#3 行き止まりの夜
ダンスホールには、かつてのアイドルたちが残していった曲が電子音に変わって鳴り響いていた。
形を覚えていた。
あの形は、彼に違いない。
プラスチックのコップを片手に零しそうになりながら、夢中でその形に近づく。
逆光で表情は見えない。
でもたしかにその横顔、髪型、肩のシルエット、どれを取っても彼だった。
見つけた!とばかりに駆け寄った。
「おつかれさま!」
コップを彼の手元に近づけにいく。
まだ表情は分からない。
真っ暗の中、ミラーボールの緑の光線が眩しすぎて、彼の表情はもっと分からなくなった。
おぉ、三上さんは?
第一声、それかよ。と心の中で思う。傷がつく、とはこういうことか。
気を取り直して笑顔を作る。
「三上さんはそこにいるよ!今来たの」
彼の同僚で、私の友人・三上さんも寄って来た。
あっという間に2人の時間は幕を閉じる。
その後は2つあるフロアを行ったり来たり、浸りたいテイストの曲がかかっている方に移動した。
彼がどこに居るかを気にしてはいけない。どっちの部屋に居ようが、どんなにその姿を見たかろうが、彼の動きに翻弄されてはいけない。
見ないように、確認しないようにしていたが、そんなのは無理に決まっていて、必ず姿を追っていた。
彼も好きに行き来しているはずが、どうしても自分を避けているように見えてしまう。
私は三上さんに誘われて来ただけだからそう開き直れば怖くない気がした。”別にあなたに会うためじゃないよ”。
どんな風に見えていようが、知ったこっちゃない。
避けるがいい、私がいると居づらいなら避けたらいい。
彼の会社主催のクラブイベントも中盤にさしかかっていた。
「もう帰ります。またみんなで飲もう!」
三上さんに近づいてきたそのシルエットは世界で一番好きでたまらない彼だった。
気付けば、私には言うことないの?と言わんばかりに耳を近づけている自分がいた。
気持ちと比例して体も前のめりになり、彼の眼鏡に自分のこめかみが当たった。
その勢いで眼鏡がズレたのか、目に当たって痛かったのか、
一瞬近づけた顔を鬱陶しそうに離し、三上さんへ伝えた言葉と同じ言葉を私にも伝えた。
「もう帰ります。また」
そんな終わりじゃ悲しい。
三上さんに先に挨拶に来たのも悲しい。
今日は、これで終わり。終わり、終わり...。
彼が箱を出たのを察して、トイレで頭を冷やした。
ううん、違う。おかしい。いやだ。
自分勝手な言葉が頭を駆け巡る。
次の瞬間、LINEの文字を打っていた。
「お家に帰っちゃうの?」
「うん、ちょっと病み上がりで」
「そうだったのね。1人で大丈夫?」
大の大人が1人で大丈夫に決まっている。それでも気が収まらなかった。
だって好きなのである。
とてつもなく尊いのである。
ここで引き下がるわけにはいかなかった。
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