[#創作大賞2023] 漫画のすすめ
オッサンの気づき 第27話 「漫画に気づいた!」
我々の世界は時代が進むとともに民度が上がりました。清潔さや秩序正しさのレベルが上がりましたよね。しかしそれにしたがって脳に「ウウウ」がたまりやすくなったのではないでしょうか。なぜなら、生き物は元々そんなに清潔でもちゃんとしているわけでもないからです。外から帰ってくるたびに手を洗うのは面倒臭いですし、毎日オシッコウンチもしますし、嫌な事を言われたら「ぶちのめすぞぼけこら」と言いたくなります。でもそういうことは現代社会では言ってはいけませんし、トイレですら毎日ピッカピカにしていないといけないような空気感があります。私の小さい頃は誰の家のトイレも汚かったですし、「ぶちのめすぞぼけこら」と言う人も割と多かったです。何万年もある生き物の歴史ではそっちのほうが自然ですもんね。それが急に民度が上がったことで生き物として不自然になって、脳に「ウウウ」がたまって心の病気になったり変な事件が起きたりするのだと思います。そんな今だからこそ、意識して「ウウウ」を脳から外に解放させる必要があるのではないでしょうか。その手段として漫画を描く事をおすすめしているのが、今回の漫画です。
昔から「ウウウ」を解放する手段には芸術が使われて、それによって文化が生まれてきました。例えばロック音楽のルーツの一つにブルース音楽というものがあります。これは簡単に言うと、アフリカから労働力として連れて来られた人たちが日ごろの「ウウウ」を音楽にしたものです。現在ブームのヒップホップも、元はスラム街の人たちの「ウウウ」から始まっていますよね。どちらもアメリカの話です。そして我々日本人にとっては、漫画が一番手頃な「ウウウ」解放手段だと思うのです。
我々にとって漫画ってすごく身近な媒体だと思いませんか?大人も子供も漫画が好きな人は多いですし、あまり読まないという人でも、例えば電車内のちょっとした広告や、パンフレットや説明書などで使われている漫画に触れているうちに、無意識に漫画脳が作られていると思うんです。↓↓のような具合に、何かを説明される際にパッと説明漫画を目の前に出されれば、ほとんどの人はフムフムと読めますし、四角いコマの中に吹き出しと絵を配置する構図もなんとなく作れると思います。これは日本ならではの現象です。
でも漫画を描くとなるとハードルが高い気がしてしまうのは、「絵をちゃんと描かなくてはいけない」という意識のせいだと思うんです。特に現代は何事もちゃんとやらなきゃ恥ずかしい的な意識が強いのでなおさらですよね。Twitterなどではすでに日頃の「ウウウ」を漫画にしている人が多いのですが、バズって私たちが目にしやすいものは大体絵が小奇麗だったりちょっと可愛い感じだったりと、広い意味で「ちゃんとしている」漫画が多いです。つまりウウウ解放漫画ですら絵的にちゃんとしたものを描かなくてはいけないという刷り込みがあると思います。今回の漫画では、漫画の絵に必要なのは「ん!?」感だと書きました。それは絵が上手いという意味の「ん!?」でもいいですし個性的という意味の「ん!?」でもいいとも書きました。でも、できれば絵が上手いという方向の「ん!?」に行きたいと思ってしまいますよね。私の漫画を読んでも「なんだかんだ言ってもお前の絵は可愛いという意味の「ん!?」のほうじゃん!ずるい!」と感じることもあると思います。
ここで私の好きな音楽ジャンル、パンクロックの例を出します。このアルバムを聴いて下さい。1曲目だけでもいいです。1分くらいで終わります。
いかがでしょう?たぶんほとんどの人は「怖い」とか「なんかやばい」とかの何か強力なモワッとしたものを感じたのではないでしょうか。これが「ん!?」です。ライブ映像を見るとさらにわかると思います。
完全に「ん!?」ですよね。ちなみに彼らはGAUZE(ガーゼ)といって、80年代から活躍しているバンドです。最新のアルバムは2021年に発売されました。つまり現在60歳を越えたおじいちゃんなわけです。おじいちゃんがこれをやっているのです。ちなみに最初の動画の1曲目の歌詞は、勤務先の工場にいる自称「ムラカミ」くんは、どう見ても日本人じゃなくて、いつも一日23時間工場にいて、ごはんと睡眠(いすを並べて仮眠をとっている)以外は最低時給で働いていて、でも家族にお金を送っているから自分のお金は全然残っていなくて、日本語も片言で聞き取れなくて、小汚いんだけど、必死に生きているからそっとしてあげてくれ(たぶん不法滞在)。というものです。いかがでしょう、小奇麗な「ん!?」よりもこちらの「ん!?」のほうが印象が強いですよね。少なくともこの短い動画とちょっとの説明だけで、彼らの事は当分忘れないと思います。実際彼らはパンクロックの界隈では最もリスペクトを集めているバンドです。私も大好きで何度もライブに行きました。(残念ながら去年、ボーカルの病気が理由で活動終了してしまいました)
パンクロックは簡単に言うと、70年代にロック音楽が売れ線&複雑になりすぎて、若い世代がもっと自由にドーンとやろうぜという感じで始まったジャンルです。なので演奏はシンプルで、下手でも良いのです。政治批判や弱者からの目線など「ウウウ」をテーマにした曲も多いです。
そして、それと同じことをすると良いよというのが、今回の漫画です。というかすでに、漫画業界でも似た流れがあったんです。90年代のジャンプ黄金期以降、漫画がすごく大きい産業になって、売れている人は億万長者になれて、上手い絵という意味の「ん!?」を持った漫画も大量に出てきました。それは売れ線&複雑さがアップしたとも言えます。そうしたら2000年代以降、ゆるい絵柄のエッセイ漫画のブームが起きたのです。最初は変わった仕事で奮闘する様子や外国人と結婚した生活などコメディ的な内容が多かったのですが、2010年代からは心の病気や毒親ものがブームになり、現在は人間関係での苦しさ全般をテーマにしたものが多い印象です。つまり漫画が大きい産業になるにつれて、シンプルな絵で個人的な「ウウウ」を解放する漫画も増えてきたのです。この流れはパンクロックに似てるなーと以前から思っていました。
同じ流れで、昔は「ガロ」というコアな漫画雑誌も存在していました。作家自身の「ウウウ」が強く反映された漫画がメインの雑誌です。水木しげる先生もガロ出身です。タレントの蛭子能収さんもそうです。こちらもパンクムーブメントと同様、熱心なファンの多い雑誌でした。以前ブログに書いたスウェーデンの友人もガロ系の漫画が大好きです。
日本人ですら一部の人しか知らないガロ系の漫画が、海外の人にも愛されているわけです。GAUZEも同じく、海外ファンが非常に多いです。それはつまり、「ウウウ」は人間の本質を表現しているからなのだと思います。だってそうですよね、住んでいる国や使う言葉は違っても、我々はみんな同じ生理機能を持った人間なのですから、似たようなことで「ウウウ」という気分になり、そこを素直に出した作品は誰にでも響くのです。(ちなみに彼もまたコミック作家で、なんと最近、翻訳アプリを使ってnoteも始めました。)
けれども実は、ウウウ解放漫画の一番大事な所は「誰かに響かせよう」を目的にしてはいけないという部分なのです。思い出してください、ウウウ漫画のスタートは、カウンセリングでよくされるアドバイス「紙に自分のウウウをバーッと書き出すと良い」なのです。つまり他者に見せるために描く漫画とは根本的に違うんです。外側が重要になりすぎる事が心を病む原因で、外側とか関係ない自分なりの世界を持つ事がウウウ漫画を描く作業の目的なので、他者を気にしたらまた外側が重要になってしまいますよね。なので、これで漫画家デビューしようとかいいねをたくさんもらおうとかを意識しだすと、新しい病みの原因になってしまうのです。もともと健康だったプロ漫画家の人ですら、編集者や読者などの外側を意識しすぎて病んでしまう事がよくあります。3ページめの「なるべく漫画は参考にしない」も同じ理由で、他の漫画も一種の外側なのでそれを参考にした時点で外側を意識してしまっているということなのです。なので極力外側は無視して描いて、外側が重要になりすぎてしまった思考パターンを解放させるほうに集中しましょう。SNSに載せても、いいねの数は無視するほうが絶対良いです。時々ウウウ解放漫画が他者に響いてプロ漫画家としてデビューするパターンもありますが、それはたまたまであって、最初から誰かに響かせてお金をもらうためにウウウ解放していたわけではないはずです。それはガロ系漫画もGAUZEのメンバーも一緒です。ガロは原稿料が出ないことで有名ですし、ほとんどのパンクロックの人はバンドの収入では生活ができないので、普段は仕事をして土日にライブをやっています。だからこそ勤務先の工場にいる自称ムラカミくんの曲が出来上がるわけです。
最後に私のウウウ解放例を出します。元々はプロ志望で漫画を出版社に持ち込みしている人だったので、特にウウウ解放漫画は描いていませんでした。20代の頃です。その頃の事は以前のブログにも書きました。
それからいろいろあって長ーいブランクを経て、アラフォーの2017年に久々に描いたのがこれです。自分の見た夢を漫画にしました。
今とは結構絵が違いますよね。3ページめで描いた、細かいところまで描きこむという部分が実践されています。この時はウウウ解放よりも、6ページめに描いたマインドフルネス効果のほうが強かったです。つまり手元の作業に集中していろいろ考えないようにするという事です。実際、1コマ描くのに3日くらいかかっていました。当時は仕事がすごく忙しくて病んでいたので、どこかでもう考えるのをやめたいと思っていて、無意識にこれを始めていました。もちろん、出版社に持ち込むことは全く意識していません。Twitterやnoteにも最初は載せていなかったと思います。完全に手を動かすためだけに描いていました。そしてその後に、ウウウ解放漫画としてうつ病漫画を描き始めました。
でも今度は、ウウウ解放しながらも「どうしたらわかりやすくなるかな?」とか、「暗くならないようにギャグを多めにしよう」とか、外側を意識しながら描いていました。元が持ち込み組で趣味で漫画を描いたことも無かったので、読者の立場に立った描き方が普通だったんです。本当の意味で外側を無視してウウウ解放だけのために漫画を描くようになったのは本当に最近の事でした。
こういう内容は自分的には愚痴カテゴリーなので、あんまり描かないようにしていました。でもウウウがパンパンになりすぎて苦しいので試しに描いてみたら、すごく楽になったんです。読者が読んで面白いように描くのも意識せず、完全に脳くんがウウウをアウトプットするだけの作業になれていたんです。そこで、ああやっぱりこれはカウンセリングで言われるアドバイスと一緒なんだなーと実感しました。
私は漫画を長く描いているため、ウウウ解放手段に漫画をおすすめしましたが、これは音楽でも書きものでも友達とお酒を飲みながら「あの課長をデストロイー!ゲヘー」とか言うのでも何でも良いのです。要は外側なんか関係なく自分をドーンと出すフィールドを持ちましょうということです。この人生は自分のためのもので自分が主役なのに、現代は自分が主役になれないことが多いですよね。むしろ悲しいことにそのほうが普通な気すらします。自分より仕事が、友達関係が、親や家族との関係が、いろいろな外側が重要になりすぎて心が不自然になってしまった人が多い気がします。私もそうです。確かに長い人生では時々、外側を重要にしたほうがいい機会が存在します。でも普段から外側が重要になりすぎているから、その時々の機会の時ですらもきつく感じてしまうのではないでしょうか。人間は群れで生きる生き物なので、外側との調和、思いやりがすごく大切です。ここぞという時に外側のためにお互いが体を張れるという事が愛情であり、それが集まったものが暮らしやすい社会なのだと思います。そのために、時々自分を人生の主役に戻してあげましょう。
[おまけ]
もしウウウ解放漫画を描いているうちに、もっと漫画っぽい漫画を描きたいなーと覚醒したら、ぜひこちらを参考にしてみてください。
漫画の本質はお話の構成です。これが不安定だといくら絵が上手くてもセリフがかっこよくても意味不明になります。そして構成にはおおまかなルールがあって、よく言われるのが起承転結や序破急です。昔話の桃太郎ですらそのルールで構成されているので、ルールというよりは人間の脳はそういう構成で何かを提供されるとスっと入ってきやすいという仕組みがあるのだと思います。この漫画はその構成の仕方について説明しました。こんなふうに漫画で説明されるとわかりやすいですよね。やっぱり我々はみんな漫画脳を持っているのではないでしょうか。ぜひウウウ解放に漫画制作を活用してみましょう!