズン」は菓子とみなされ、「ラムレーズン」の作成は合法である。
② ただし、副産物として発生する「レーズンを漬けていたラム」については、リキュールを認可なしに製造する行為にあたる。
(中略)
・ラムレーズンは問題ないのに、自動的にできてしまうレーズン風味のラムが違法であることを疑問に思い、税務署に「副産物のラムはどういった扱いをすればよろしいですか」と再度問い合わせたところ、「ラムレーズンを作った残りのラムについては、飲用せず処分してください」との回答でした。
この記事の内容を読むにラム・レーズンの作成の副産物として発生したラムを飲まずに処理するのであればラム・レーズンの作成は合法であるといっている。
シャインマスカットの浸漬に関しても同様の処理が行われると考えている。すなわち、シャインマスカットの浸漬に関しても、浸漬に用いた酒類を破棄することでおそらく合法として扱われると考えられる。
しかしながら、ラム・レーズンを作る段階でレーズンを漬けたラムという酒税法上の規制を受ける製造行為を行なっているように見える。
これは一体どういうことであろうか。
製造と酒税法の規制
ここで原点に立ち返ってそもそも酒税法による規制の適用範囲について考えよう。
酒税法にはこのようにある。
2 酒類等が酒類等の製造者の製造場において飲用された場合において、その飲用につき、当該製造者の責めに帰することができないときは、その飲用者を当該酒類等に係る酒類等の製造者とみなし、当該飲用者が飲用の時に当該酒類等をその製造場から移出したものとみなして、この法律(第三十条の二、第三十条の四第一項及び第四十六条の規定並びにこれらの規定に係る罰則の規定を除く。第四項において同じ。)を適用する。
すなわち、製造を以って酒税法の適用を受ける訳ではなく、移出(飲用含む)を以って酒税法の適用であるので、飲用や移出を行わなければ酒税法上の規制を受けないといういうことである。
よって、結論としては「シャインマスカットの浸漬に用いた酒類を飲まなければ酒税法上の規制を受けない」と考えられる。
なぜポストの削除に至ったのか
今回のノートではこのような形でおそらく合法である証拠を列挙はしたものの、実際には税務署が取り締まるか、そしてもし取り締まった場合には裁判によって合法か違法かが明らかになる。
投稿元が一企業のアカウントであった点を加味すると、このような「解釈の余地」が発生する内容を公開することそれ自体がコンプライアンスの上で問題になると解釈されたため削除されたと思われる。
酒税法の解釈により懸念がある内容であることから、現在は該当投稿を削除しております。