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1枚の古いカードから ~ セピア色の裏話


 ウィーンのナッシュマルクトにて、毎週土曜日に開かれる蚤の市。
 中古の日用雑貨や衣類などが格安で手に入り、中には新品同様の掘り出し物があったり、アンティークの貴重な芸術品に出会えることも。

「セピア色の舞踏会」の主人公、アントン・ヴァイスのお気に入り、アウガルテンの「ウィーンの薔薇」シリーズの優美な食器なんかも、お手頃価格で見つけられるかも知れませんね♪

 アンティークに目がない現地ピアニストの友人は、いつも午前中の早いうちに繰り出しては、主にワイングラスやフラワーベースといったクリスタル製品を探し歩き、運良く入手できた品々を惚れ惚れと眺めては、幸せそうに披露してくれました。とりわけヨーゼフ・ホフマンのシリーズに惹かれていたようです。
 その方の膨大なアンティークコレクションの中から「創作の参考にでもなれば」と下さったのが、表紙の3枚のポストカードでした。

 そのうちの1枚が、プラター公園の大観覧車です。

「セピア色~」の劇中でも触れているように、この観覧車は第二次大戦時の爆撃で破壊されてしまいますが、街の象徴でもある大観覧車を愛してやまなかったウィーンの人々の不屈の精神により、見事によみがえります。ただ安全上の問題で、30台あったゴンドラは、再建後は半数の15台に設定されました。

 破壊前の観覧車の姿が写っている、哀愁漂うアンティークのカードは、時空を超えたロマンスを語っているようでした。
 過去の30台と、現代の15台というゴンドラの数をモチーフにした、ちょっと切ない恋物語。


在りし日の観覧車


 カードを頂いた当時は、ウィーンが舞台の短編ファンタジー三部作『額縁幻想』に集中していたので、同じくウィーン物は別の機会にと、しばらく寝かせておくことにして、その後も、あれこれと溢れ続ける他の物語を紡いでいくうちに、観覧車の時空ファンタジーは、いつしか忘却の彼方に……。

 そしてある時ふと、ちょうど良いタイミングで古き大観覧車のポストカードが手元に出現。かつては漠然としていた物語でしたが、まとっていたヴェールが外されたように鮮明に語りかけてきたのでした。

 

現代の観覧車

 

 ゴンドラの数の異なった、別な時代に存在する観覧車。皆さんの心には、どのような物語が浮かびくるでしょうか?


 ちなみに、お茶目な短編「シャープないたずらっ子」は、「セピア色の舞踏会」の前日譚で、軽やかなメルヘン調の番外編となっています。

「セピア色の舞踏会」、
「シャープないたずらっ子」、
 どちらも 各々単独で完結しているのですが、実はその後、書き手も認識していなかった続きの話が発覚したのでした。

 題して「白の Rondo(輪舞曲)」。

 続編が容赦なく思い浮かんでも、「セピア色~」の余韻を大切にしたく、続きを書くなんてナンセンスと、2、3日は抵抗していたのですが、「セピア色~」を読んで下さる読者の方々の為、そして登場人物らの生存の為にも、物語が存在する以上、書き表すのは伝達者の義務と観念して、続編の執筆に至った次第です。
 半ば渋々ながらも書き進めるうちに、今度はキャラクターにまつわる驚愕の事実が判明! ぞっとする程に全てのつじつまが合ってしまい、そこから「白」及び「輪舞曲(ロンド)」といった続編のタイトルも生まれたのでした。
「セピア~」より少し長めの、サスペンスとミステリーの要素も少々含む時空ファンタジーとなり、note での公開は、5章に分けてあります。

 そして先に触れました、ウィーンが舞台の三部作『額縁幻想』は、6月に順次ご紹介の予定です。

 いつもありがとうございます。これからも precious な物語を、どうぞよろしくお願い致します♪


Precious Planner
森川 由紀子


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