
「お菓子な絵本」39.エピローグ(終) & ♪エンディングテーマ
39. エピローグ
扉は開かれた。
マドレーヌはふかふかのベッドの中、お気に入りのまくらを抱えて静かに眠っていた。頬のバラ色が彼女の無事を証明している。
ジャンドゥヤは安堵のため息をつくと、この上なく優しげな表情で遠慮がちにマドレーヌを見つめた。
「これがあなたの望んだ結末ですか? お嬢さま」
ジャンドゥヤの視線があんまり温かくて、マドレーヌは自分がこのまま溶けてしまうのではないかと思った。ずっと待ち続けていた。夢の中で。ジャンドゥヤ王子に起こされるこの瞬間を。
── 彼はうやうやしくわたしの手をとり、夢の世界にそっと語りかける。
「お目覚めの時がきましたよ。マドレーヌさま」
そして眠り姫は王子さまの優しいキスで目を覚ます ──
はずだった。
マドレーヌはじっと待った。だけど、いつまで待っても……、何も起こらない?
かすかな気配で彼女は目覚めた。
ゆっくりと身を起こしたマドレーヌの視界に入ってきたのは──
ベッドの足元に寄りかかり、床に座ったまま正体なく眠りこける王子、ジャンドゥヤの姿だった。眠り姫を起こした気配は、彼の安らかな寝息だったのだ。
「さすがね、ジャンドゥヤ王子。よくぞここまで乙女の期待を裏切って下さること」
マドレーヌはぷうっとふくらまって感謝のこもった悪態をついた。そして降参し、王子の肩にブランケットをふんわり掛けた。
彼女は知っていた。王子のこの態度が、彼の控え目な愛情表現であることを。命をかけてここまで来ていながらも、そっと起こさずにおいてくれた彼の優しさを。
「これがあなたの結末ならば……」
ジャンドゥヤのあどけない寝顔に、マドレーヌは愛情たっぷりの視線を投げかけた。
「とことんお付き合い致しますよ。どうぞゆっくりお休みなさい」
どこからか風に乗って、懐かしい唄声が聞こえてきた。
マドレーヌはそよ風と一緒になって、その幸せな子守唄をそうっと口ずさんだ。
── おはなしは、これでいったんおしまい ──