卒業論文(1) 初期日本語教育について
「外国にルーツを持つ子供に対する初期日本語教育の全国一斉オンライン授業の提言」
要約
日本語要約
本稿では、日本における初期日本語教育について検討を行い、「外国にルーツを持つ子供に対する初期日本語教育の全国一斉オンライン授業の提言」を行った。日本では現在人口減少が起きており外国人労働者が必要不可欠となっている。その結果、国際結婚の増加や外国籍同士の日本における結婚が増加し、外国にルーツを持つ子供が増加した。しかし、日本の外国にルーツを持つ子供に対する教育は現状として曖昧にされており、教育の義務すらない現状がある。それによって不就学の外国にルーツを持つ子供が約2万いるとされている。これらの問題は今後日本の経済成長に関しても大きな影響を与えるものであると考えられる。 これらのことから本稿では外国人労働者や外国にルーツのある子供の現状について、言語教育の視点・教育の現状(事例研究)の観点から検討を行った上で、初期日本語教育を行う方法について具体的に提言を行った。これらを行うことは短期的には、外国にルーツを持つ子供たちの非行や犯罪の減少による外国人の地位向上や多文化共生につながることが考えられる。長期的に見ればグローバル人材の創出やバイリンガル・トリリンガルの創出を行う事に寄与すると考えられる。
英語要約
This paper examines early Japanese language education in Japan and proposes "a proposal for nationwide simultaneous online classes for early Japanese language education for children with foreign roots". Japan's population is currently declining and foreign workers are becoming indispensable. As a result, the number of international marriages and marriages between foreign nationals in Japan has increased, resulting in an increase in the number of children with foreign roots. However, education for children with foreign roots in Japan is currently vague and there is no obligation to educate them. As a result, it is estimated that there are approximately 20 000 children with foreign roots who are not enrolled in school. These problems are likely to have a significant impact on Japan's economic growth in the future. In view of this, this paper examines the current situation of foreign workers and children with foreign roots from the perspective of language education and the current state of education (case studies), and makes specific recommendations on how to provide initial Japanese language education. In the short term, doing so may lead to the improvement of the status of foreigners and multicultural conviviality by reducing delinquency and crime among children with foreign roots. In the long term, they will contribute to the creation of global human resources and the creation of bilingual and trilingual people.
第1章 はじめに
1.1 要語説明
この節では多文化共生、ダブルリミテッド、JSL教育とESL教育、集住地域と散在地域などの本稿を読む中で必要となる用語について説明する。 初めに、「多文化共生」についてであるが、多文化共生とは、社会的に少数派とされる移民の人々の基本的人権を尊重するために今後必要となってくると考えられている。次に「ダブルリミテッド」についてであるが、ダブルリミテッドとは、中島(2007)の研究によると、「一つ以上の言語に触れて育ち、言語レベルがどの言語も年齢相応に達していない言語形成期の児童を意味する」とされている。次に「JSL教育とESL教育」についてであるが、川上(2003)によると、「日本語を母語としない子 どもたち」への日本語教育のことであり、Japanese as Second Languageの略である。一方のESL教育は、「英語を母語としない者」への英語教育のことであり、English as Second Languageの略である。最後に、集住地域と散在地域についてであるが、今回の場合は、外国人の子供が多い地域を集住地域と以下呼び、外国人の子供がその地域に少ないもしくは点在している状況を散在地域と呼ぶ。
1.2 外国人の人口について
現在の外国人の人口には、日本における少子高齢化が大きな原因として挙げられる。そして少子高齢化による人口減少により、外国人労働者の必要性が挙げられるようになった。現在日本人口は、2008年をピークに徐々に減少し、2100年には7496万人まで減少すると推定されている。人口減少が続くことにより、生産年齢人口や労働力減少につながり、経済規模の縮小は避けられないとされている。そこで国が目をつけたのが外国人労働者である。外国人労働者の増加は、日本のグローバル化を促進する事に繋がる。これらは国際結婚の増加や移民の増加にも繋がる。移民の増加に伴い、多文化共生は必要となってくる。現に、現在の在留外国人の人数は令和3年6月末の在留外国人数は,282万3,565人とされている。この数字は、前年末に比べて6万3,551人の減少ではあるものの、2022年10月に外国人の入国制限が緩和される等、今後は回復に向かう公算が大きいとされている。また、23年4月中旬に外国人労働力のあり方を議論する政府の有識者会議は、技能実習制度の廃止を求める提言の思案をまとめた。現在は、原則として認めていない転職を一定度認める仕組みにするそうだ。新制度では、政府は労働力確保と人材育成の両立させることを検討すると言われている。この新制度の運用は24年以降になるとされている。さらに同月下旬には、熟練した外国人材が日本で長く働く道を広げようと、長期就労は可能な業種を6月にも現在の3分野から全12分野に拡大する方向で関係省庁が調整に入ったとする。運用開始は、24年の5月ごろとされている。また6月初旬には岸田文雄首相は閣議会議で「日本の深刻な人手不足を踏まえ、魅力ある働き先として選ばれる国になるようにすることが重要だ」と述べている。政府の有識者会議では、技能実習の廃止を発展的に解消する方向で「人材確保と人材育成を目的とした新たな制度を創設する」と記載されている。これらのことからも今後外国人は増加傾向なっていくことが予想される。
1.3 外国人の子供についての概要
文部科学省によると、日本語指導が必要な児童生徒は全国に約5万8千人(2021年度)いて、10年弱で約1.75倍に増加している現状がある。この理由として、国際結婚や外国人労働者の増加により、文部科学省による2020年の調査では、学齢相当の外国人の子どもの住民基本台帳上の人数は、小学生相当8万7,033人、中学生相当3万6,797人の合計12万3,830人とされており、子供の増加も見てとれる。また、この調査の中では不就学の生徒が約2万人いるとされており、多くの問題点が顕在化している。その一例として、そもそも現在外国人労働者(特に単純労働)の子供は、宮島の2010の研究によると、家族の低い不安定な収入から子供の教育に配慮することが困難な出稼ぎ型スタイルや家庭内暴力や別居、離婚が引き起こす家族統合の欠如などが主な要因となり、学業挫折を起こし、社会的こりつを引き起こしているという現状があるなどが挙げられる。
1.4 日本語指導の必要性についての概要
3節で述べた通り、日本語指導を必要としている児童生徒は全国に約6万人いるとされている。また、多文化共生の観点からもまずは、日本人と外国にルーツを持つ子供が意思疎通を行うツールを持つ必要性がある。そのためにも、初期の日本語教育は必要であると考えられる。一方で、この後詳しく説明するが、個別指導などの教室だけでは、日本語指導はうまくいかないことからも、初期の日本語指導が終了したら通常級の学級に戻り、授業を受けることが重要であると考えられる。日本語指導の必要性としてはそのほかにも、学業挫折をなくし、子供の非行を止める事にもつながる可能性が大いにある。また、長期的に見ると、グローバル人材の創出やバイリンガル、トリリンガルなどの言語能力値の高い人材の確保につながる。それだけでなく、仮に母国に帰り、帰化したとしても日本に親しみを持った人々が大人として日本との海外との橋渡しをすることも可能になるなど多くの可能性を持っていると考える。
1.5本稿が提言する事について
本稿では、タイトルの「外国にルーツを持つ子供に対する初期日本語教育の全国一斉オンライン授業の提言」にある通り、外国籍または外国にルーツを持つ子供たちの初期日本語指導を一律で全国にオンライン教育で実施することを目的としている。また、このオンライン指導の際には、国籍や言語別に母語や母文化に触れる機会も作れるようにすることを目標としている。そのために何が必要かについて以下詳しく述べていく。まず第1章では、本稿において重要となる用語について説明したのちに多文化共生の必要性、日本語教育の必要性について述べた。次に、第2章では、言語教育の視点から初期日本語指導に必要な能力とは何なのかについて考える。第3章では、JSL教育に関する現状と題し、外国にルーツを持つ子供たちの現状や日本語教育の現状など実際の課題点を国レベルで確認を行う。そして第4章では、実際に散在地域と言われている富山県に行きフィールド調査を行なった結果を述べる。続いて第5章では、オンライン教育の具体例として大阪府を事例に取り組みの課題などについて述べている。第6章では、これら1から4章を踏まえて初期日本語教育をどの様に行うかについて詳しく述べる。最後に第7章では、今後の課題点や実行に必要な事について考察を行っていく。
第2章 言語教育の視点から
2.1 生活言語能力と学習言語能力の習得について
1985年にイギリス政府の出した報告書において、海外の取り出し授業は英語取得と教科学習においてマイナスに作用すると言われている。次に、バトラー後藤の2009年の研究によると、ESL教育において取り出し授業を行っても結局普通の授業に戻った際にはついていくことができないということが言われている。これらのことから、基本的に普通の授業を支援員と受ける方法が有効であることがわかった。しかし、基礎的なことを学ためには、取り出し授業は日本語初期指導では必要ではないかと考える。これらのことは他にも、現在日本ではカミンズの理論が提唱されている中で、「CF,BICS」と「DLS」に関する外国人の子供の取り出し授業の重要性について以下詳しく述べる。現在日本では言語能力の捉え方として、カミンズの初期理論を利用していることが多い。この初期理論とは、一つは、「basic interpersonal communicative skills(BICS)」で、もう一つは、「cognitive/academic language proficiency (CALP)」である(Cumminsl980)。これらの「BICS」は対人関係のける基本的なコミュニケーションスキルで、「CALP」は教科学習に必要な認知・教科学習言語能力であり、メタ言語として関連する力である(cummins1980,中島2011)。これらを日本では「生活言語能力」と「学習言語能力」と説明することが多い。しかし今回はカミンズの2006年の研究でで、「BICS」と「CALP」を整理しなおした3つの側面「conversational fluency(CF) : 会話の流暢度」または「BICS」、 「discrete language Skills(DLS) :弁別的言語能力」、 「academic language proficiency(ALP) :学習言語能力」を使用する。さらに、この中でも「CF,BICS」と「DLS」に視点を向けて考える。これらの視点に目を向ける際に重要になってくるのが、バトラー(2009)で提案されている「第二言語の支援の必要な児童・生徒の教育を(1)学校だけに抱えさせない、(2)第二言語学習児童・生徒担当の教員だけに抱えさせない、(3)第二言語学習児童・生徒だけを対象とした支援にとどめない」ということである。また、バトラー後藤の2009年の研究ににおいて書かれているアメリカで現在使用されている「ニューカマー・プログラム」は良い方法であると考えられている。このプログラムは、バトラー(2009)によると、「基本的な英語や、主要教科で遅れをとってしまっている内容を補ったり、アメリカの学校に慣れるための指導を行なったりする」とされている。
2.2 ESL教育におけるカナダとアメリカの比較
赤 堀 (1990)によるとESL教育(English as a second language)は、アメリカ、カナダなど、他民族国会において第二言語としてESL教育はとても豊富であるとされている。その中で、ESL教育の目的・内容・課題として挙げられることは以下の4つに分類することができる。初めに、ESL教育の目的は異文化似合って子供たちが、自己の価値を認めることができるように援助すること。次に、Whole Languageの概念に基づいてる(ホール・ランゲージとは、子供が意味に集中するべきだと強調する読み書き能力育成に関する考え方のこと)。次に、ESL教育の指導方法が単に言語指導にと留まらず適応指導も含み、精神的ストレスを解放するような指導が行われている。最後に課題として、ESL教育実施にあたって、地域住民の経済的負担が大きいことが挙げられていた。これらのことがわかった上で、カナダとアメリカのESL教育の目的について述べる。カナダにおけるESL教育の目的は「単に言語獲得をすることにとどまらず、自己の存在価値が自覚できるように、学校・地域・社会が他の文化に尊重するような教育を実施すること」である。これは、各個人が持っている民族文化に対してランクづけをせず、個人の尊重や暴動の原則から発送されていて、教育の機会平等を保障しようという考えから起きている。次にアメリカのESL教育の目的としては、「外国人が教科を学習するための基礎的言語の習得という意味と同等に、異文化の中で学校生活をより快適(自分でできる・独立する・自立する)にする表現手法の習得という意味を持っている。これは、個人の存在価値を互いに尊重すること、そのために相互理解できる手段として言語教育が行われている。しかしESL教育の問題点として、質や量が不十分であったり、予算不足、児童生徒の教育的背景が多様化して対応できないということ、また高いレベルの英語力を要求している人の対応ができないことなどが挙げられている。
2.3 言語形成について
言語形成について、中島によると、2歳から8歳にかけて言葉が形成され、4,5歳から14,15歳までに読み書きが定着する(この言葉が形成される特に2~8歳(中でも幼稚園を卒園する)までは社会状況の影響を甚大に受けることが言われている。このことから、高度達成方バイリンガル(2言語とも学齢相応のレベルに達していることである。)になるためには、聞いたり、見たりする比率が母語と新たな言語が同じようになる必要性がある。この言語形成について日本の課題点として、日本は日本語を強制することがおく、母語が確立されていない年少者は確実にダブルリミテッドになる確率が高くなってしまうという。そのため、パーシャル・イマージョン(一部の科目または時間を言語学習に当て、そのほかのクラスは母語で受ける)の形態が望ましいとされている。しかし、これを行うためには国、地域、学校を挙げて態勢を作っていく必要性があるとも述べられている。このことから、母語の時間を多く取ることは難しいにしても、母語を話す機会は創出する必要性があると私は考える。次に、カンガス(2008)によると、母語は取得する時期、習得順序、熟達度、使用頻度、内的/外的アイデンティティの4つの側面から定義することができ、これらがバランスが取れないと、内外的アイデンティティにも大きな影響を及ぼしてしまうという。また中島(2001)によると、言語形成期前期(0〜9歳)、言語形成期(9〜13歳)この時期が重要な時期である。この時期に複雑な環境下にいる子供は、極めてダブルリミテッドになる可能性が高いと言われている。つまり、小野によると就学前に文字認識や読み書きの基礎母語ができていれば他言語へのリテラシーの移行がスムーズに行われると考えられているという。一方でアイデンティティの形成について高橋(2009)によると、多言語話者児童のアイデンティティの形成過程は単純ではなく、自己のルーツの否定、アイデンティティクライシス、葛藤などの課題が生じるため、母国語教育が欠かせないという。この母語教育を大切にする過程について、次章では、大阪府を事例に考えていく。
第3章 JSL教育に関する現状
3.1 外国にルーツのある子供の現状
第1章の3節で触れた通り、家族の判定さが子供の非行を起こす可能性があると述べた。また、オンライン教育の必要性について第1章の5で提言したことの短期的理由として述べた、「子供の学業挫折をなくし非行や犯罪を減少させることが可能となる」という考えについてだが、そもそも現在外国人労働者(特に単純労働)の子供は、宮島の2010の研究によると、家族の低い不安定な収入から子供の教育に配慮することが困難な出稼ぎ型スタイルや家庭内暴力や別居、離婚が引き起こす家族統合の欠如などが主な要因となり、学業挫折を起こし、社会的こりつを引き起こしているという現状がある。そして、この現状は子供の貧困に繋がり、少年非行や犯罪を起こす要因につながっている。現に、法務省の報告によると日本語能力に問題があることに加え、外国人であることからいじめに遭い、学校に通学できず、非行に走ってしまうことがわかっているほか、不良集団についての報告では、日本社会への不適応が非行に走らせる原因となっているとされている。さらに、少年非行と知能指数の関係について調べた報告書によると、調査対象者と日本の入院者との間で知能指数について有意差が見られたほか、知能指数が90未満である者の構成費が外国人少年の方が高い数値が現れているという報告がある。さらに、宮口(2019)より、非行少年の特徴として、①「認知機能の弱さ」(見たり聞いたり想像する力が弱い)②「感情統制の弱さ」(感情をコントロールするのが苦手。すぐにキレる)③「融通の効かなさ」(なんでも思いつきでやってしまう。予想外のことに弱い)④「不適切な自己評価」(自分の問題点がわからない。自信がありすぎる、もしくはなさすぎる)⑤「対人スキルの乏しさ」(人とのコミュニケーションが苦手)プラスアルファとして、「身体的不器用さ」(力加減ができない、身体の使い方が不器用)と言うことが挙げられている。このことは、認知機能の弱さは言語的な壁が課題としてあるのではないかと考えられると私は一度仮説を立てた。しかし、以下の2点のことがわかりこの仮説に関して疑問を抱くようになった。まず、鳥海の2021年の研究によると、公立小中学校に通学する外国人児童生徒の5.37%が特別支援学級に在籍している現状があるとされているこれは、日本人全児童生徒数の特別支援学級の在籍率は2.54%に比べて約2倍以上の数値であることがわかる。これらの原因を鳥海は「日本語が理解できないため、知能指数の結果が低く、知的障害と判断された可能性がある」としているということ。次に、立命館大学の人間科学研究科の先生である宮口先生へインタビューを行ったところ、インタビューの中で、非行少年は知能指数に問題があるのかまた、それが外国人に偏っているのかなどを伺ったところ、先生は愛知県で、児童精神科医として精神科病院や医療少年院に勤務されたご経験から、外国にルーツがあるからといって、言語の壁を感じることはほとんどなく、外国籍であるから非行に走るわけではないとおっしゃられていた。一方で、算数の九九が覚えられないなどLD(学習障害)などで困り、学校に行かなくなり、素行が悪くなってしまう子供が多いように感じるとおっしゃられていた。これらのことから非行少年について分かることとして、以下のことが言えるのではないかと再検討した。まず、少年非行と知能指数の関係について検討すると、図から日本人も外国人も知能指数が90未満の子供が分かった。しかし、外国にルーツのある子供の知能指数の測定には懐疑的なところがあることが現在問題視されている。そして、宮口先生へのインタビューからも外国人であるから非行に走るのではないことが考えられる。これらのことから、非行少年の特徴とダブリミテッドに陥っている外国にルーツのある子供の現象が酷似していることが考えられる。これらのことから、非行少年に関する考察から、外国人であるから、知能指数に問題があり非行少年になってしまうということが言えるわけではないということはわかった。しかし、感情の統制や不適切な自己評価、対人スキルの乏しさは、母語や母文化の喪失によるアイデンティティの喪失によるものではないかという考えはまだ否定することができない。理由として、この課題点によって引き起こされたと考えられる、事例として2015年に川崎市の多摩川河川敷で中学1年生の上村亮太さんが外国にルーツを持つ少年三人に殺害された事件が起こるなどが挙げられる。これらのことから、子供の学業挫折は日本の治安を悪化させるだけではなく、外国人労働者への犯罪のイメージの増幅へとつながる可能性が挙げられる。現に来日外国人のイメージについての調査では、「あなたは、日本で来日外国人の犯罪が増えていると思いますか?」という問いに対して、約80%が増えていると思うと回答している現状がある。そこでこれらのサイクルを変える必要性があると考えられる。また、長期的な目標として挙げられている、「グローバル人材の創出につながり、日本のグローバル化にもつながる」ということに関して初期日本語教育が必要な理由として、先ほど初めにも述べた通り、文部科学省によると、日本語指導が必要な児童生徒は全国に約5万8千人(2021年度)いて、10年弱で約1.75倍に増加している現状がある。これらのことから、外国人児童生徒の言葉の問題や日本文化に関する知識の不足、教育カリキュラムの違い、母語における教育の状況、保護者の認識等様々な要因を解決する必要性があると考えられる。
3.2 日本語教育の現状
日本語教育の現状について述べる。現在日本では、取り出し授業と入り込み授業の2種類が使用されている。取り出し授業とは学年相当の学習言語が不足し、学習活動への参加に支障が生じている生徒に対して、児童生徒の在籍学級以外の別室で個別または、少人数で行う授業のことである。次に、入り込み授業とは在籍学級内に日本語指導担当教員や支援員が入り児童のサポートを行う授業体制のことである。先ほどからも述べている通り、日本では、取り出し授業が基本として日本語初期日本語指導では行われている。しかし、これには課題点が多く存在する。まず初めに、1985年にイギリス政府の出した報告書において、海外の取り出し授業は英語取得と教科学習においてマイナスに作用すると言われている。次に、バトラー後藤の2009年の研究によると、ESL教育において取り出し授業を行っても結局普通の授業に戻った際にはついていくことができないということが言われている。しかし、これらの教育が行われている。
3.3 2章を踏まえた課題点
2章の3で述べたことを踏まえ、初期の日本語教育の必要性は大いに理解することができた。しかし、土屋ら(2014)は、外国人散在地域である山形・福島の2地域を取り上げ考察を行っている。子供に対する教育支援は、支援者と学校教員が担っており、子供がいなくのあるとその取り組みは中断される。その事例として、山形県と福島県は外国人散在地域と呼ばれる地域に分類されていることが前提にある。これらの外国人散在地域では、子供に教育支援が行政の施策になりにくく、予算の確保が難しい。現在の教育職員免許法及び教育職員免許法執行規則においては、外国につながる子供の教育に関する科目は必修化されておらず、知識もないまま、受け入れ経験の全くない学級担当がその対応にあたることが多い。仮に、管理職等が自ら苦労して外部から支援者を探し出し、支援者が学級担当と共に子供を教育支援できたとしても、その子供がいなくなったら、取り組みが終わり、それに関する知識や経験は、学校や地域に蓄積されない。期間において、また新たに子供がやってきたら、ゼロから取り組みが始まるという繰り返しで、外国人につながる子供の教育環境はなかなか整備されな。加えて、外国につながる子供の教育に関する明確な法律は未だ定められていない。そのような中で、山形県では山形市を含む4市2町では、2009年度から市長教育委員会による日本語指導員の派遣とコーディネートの体制が整ったが、この地域の教育支援において、大きな役割を果たしているのは、支援団体女性と情報交換を行うサポート会である。年に一回の総会と情報交換会で、市町担当課、教育委員会と支援団体が同席して顔を合わせ「人と人」とのレベルでつながりが生まれる意義は大きい。教育支援の実際においては、支援者の所属するサポートネットが大きな役割を果たしている。子供が少なく散在している地域では、学校単位で教育支援を完結させることができにくく、学校と支援者の連携が一層重要な意味を持つ。支援お必要な子供の入学・編入に際しては、キュいく委員会がサポートネットに支援者の紹介を依頼し、サポートネットの協力を得て日本語指導員派遣をコーディネートしている。 一方福島県では、学校への有償支援員の派遣が行われている。これは、予算措置のもの行うものである。福島市では、多国籍児童・生徒サポーター派遣事業」として制度化され、予算措置化が行われている。これは、市教会が主催となり予算措置を行っている。福島市内の学校に外国につながる子供が就学し、日本語や教科学習の支援が必要であると認められた場合には、学校から福島市教育委員会へそこから市教会へと連絡があり、サポーターという名称で有償支援員の派遣が決定される。これを行うにあたって、支援前、支援中、支援後の3回に渡って保護者、有償支援者、学校教員、司教会職員、県教会職員が5者で協議を行っている。予算措置かされていない市に対しては、初年度に限り経費を県協会が補償する制度も存在している。県協会は移動がないため、一般行政機関に比べて安定した専門職のポストがあることから、情報・人脈・知識・経験が蓄積されるといった人的な長所を生かしている。このように散在地域では基本的に外国にルーツを持つ子供がいなくなったら支援がゼロになってしまうという課題点がある。しかし、これらを解消する方法を2県では取り組みとして行っていることもわかった。しかし、このほかにも課題として、小池・古川(2021)に記されている、「『学年相当の学習言語』とは何かに関する具体的な説明や定義がなされていない」こと。また、李の2020年の研究によると、小学校における多文化共生教育の現状として、外国にルーツを持つ子供が多く存在する地域においては日本語教室を拠点とした多文化共生教育が学校全体の取り組みとして実施されている現状がある。しかし、上記の例の様に、児童の少ない散在地域では手厚い教育支援は期待できないとしている。
第4章 散在地域(富山県)の現状から見える課題点
4.1富山県の現状について
まず、富山県の現状としては、日本語指導が必要な生徒が令和4年の調査の時点で、472人と全国的に見て中間的な地域であると考えられる。しかし、現状としては、外国人の子供の所在地は県内で散らばっており、なかなか言語教育を平等にすることが難しいとされている。このような現状において、富山県の学校説明などの対応言語について現在は、7ヶ国語(日本語、英語、中国語、ポルトガル語、タガログ語、ロシア語、ウルドゥ語)に対応している。
4.2富山県におけるフィールド調査から分かったこと
筆者は、2023年10月21日(土)アレッセ高岡の「学びの選択肢創造プロジェクト進捗報告会」に参加した。この会議ではグループディスカッションを行い、偶然にも、教育委員会の方、市議会議員の方、スクールソーシャルワーカーの方と議論させていただく中で、以下のことが課題として見えてきた。しかし、これは富山県の中でも2番目に外国人の多い高岡市に関するものが多く、富山県全ての課題と考えることは難しいため、今後もう少し調査が必要であると考えている。まず、外国にルーツのある子供達への奨学金などは充実しているものの、その存在を学生や親が知らない現状があるということ。そして、高校受験などのハードルが高い現状がある。例えば、入試の際に高校以上で学ぶ文字にのみ、ふりがながふられていないなどが挙げられていた。さらに、中学校の先生方は、高校に進学させてしまえばという考えを持ってしまっている課題点があること。そして、外国にルーツを持っていて、日本語がまだ上手にできないこの受け皿が少なく、私学に進学することしか方法がないなど公立の支援が充実していないということや、中学校や高校では英語にしか対応してもらえないというものが挙げられた。しかし、これは富山県の中でも2番目に外国人の多い高岡市に関するものが多く、富山県全ての課題と考えることは難しいため、今後もう少し調査が必要であると考えている。
第5章 大阪府を事例に
5.1 大阪府の多文化共生の歴史
大阪府では2021年から「大阪府オンライン日本語指導」という取り組みが行われるほど、外国人に対した環境が全国に比べると整っているということができる。本章では、この大阪にフォーカスをあて、まず、どのようにして大阪が多文化共生に秀でた街となったかについて述べ、次に「大阪府オンライン日本語指導」について大阪府教育委員会へのインタビュー調査の結果と、朝日新聞の記者である加藤あず佐さんへのインタビュー調査の結果について述べる。最後に、これらの大阪の多文化共生の特徴とインタビュー調査を併合して分かったことと、課題点について以下詳しく述べていく。 初めに、多文化共生に秀でた街となった理由について述べる。これに関して、私は「多文化共生の実験室『大阪から考える』」髙谷幸偏著のものを引用する。大阪は、「日本語指導が必要な高校生の進路」についての結果を見ると大阪府立高校に通う日本語指導が必要な生徒は全国平均と比較した際、中退率が低く、進学率が高いことからも、大阪府の教育支援は課題点はあるものの、全国と比較するとうまくいっていることが伺える。これは民族学級の存在の大きさが挙げられる。関西の特徴として、人権教育がベースにあり、そこに多文化共生があることが大きい。これにより、「違いを豊かさに」「違いを排除の理由に」から「違いを尊重し、豊かさに」転換できる実践の深化や拡大と言う考え方が波及していることが伺える。この理由には、歴史的な背景が大きく関係している。まず、移民や民族的なマイノリティを対象にした特徴的な政策が様々に存在することが所以としてあげられる。その一つが「民族学級」である。そのほかにも、2000年第諸島に行われたヘイトスピーチに対処する条例が全国で一番早く設置されるなど行われたのも大阪市であり、多文化共生に対する視点が目覚ましい。一方で全国レベルの「多文化共生」は、よく知られているように2006年に住む生姜「地域における多文化共生推進プラン」を公表し全国的に関連の政策が取られるようになった。さらに2018年に出入国管理及び難民認定法(入管法)の改正を機に、政府レベルで「外国人の受け入れ・共生のための関係閣僚会議」設置され同年12月には「外国人材の受け入れ・共生のための総合的対応策」が策定された。これは、外国人労働者の受け入れ拡大を踏まえ、「外国人材の受け入れ・共生のための取り組みを政府一丸となっていくという観点」から取りまとめられた。しかし、外国人政策のほとんどが共生政策と同義になり、この共生政策は何を目指すべきかわからないものとなっている。また多文化共生に関しても定義が曖昧であり、構造的差別や歴史的不正義の観点が欠如しており、マジョリティに都合がいいマイノリティ像を土台にしていることなどが批判されている。しかし、関西の中でも、特に大阪では、上記でも述べた通り、人権教育がベースにあり、そこに多文化共生がある。(大阪の「多文化共生」のルーツは同和教育を端を発する人権教育にある)しかし、他の地域はそのスタート地点がない問題がある。そんな関西だが、1970年代から活動してきた人々が第一線を退く時期にあり、これらの理念や実践が次世代に継承できるかが課題となっている。上記の中で出てきた、民族学級についてだが、民族教育は帰国と直結する朝鮮学校で受けるべきという教育論が確立し、教員たちは、子どもたちを日本の公立学校から「民族学校の門まで」連れていくという認識も作られて行った。これが、公立学校就学(保障)への批判や朝鮮学校での教育の奨励擁護論が継続的に発展してきた歴史にもつながる。大阪で、公立学校に在学する外国人の教育問題が顕在化したのが、1950年、大阪市立今里中学校が朝鮮学校として創立された時に始まったとされている。それに先立ち45年に朝鮮学校閉鎖令によって朝鮮人児童・生徒は、樹種学校としての朝鮮人学校や公立学校としての朝鮮人学校、公立学校の民族学級、何も配慮されていない公立学校へと分散された。そしてその多くが、日本の公立学校の体制かにおかれた。朝鮮学校閉鎖令とは、第二次世界大戦後に日本において在日朝鮮人によって創られた朝鮮学校に対する1949/10/19に施行された(GHQ) の意向による閉鎖令のこと。GHQの意向による文部省の通達により各地方自治体が行政措置として行ったものである。1945年に第二次世界大戦が終結すると、日本国内に居住する在日朝鮮人が、主に個人宅・あるいは公私立学校・工場を間借りする形で、「国語講習所」と称する朝鮮語による民族教育を行う教育施設を全国各地に作った。それらが1946年以降在日朝鮮人連盟(以下朝連と略す)によって学校の形を整えて行った。その後朝鮮半島の政治情勢が悪化するとGHQの意向により文部省が1948/1/24、各都道府県宛に以下の通達を出した。①在日朝鮮人も日本の公私立学校に就学する義務がある②私立学校は学校教育法で定める認可を受けなければならない③義務教育機関における各種学校は認めない④朝鮮語教育は課外で行っても差し支えない。これらによって各自治体は朝鮮学校を閉鎖させた。この公立学校に在学する外国人の教育問題が顕在化された1950年の後、1971年4月、大阪市立中学校校長会が全市中学校校長に配布した1970年『研究部のあゆみ』の「外国人女子教育の実態と問題点」が差別的な文章であり、大阪の外国人教育を大きく転換する機会になった。豊中など15組の職員組合(15単組)が窓口となり、大阪府教育委員会との交渉を続け、1988年に「在日韓国・朝鮮人問題に関する指導の方針」が策定された。それに伴い、府内市町村外教を束ねるものとして府外教設立が目指された。府外教の結成記念誌によると「日本語がわからないままの編入学のため、意思疎通ができないこと、民族文化の違いから生じる日本の子供との摩擦やいじめがある中、日本語指導や日本の生活習慣、文化への適応教育が中心になっていることを指摘し、民族文化に対する理解と尊重の態度を日本の子供に培うことを、20年かけて進めてきた外国人教育による同化と排除意識の克服として全面に打ち出している。その象徴として、スローガンになったのが、「違いを豊かさに」これは「違いを排除の理由に」から「違いを尊重し、豊かさに」転化できる実践の深化や拡大を目指そうとしていることなのではないだろうかと言われている。多文化共生の学校が必要とする観点として以下の5つが挙げられる。①自尊感情を育てる②子供の関係性を高める③カリキュラムの改革④進路補償をあげる。⑤地域活動として当事者の活動やさまざまな交流や支援がある、と言うものであった。また、多文化共生の問題意識として基本的な方向について以下の3つを提言している①母語能力に応じた日本語教育②教科書学習と結合した日本語教育③母語の保持・伸長を目的とする母語教育である。また、西日本最大の繁華街は、定住外国人の集住地域(1980年以降に来日したいわゆるニューカマーが多く住んでいる。)でもあるとされている。そのような地域で、2012年4月に外国人母子の無理心中事件が起きた。この事件をきっかけに、13年9月に外国につながる子供たちのための地域の学習教室Minamiこども教室が始まった。経済不況下では、移民コミュニティとホスト社会の地域レベルでの関係性が重要だとされている中でのこのような事件が発生してしまったのである。日本全国に通称フィリピン・パブと呼ばれる風俗営業店が乱立した時代があった。南の歓楽街にもフィリピンパブやインターナショナルパブが乱立するようになった。しかし、1980年台から2000年台前半にかけて、旧入国管理法は述べ100万人以上のフィリピン人に在留資格「興行」を発行している。しかし、2004年にアメリカ国務省により「人身売買の容認国」と批判されたことをきっかけに、日本政府は興行査証を厳格化するようになった。こうして、新規来日するフィリピン人女性が激減したことでフィリピンパブは減少し衰退したが、東京都足立区や名古屋市中央区、そして大阪中央区などの大都市の歓楽街には現在も数店残っている。そのため、統計で見ると女性が男性の1.3倍も多いことに理由がわかる。外国人の親は、昼夜問わず働いて暮らしに余裕がない状況があった。そのため、夜間に親が働いているため、子供たちは一人で家にいることが寂しくて深夜徘徊をしていた。また、親が帰ってくるまで眠りにつくことができず、深夜まで起きていて学校に遅刻しがちだった。ある日は、子供が熱を出しても仕事を休めない親のために、兄弟が学校を休んで妹や弟の面倒を見ていた。賑やかな裏路地で暮らす子供たちは、安心して過ごせる居場所がなく、また経済的な貧困の中に生きている現状があった。そのような中で、南小学校の元校長は事件を受けて、学校が取り組んだこととして、授業の見直し、自主学習と生活設計、地域学習だった。この三本柱で独自の「多文化共生の学校づくり」を実施し、子供たちの生活意欲や学習意欲を高めてきた。事件当時、大阪府教育委員会小学校に対して児童「学力」をあげるようにプレッシャーがかかっていたことで、現場の教員は日本語能力がおぼつかない子供たちの「学力」をあげる脳にプレッシャーがかかっていたことで、現場の教員は日本語がおぼつかない子供たちの「学力」を向上させようとするあまり疲弊していた。この事例から決して「学力をあげる」というものを目標にするのではなく、まずは、子供たちの自己肯定感を育む授業をするようにすることが大切である。そうすることで、子供たちに自信がつき、学校が楽しいと思うようになることで出席率も上がり、結果的に学力も少しづつ上がっていったという。また、学習教室Minamiこども教室の特徴は南小学校と子供一人ひとりの学習状況や私生活実態に関して情報公有することができる点がとても良いとされている。これが大阪を多文化共生の街に近づけた理由ではないかと考えられる。
5.2 大阪府の現状と取り組み
大阪府では、大阪府は平成21年1月から大阪府の教育力向上プランに基づき様々な活動がおこなわれている。その中でも特に外国人の子供が非常に多い地域の事例として、東大阪市の多文化共生教育、八尾市のSALAという学校の宿題の補助などを行う取り組み、また大阪市の検討中の取り組みとして、転入前に初期日本語教室の開催などがある。しかし、大阪府の中でも外国人の子供が少ない地域では、制度が整っていない現状があることがわかった。一例として、河内長野市を挙げる。今回河内長野市にインタビュー調査を行う中で、河内長野市国際交流協会の日本語サロンでは、日本語指導クラスはあるもののボランティアで成り立っていると言われていた。さらに、主な対象は技能実習生であり、子どもには基本的に対応していないという。これらのことからわかる課題点として、地方自治体によって支援の方法は大きく異なるということである。これは、李(2020)の研究によると、小学校における多文化共生教育の現状として、外国にルーツを持つ子供が多く存在する地域においては日本語教室を拠点とした多文化共生教育が学校全体の取り組みとして実施されている現状があることが言われている。しかし、この現状に対して、大阪府は2021年から「大阪府オンライン日本語指導」と言う取り組みを始めた。これは、日本語指導が必要な生徒は増加している現状があるにも関わらず、学校によっては外国人の子供が少なく、日本語教育がうまく執り行えていな現状をオンライン教育に変換することによって、その子供たちに対しても日本語教育を同質に行うと言うものである。具体的には、初期日本語教育においてオンライによって言語別に取り出し授業を行うというものである。大阪府では、これにより、地域間の差を無くなると予想されている。
5.3 オンライン教育の現状(インタビュー調査より)
「大阪府オンライン日本語指導」について大阪府教育委員会へのインタビュー調査の結果を述べる。今回本研究において、大阪府教育委員会にオンライン教育についてお話をお伺いしたいと言ったところの返答としてこれらのことが返答としてきた。「オンライン日本語指導について週に2時間に4名の指導員の授業の準備に割いて、教育をしており、日本語指導は言語関係なく行われており、日本語で日本語を教えている。」ということだった。 次に、朝日新聞の記者である加藤あず佐さんへのインタビュー調査の結果について述べる。加藤あず佐さんは、「増える外国ルーツの子に オンラインで日本語しどう 大阪府教委が支援」と言う記事を書かれている。彼女にインタビューをする中で、「外国人の子供たちのフォローをする先生方もいっぱいいっぱいであり、オンライン教育が進んだことによって、大阪府教育センターの方に授業を任せることができたことは、教員としての負担の減少にもつながった。一方で子供が一人で授業を受けることは難しいため、先生が付き添う必要性はあるため、人員の確保は必要である。」という回答をいただくことができた。
第6章 初期日本語教育を行う方法について
6.1 オンライン教育の具体的な方法
オンライン教育の具体的な方法について、以下「教育の方法」「予算」「関係各省庁」の視点から詳しく述べる。これは基本的にオンライン(現在でいうところのズームなど)を使用した授業となる。 まず教育方法に関して目標として「学校生活を送る上で必要最低限の意思疎通ができる様になること」を掲げる。このために具体的に1ヶ月ごとに教育が必要な子供の募集を行いクラス編成を行う。(仮に、募集期間以外の時期に編入や入学があった際には、サバイバル日本語を教員が教えながら、通学級クラスで生活を行う様にする。)そしてクラス編成をする際には、最高でも8人までを一人の日本語指導教員が授業を行うこととする。このオンライン授業ではオンラインを使用している間各学校の教員が最低一人はオンラインを受けている教室にいる状況を作る様にする。例として多言語の子供が人クラスに集まって授業を受けている場合は場合によっては、補助教員などを配置することを提案する。このクラス編成の最高人数が8人と定めているのは、支援学級の最高人数と同じものを例として決定した。このプログラムは、原則1日に2時間の取り出し授業を行い60日間(120時間)のプログラムとして行う。このプログラムの中で1ヶ月ごとにテストを行い、レベルに達していなかった場合には、放課後教室などの時間を使用して補講を行う。この補講に関しては補助教員がオンラインの子供を見守る形を許可する。また、このプログラム中に週に一回小テストを行いこのテストに関しては理解できていないところがあれば、教員が個別に解説を行う様にする。テキストやテストに関しては、政府(文部科学省)主体でアプリ開発を行い、主にテストに関しては、アプリ内にあるテストを使用して教員もしくは生徒自身が回答をしたり、採点を行うものとする。 具体的なテストの内容をここからは述べていく。まず指導内容は大きく分けて2つになる。「生活面」と「学習面」である。「生活面」では自己紹介(名前や年齢が答えられる)ができること。挨拶(サバイバル日本語)ができること。授業で使用する指示語が理解できること。が挙げられる。サバイバル日本語とは、健康・安全・関係づくりなどの観点や,教科や文房具,教室の備品名など,学校生活で日常的に使う言葉のことである。これらのことが2ヶ月のプログラムで達成されることを求める。このテストに関しては、口頭テストを子供を見守っている教員が行う。次に「学習面」についてであるが、学習面では、「ひらがなの読み書き」ができること。「名前のひらがなの読み書き」ができること。「数字の読み書き」ができること。最後に「カタカナの読み書き」ができることを求める。これらのテストに関しては、口頭テストとオンラインテストの二つから成り立つ様にする。またこれらの授業時間は、授業時間としては現在の特別教育課程において確保されている上記の時間を使用しようと考えている。 このオンライン授業の単位としては、主に市を単位にして行いたい。しかし希少な言語に対しては県単位や全国単位で対応していくことを検討している。初動の段階では現在政府が外国人の子供のためのホームページにおいて対応している14言語から対応していくことを検討している。予算としては、大阪府がオンライン教育を行う際位に使用した教育費の0.002%と同率の約105億6千万円を予算として使用することを検討する。(全国の文部科学関係予算5兆2818億とされている。)この制度を運用するために必要な関係省庁としては、デジタル庁、文部科学省、法務省などが挙げられると考えている。 また、このオンライン初期日本語指導は、全国的に行われるものとなることを想定し、全国の子供達と日本語指導教員・教員・保護者をつなぐツールとなるアプリも同時に開発することを検討する。このアプリでは先ほども上記で述べた通り、テキストやテストのツールだけではなく、日本語指導教員が教員や保護者にその日の学習記録をアプリ内で送るほか、保護者や教員が子供に対して気になることなどを気軽に相談できる相談室を作り、常駐の日本語指導教員や大学で日本語指導に関して研究を行っている教授などを配置し、相談に対応できる様にすることも検討する。
6.2 オンライン教育を行う上での課題点
①学業挫折をなくすと言うこと。②母語と日本語を同じ割合で学ことができる環境を作ること。③日本語指導教員の充実をはかること。④各市町村、都道府県単位で教育委員会が協力を行い、必要に応じて、日本語指導教員をトレードすると言うこと。これら4点である。これについて以下詳しく述べる。 まず初めに、①の学業挫折をなくすことについてだが、第2章において「外国人の子供に対する初期日本語教育を受けさせる短期的な目的として、子供の学業挫折をなくし非行や犯罪を減少させることが可能となる。」と述べた。これからもわかる通り、学業挫折をなくすことは、非行少年を産む原因を減少することにつながる。また「ケーキのきれない非行少年たち」の著者である宮口先生にインタビュー調査を行ったところ、非行少年の多くが簡単な計算問題でつまづき(例えば九九の計算など)その後の授業に全くついていけないなどがあると言われていた。このことから、算数などを中心に文章問題が理解できるような指導方針が必要であると考える。次に、②の母語と日本語指導を同じ割合で行う環境を作ると言うことに関してだが、第4章で述べた通り、言語教育は8歳までがとても重要であるとされていることから、障害者の授業と同じように交流級などをオンライン環境で作り、母語を話す時間を作ることが良いのではないかと考える。次に、③で述べた、日本語指導教員の充実をはかる事についてだが、アメリカ方式を使用し、大学などで、JSL教育について学んだ人のみが日本語指導教員の資格を持つことができる制度を整え、さらに教員になる大学生は必ず多文化共生の授業や外国にルーツを持つ子供に対する授業を必須でうけ、先生として、これらの資格を有することができるようにするべきであると考える。また、この制度に含まれない人であっても、日本語指導教員のサポートを行うことができる、補助教員の資格もある一定度の講義を市町村などの教育委員会で受講すれば得られる仕組みを作ることが良いのではないかと考える。最後に、④の市町村、都道府県単位での協力に関してだが、これはとても困難を極めると考えられる。現にアメリカではESL教育が行われているが、これらの指導教員は州ごとに法律が異なっている現状がある。このことからも、日本において足並みを揃えることは難しいと考える。また、日本は縦割りの弊害なども多く存在するため困難を極めることが予想される。そこで、縦割りの制度を教育委員会において撤廃し、全国をまとめる教育庁を設置し、この省庁がオンライン教育において全国的に管轄を地方ごとに区分し、統括することが良いのではないかと考える。しかし、これを行うには時間が必要であると考えら得るほかにも多くの課題点があると考えられることから、まだ検討の余地がある。
6.3 オンライン教育の長所と課題点について
この取り組みは、同時に授業を他の学校の母国語を同じとする子供と授業を受けることができるため、これらの取り組みは、バトラー後藤の2009年の研究においてにおいて、バイリンガル教育の文献で述べられている「母語で十分な学習言語を習得することが、第二言語での学習言語習得に役立つ」ということにも寄与する。これらのことから、この取り組みは、他の都道府県に関しても行う必要性があるのではないだろうか。これらを行うことで現在は初期日本語指導に焦点が絞られているが、最終的には母国語教育にも応用をすることができるのではないかと考える。この提案のメリットとして、教員が全国的に情報交換を行えるということ。次に、地域に関係なく、同等の質を受けられると言うこと。さらに、母語を同じとする子供とよりつながることができると言うこと。最後に現在の日本語教育の方法よりもコストダウンを行うことができると言うことである。一方で課題点として、オンライン教育は様々な省庁が連携をとる必要性があると考えられるため、縦割り制度が執り行われている日本では弊害が多いのではないかと言うことが考えられる。また、移民労働者の子どもの言語教育のサポートをすることは、外国人住民の識字率を向上させることに繋がり、在留資格・難民申請の要件に今後なる可能性が考えられます。そして最後に、オンライン教育を行うにあたって、zoomなどの海外のツールを利用することによる、コストがある一程度かかることが予想されるため、今後、日本のツールを作るなどの検討が必要であると考えられる。また、今後入り込み授業について考えるようになった際に、外国人の子供の集住地域と散在地域で加配教員の人数などによって課題点が出てくる可能性が考えられる。しかし、まずは初期日本語教育について考えることが先決である。さらに、将来のグローバル人材の育成にかける費用は今後の日本の経済の発展に寄与するため必要経費なのではないかと考える。最後に、実現可能性についてだが、端末利用活用状況等として、全国の公立の小学校等の96.1%が「全学年」または「一部の学年」で端末の利用を開始していることが文部科学省の調べによりわかっている。また、大阪府において、「GIGAスクール構想の実現」により、大阪府内の小・中学校に児童生徒向けの1人1台タブレットPC端末等が整備され、授業等の教育活動に活用されている現状がある。これらの現状からオンラインによる日本語教育は可能であることが考えられる。
第7章 おわりに
本稿は、「外国にルーツを持つ子供に対する初期日本語教育の全国一斉オンライン授業の提言」というテーマで研究を行ってきた。この結果日本は少子高齢化に伴い外国人労働者の必要性が増大し、その結果国際結婚など多文化共生が必須となった。一方で、これらを受け入れる過程で、外国人の子供の日本語教育の必要性について私は本研究で考察を行った。その中で日本には不就学の児童生徒が約2万人いる状況があるということ、さらには言語教育は集住地域と散在地域によって教育格差があるという事が分かった。そこで比較的言語教育が発展している大阪府を事例に、インタビュー調査などを行った。その中で、「大阪府オンライン日本語指導」の存在に辿り着いた。このオンライン教育は全国的に発展させる必要性があると私は考えた。そこで、オンライン教育の課題点として日本語指導教員が少ないことや母語ごとに言語教育を行うことができていないなどがあることがわかった。
これらのことから、今後の研究としてオンライン教育の課題点について、ゲーム理論をもとによりフォーマット化し、どのようにすれば全国的に実現可能になるかを検討する必要性があると考えられる。さらには、上記で述べた通りオンライン教育のためのアプリ開発はどの様にするべきなのかについても検討を重ね、実現可能性をより具体化する必要性があると考える。これらを具体的に検討することで、今後の言語教育は大きく変化を遂げるとともに、短期的には外国人の子供の非行を減少させ、長期的にはグローバル人材の創出やバイリンガル・トリリンガルの創出につながり、日本に大きく寄与するのではないかと考える。
参考文献
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