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[#一歩踏みだした先に] 美大→漫画→うつ病→経営者→次は?
1977年生まれの私は、勉強ができるわけでもなく、スポーツも興味がなく、常識もあまりない、良く言えばマイペースで悪く言えば出来の悪い子供でした。中学からは不良グループに入り、高校に入学した後も似たような友達と過ごしていました。そういう友達と一緒にいるのは居心地が良く楽しかったです。…が、高1で停学になったあたりでこればっかりでも良くない気がしてきました。そんな中、ふと小学校の頃に図工の作品がよく先生に褒められていたのを思い出しました。忘れかけていましたが、自分にも1つ得意なものがあったのです。同時に美術大学というものがあるというのも知りました。そして美大を目指してデッサン教室に通い始めました。これが私にとって初めての「一歩」だったのです。
デッサン教室は土日は一日中、学校が早く終わる日は放課後に通っていました。当然、友達と遊ぶ時間は無くなりますよね。普段のデッサン教室に加えて、夏休みと冬休みは他の美術予備校の講習に通っていたので、高1の後半以降、多くの高校生が経験するような遊びはゼロになりました。でも、出来の悪い自分にも打ち込むものが出来て、ひょっとしたら出来が良い人間になれるかもと思ったら結構やる気があふれてきたのです。しかし高3の冬、美術大学は全部落ちました。諦めきれず1浪しましたが、それでも全部落ちました。ショックもあってその後半年くらい昔の友達とぐうたらしていましたが、せっかくなので普通の大学を目指そうと思い、夏から家で勉強を始めました。二回目の「一歩」です。
それから半年たって、2月の受験までには偏差値が40から70まで上がりました。結構すごいと思うのですが、正直なところ絵より全然簡単でした。なぜなら自分が高校3年+浪人1年の4年間に取り組んでいた「絵」は正解が無いですし、しかもこれが正解と思っていたら受験に失敗したわけです。難しいです。それに対して普通の勉強には正解がありますよね。それだけで簡単でした。美大は全部落ちましたが、今回は受けた大学は全部受かりました。しかしその後4年間、優秀な人たちに囲まれた生活を通してわかったのです。結局私の「良く言えばマイペースで悪く言えば出来の悪い」という部分は変わりません。サラリーマンとして就職する気が全く起きないのです。そしてやっぱりここは絵かなということで、自営業である漫画家を目指して出版社に持ち込みを始めました。ここでもまた「一歩」です。24歳でした。
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しかし30歳を越えてもデビューできませんでした。漫画賞は結構取れたので全然ダメというわけではなかったのですが、漫画が雑誌に載ることはありませんでした。美大と同じく正解が無くて難しい世界なのです。つきあっていた彼女のメンタルも、これでは結婚できないということで不安定になってきました。そこで何か収入になる仕事を探すことにしました。そして当時アルバイトをしていたファッション通販サイトの、商品写真を作成するフローに目を付けたのです。そして自分で会社を立ち上げてそのフローを丸ごと手に入れました。アルバイトがいきなりそういう展開を起こすのはありえないと思うかもしれません。これはもともとの私の「常識が無くてマイペース」という部分が良い方向に出たのです。設立されて日の浅いベンチャー企業だったというのも運が良かったと思います。また「一歩」ですね。そして無事収入も増えて結婚もできました。結婚も入れると「二歩」かもしれません。
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しかし、その会社はどんどん大きくなり、私の仕事も増えていきました。収入はすごく上がったのですが完全にオーバーワークで体を壊してしまいました。うつ病になってしまったのです。困ったことになりましたが、ちょうど妻が勤務先(トリマーです)から独立したいということだったので、二人で小さなトリミングサロンを始めました。自営業を始めるノウハウはすでに私にあったので、妻の「一歩」を後押しした形になります。ちょうどファッション通販の仕事も、取引先の経費削減ということで徐々に減っていきました。私にとっても妻とのお店をメインにするという次の「一歩」になったのです。
そしてそれから今年で8年になります。今年で私は45歳です。振り返ると一歩だらけですよね。最初の一歩は美大受験でした。しかし現在は謎のトリミングお手伝いおじさんなのです。最初の一歩の頃には想像もつかないルートに入っています。でもそういうものだと思うんです。一歩とは目標に向かって歩き出すことですが、その途中には大きな岩があったり猛獣がいたりして、進めないのが普通ですよね。その度に回り道をして、そこで良いことがあったり別のトラブルがあったりして、また新しい一歩の機会が出てくるわけです。
現代は、人生のネタバレにあふれてると思いませんか?ネットを覗くと一歩踏み出して成功した人と失敗した人、わかりやすい例をたくさん目にしますよね。だからこそ一歩をためらう人も多いと思います。難しい時代だと思います。逆に私の育った不便な時代はそういった人生のネタバレがなかったので、私はここまでバーっと書いたようにホイホイ一歩を踏み出せたのです。特に深く考えず「これが好き」「なんとかなりそう」というだけでした。それは自然な気持ちであるとも言えます。自然な気持ちがないと人生はゆがみます。だから、収入のためだけに会社を起こしていた頃はうつ病になってしまったのです。はたから見ればたくさんお金を稼いで成功者に見えているのに…です。
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「一歩」は私たちの生活の色々な所に存在します。ついつい仕事とかお金のことに結び付けてしまいやすいですが、好きな人に告白するのも自動車の免許を取るのも「一歩」です。そしてその大半は成功でも失敗でもない感じになっていくと思うんです。告白してつきあったけどもケンカばかりしちゃうなんてのはよくありますよね。私も最初の一歩は美大で今は謎のお手伝いおじさんで、美大視点から見ると失敗です。…が、愛する妻を支えられるのは大きな喜びですし、絵を描いていたおかげで例えば友達の子供に変な面白イラストを描いて喜ばせることもできるのです。なので完全なる失敗とも言えません。成功でも失敗でもないけど、一歩踏み出し続けていればそう悪いことにはならないよな、とよく思います。
最後に、実は私は今また一歩踏み出している最中なのです。お店も軌道に乗っているので、自分の時間を増やしてこうやって書いた文章や漫画をコンテストに応募しているのです。英語で漫画を描いたりもしています。
今までと違って特に目標はありません。でも一歩なのです。あの「良く言えばマイペースで悪く言えば出来の悪い」頃、特に目的もなく似たような友達とフラフラしていた頃から変わっていません。それは勉強やスポーツといった勝ち負けにも無縁だった頃でもありました。だから私は今も成功にも失敗にもとらわれないんだと思います。一歩踏み出すとは勇気がいることと思われるかもしれませんが、私のような変な人でも生きていけるくらいこの世界は広いです。いろいろある人生のネタバレの中で、私のこのブログがちょっと変なオッチャンの人生ネタバレとなって、あなたの一歩を後押しできていれば嬉しいです。