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「10分未来のメッセージ」 12.エピローグ
「10分未来のメッセージ」これまでのお話……
百貨店の警備員、朝土永汰は「10分先の音声が、ふと聞こえてしまう」という己の特殊能力に気づいて以来、様々な騒動に巻き込まれていく。
新たに生まれた恋すらも、とんだ殺傷沙汰に発展するが、それがきっかけとなったか、10分先の音声だけでなく、10分後の視覚までも見通せる超能力が備わってしまったようだ。
永汰は人類の未来の為に、自分にできる限りの務めを果たして生きてゆく覚悟を決めるのだった。
12.エピローグ
「自分一度は死すらも覚悟した人間。だから新たな人生も、悪くないかな」
刑事が深く相づちを打つ。
「人類はそろそろ認識すべきなんでしょうね。あなたがご自身で気づかれたように、各々に与えられた潜在的な特殊能力を。誰もが持っているはずの」
彼はふっと、遠くを見つめながら続けた。
「ご安心を。太古の昔から彼らはあくまでも中立、善の組織ですから」
太古の昔だって? そう語る刑事は、まるで彼らをよく把握しているようだった。
いや、もしかしたら、自分も既に知っているのかも知れない。宇宙のどこかに見える光の存在のように知っている気がする。何だか懐かしい。そんな気が。
それは予感のように、10分先の未来を感じとるように、何か超越した次元でのメッセージを受け取れるような。
ただ、自分が気づいてなかったというだけで。
「永ちゃ〜ん?」
病室に絹江さんが入ってきた。
「やー、元気そう! 良かったあ」
「トゥィンクートゥィンクー♪」
えっ?
「ダダーン!」と、絹江さん。
大型バスケットの蓋を開けると、顔をのぞかしたのは……、
「きらちゃん!」あまりの嬉しさで、涙が。
「ほおら、永ちゃんだよお」
絹江さんに促され、きらちゃんはベッドの足元にポンと飛び乗ってきた。ぴょこぴょこおぼつかない足どりで布団の上を枕元に近づいてきて、ぺこんと頭を下げ、「なでて」のポーズ。
なんという愛らしさ! どうにか腕を伸ばし、冠羽をそっとなでてやる。
フランツ改めきらちゃんの世話は、絹江さんが買って出てくれたそうだ。血の惨劇の現場など、二度と思い出したくないだろう。寂しいが、オレが退院した後も、このまま絹江さんのお宅のペットになるのが、きらちゃんにとって幸せかも知れない。
そして、きらちゃんにすっかりなつかれた絹江さんも、完全にご満悦の様子。
「何てこと! 猛禽類がベッドに!」
さっきの女医さんが戻ってくるなり悲鳴をあげた。
「インコは猛禽類じゃありませんよお」
あっけらかんと反論する絹江さん。
「ここは病院ですよ!」
おお、さっきの優しげなエンジェルの面影は何処へやら? すっかり鬼の形相だ。
「すみません、引き留め切れなくて」
申し訳なさそうにドアから顔を出したのは、ユリさんではないか。
彼女が医者を引き留めておく算段だったわけか。笑いたいが、腹が痛くて笑えない。
良かった。彼女、元気そうで。あの悪意のクレームも、実は早川深咲の仕業だったんだろうな。自分の配慮が足りなかったせいで、ユリさんには本当に悪いことをしてしまった。誤解は解けたんだろうか。
「もうっ信じられない!」
と、鬼医者に追い立てられ、一同はそそくさと行ってしまう。
ユリさんが、「また来ますね」と、豪華な花のアレンジメントを置いていってくれた。何やらカードが添えてある。みんなの寄せ書きか。じんわりと優しさが身に染みる。残念だが、職場にはもう戻れないのかな。
「すみません、お騒がせしちゃって」
オレはベッドサイドの刑事に、お待たせしましたと声をかけた。百貨店の仲間、警備員の日常なんて、こんなものなのだ。ドタバタ騒動と、平穏無事の繰り返し。
「刑事さん? あれ?」
刑事の姿はなかった。
ここが何階かは知らないが、まさか窓からは出られないし、いつの間にいなくなった? 彼はベッドのこちら側にいたのに。まあ、オレたちが騒いでる間に普通にドアから帰ったんだろうが。それとも?
それともオレは、実体のない人物と会話してたのか?
まさかな。鬼エンジェルの女医さんが彼の入室を促したわけだし。
あるいは彼女も秘密組織の工作員だったりして?
そういや刑事はミスを犯したな。
── 救急車は、先に我々が手配した ──。
あくまで「警察の者」を装いながらも、秘密組織のやったことを、うっかり「我々が」と口を滑らしていたじゃないか。
刑事の姿を借りた、彼もまた、透明な存在の一員であったか。いずれ迎えが来るようなこと言っていたが、迎えは既に来てたのか。
ただ、自分がそのことに気づかなかった、というだけで。
自分だけじゃない。きっと誰にでも各々特別な能力があって、ただ、それに気づいていないだけ。
大切なのは、そうした能力を活かすタイミングを逃さないよう、そして宇宙からのメッセージをいつでも受け取れるよう、心を研ぎ澄ましておくこと。
嫉妬や憎しみ、恨みや虚栄心といった邪念は、人類はそろそろ捨て去る時期なのかも知れない。
その為には──
遙かな宇宙の深遠に、オレは想いを馳せた。
お話は、これで おしまい。
お読み下さいまして、心から感謝致します♪
Precious Planner
森川 由紀子