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インド一人旅の初日にiphoneを失ったら~Vol.5~

〜Vol.4からの続き〜

流れに身を任せることを決めた僕は、彼のバイクタクシーに乗ることにした。
もう名前も忘れてしまったが、便宜上、彼をAと呼ぶことにする。

まず向かうのはもちろん、タージマハルだ。
しかし、走り出して10秒後には「やっぱりUberにしておけばよかった」と後悔しはじめた。
バイクタクシーの座席は、ほぼ外だ。
日中ならともかく、朝の時間帯には寒すぎるのだ。

ガタガタ震えている僕に、Aは振り返り、メモ用紙らしき束を渡してきた。
聞けば、今までに彼が乗せた客の直筆メッセージだという。
いわば「お客様の声」的な営業ツールだ。なかなか気の利いたビジネスマンみたいなことをする。

そして「俺が乗せたお客さんはみんな喜んでくれた。どうだ、良いことばかり書いてあるだろう?」とドヤ顔で自慢してきた。
しかし、よくよく聞いてみると、彼は日本語が読めないという。どないやねん。
そして、その「お客様の声」には、そこそこ微妙な意見もちらほら書かれていた。なんでやねん。

そんなこんなで、タージマハルに到着した。
Aは、チケット売り場の場所を教えてくれて、「2時間後くらいにここで待ってるから」と、目印となる待ち合わせ場所を教えてくれた。
この頃には僕は、「どうなることかと心配してたけど、意外と悪くないかもしれない」と思い始めていた。

そこから2時間ほど、タージマハルを満喫した。
それは息を飲むほどに美しい光景だった。
大昔によくもまあこんな美しい建築物を造れたものだ、と感動していると、「写真を撮ってあげるよ」と、インド人らしきおっちゃんが話しかけてきた。

昨夜、iphoneを強奪されたばかりの僕は、さすがに警戒しながらも、せっかくなのでちゃんと自分も写った写真も撮りたいと思い、ipadを渡してみることにした。タージマハルの敷地内なので当然バイクはいないし、仮にダッシュ勝負になっても、このおっちゃんには勝てると踏んだからだ。
しかし結果的には、写真を撮り終えると、おっちゃんは爽やかにどこかへ行ってしまった。ただの親切な人だった。ごめん。

タージマハルを満喫した僕は、その周りも見ておきたいと思い、少しくらいならいいかと、さっきAに言われていた待ち合わせ場所とは逆の方向へプラプラ歩いてみた。
するとすぐに、誰かに後ろから肩を叩かれた。振り返れば奴(A)がいた。「どこへ行くんだ」と。こわい。

このあたりからまた、嫌な予感がし始めていた。
案の定、Aは「食事はどうだ」と聞いてきた。まだ腹も減っていなかったが、少し走ると、勝手に飲食店らしき場所で停車した。
そこは薄く暗く、他に客は誰もいなかった。どう考えても癒着している飲食店だ。
「やられた」と思いつつも、これがインドというものかと諦め半分で、大してうまくもないカレーと割高なコーラを流し込み、店を出た。

怪しげな展開は、さらに続いた。
Aは今度は「土産は欲しくないか」と聞いていた。
最悪、インドでカレーを食べるのは悪くないが、怪しげな土産物は絶対にいらない。僕は明確に拒絶した。
しかしAは、またしても勝手に、土産物屋らしき店の前に停車した。

なるほど、そういうビジネスモデルか。ここまで来てようやく僕は状況を理解した。
それならば受けて立ってやる。ジャパニーズをナメたらあかん。
これから先、日本人観光客がカモにされないためにも、俺が一矢報いてやる。

〜続く〜


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