レポート:ティール組織と識学はまったくの別物?水と油と思われがちな2つの理論を徹底検証!
本記事は株式会社識学が主催した、『ティール組織』解説者・嘉村賢州さんと識学代表・安藤広大さんによる対談のレポートです。
今回のレポートをまとめている私自身は、『ティール組織(Reinventing Organizations)』という経営・組織運営のコンセプトを2016年から探求・実践を続け、国内の企業・団体にその実践例を紹介したり、新しい働き方・組織運営に取り組もうとされる方々を応援するということを行ってきました。
『ティール組織』著者フレデリック・ラルー氏が来日された時、その来日企画にhome's viのスタッフとして加わっていたことや、
『ティール組織』内で紹介されたホラクラシー(Holacracy)という組織運営法の探求……複数の団体で同じフレームワーク(ホラクラシー)による組織運営の実践、オランダで開催されたトレーニングへの参加、海外の実践者たちを招聘した企画の運営、といったこともそれらの実践の1つです。
そんな私にとって、以前から噂を伺っていた『識学』の第一人者と、これまでも実践を共にしてきた嘉村賢州さんが対談されるというのは、とても興味深い出来事でした。
対談に参加した後に感じたのは、『識学』『ティール組織』のいずれも健全な組織状態をめざすためのアプローチの1つであり、どちらかが正解・間違いではなく、どちらからも学んだり、共存や棲み分けを行うことができるのではないか、というものでした。
1時間という限られた時間であったものの、お二人が語られた中に多くの気づきや学びを感じられたので、そのすべてには及びませんが、印象に残ったポイントなどをまとめていければと考えています。
対談に際しての前提共有
当日の対談は1時間という制約上、『ティール組織』『識学』についてその詳細や概要を説明いただく時間はありませんでした。
以下、簡単にではありますが、それぞれの概要についてまとめています。
ティール組織(Reinventing Organizations)
『ティール組織』は原題を『Reinventing Organizatins(組織の再発明)』と言い、2014年にフレデリック・ラルー氏(Frederic Laloux)によって紹介された組織運営、経営に関する新たなコンセプトです。
書籍内においては、人類がこれまで辿ってきた進化の道筋とその過程で生まれてきた組織形態の説明と、現在、世界で現れつつある新しい組織形態『ティール組織』のエッセンスが3つのブレイクスルーとして紹介されています。
フレデリック・ラルー氏は世界中のユニークな企業の取り組みに関する調査を行うことよって、それらの組織に共通する先進的な企業のあり方・特徴を発見しました。それが、以下の3つです。
この3つをラルー氏は、現在、世界に現れつつある新たな組織運営のあり方に至るブレイクスルーであり、『ティール組織』と見ることができる組織の特徴として紹介しました。
国内におけるティール組織に関する調査・探求は、2016年に開催された『NEXT-STAGE WORLD: AN INTERNATIONAL GATHERING OF ORGANIZATION RE-INVENTORS』に遡ります。
ギリシャのロードス島で開催されたこの国際カンファレンスに日本人としていち早く参加していた嘉村賢州さん、吉原史郎さんの両名は、東京、京都で報告会を開催し、組織運営に関する新たな世界観である『Teal組織』について紹介しました。
その後、2018年に出版されたフレデリック・ラルー『ティール組織』は10万部を超えるベストセラーとなり、日本の人事部「HRアワード2018」では経営者賞を受賞しました。
2019年には著者来日イベントも開催された他、『ティール組織』の国内への浸透はその後、ビジネス・経営における『パーパス』『パーパス経営』などのムーブメントの隆盛にも繋がりました。
フレデリック・ラルー氏は、書籍以外ではYouTubeの動画シリーズを公開しており、書籍で伝わりづらかった記述や現場での実践について紹介しています。
また、2023年現在。フレデリック・ラルー氏の賛同と国内の有志によってティール組織および進化型組織の情報ポータルサイト『ティール組織ラボ』がオープンしており、上記のビデオシリーズの情報をはじめ海外の最新の知見も毎月更新されています。
識学(意識構造学)
『識学』とは『意識構造学』の略称であり、会社組織の経営・マネジメントにおいて起こる人の認知のズレや誤解、錯覚によるパフォーマンスの低下の原因分析と、それに対する仕組み化・構造化、意識と行動の変容・課題解決アプローチを体系化した理論です。
識学の考案者は現・株式会社識学の識学研究室室長である福冨謙二さんとされ、現在、株式会社識学代表を務める安藤さんは2012年頃に友人の紹介によって福冨さんと出会ったことで初めて識学を知ることとなりました。
安藤さんは当時の転職先であったベンチャー企業で識学に基づいたアドバイスや実践を試み、その際に識学のロジックに手応えと確信を感じ、識学の実践を広げていくために独立されたとのことです。
識学では、会社組織におけるヒトの意識構造は大きく5つの領域(位置・結果・変化・恐怖・目標)に分けることができるとし、5つの領域を正しく認識できる環境づくりを行うことで、個々人の成長、上司部下それぞれの果たすべき役割と権限の明確化、組織としてのパフォーマンスの向上などを実現できるとします。
2015年3月の設立以降、株式会社識学は2023年8月時点で約3500社への識学メソッドの導入を実現している他、現在はメインであるマネジメントコンサルティング事業以外にも、キャリア支援事業や書籍の出版に取り組まれています。
書籍の出版に関して安藤氏による近著は『数値化の鬼』『リーダーの仮面』『とにかく仕組み化』の3部作があり、3部作での累計は100万部も突破されているとのことです。
対談の構成と用語整理
当日の対談は株式会社識学のシニアコンサルタント・城野康介さんが進行を務めてくださり、城野さんから登壇者お二人へ7つの問いを投げかけ、『ティール組織』『識学』それぞれの視点からの7つのテーマについての見解を伺うという形式で行われました。
当日扱われたテーマは、以下の7つです。
また、対談の中ではさまざまなテーマについて踏み込んだディスカッションも行われましたが、いくつか補足が必要に思われるテーマもあったため、以下3つの用語についても簡単にまとめたいと思います。
パーパス(Purpose)
フレデリック・ラルー著『ティール組織』において『存在目的』と訳された『Evolutionary Purpose』は、先述のようにティール的段階にある組織における特徴の1つとして挙げられています。
『ティール組織』(英治出版)の解説を担当した嘉村賢州さんは、たびたび先述のギリシャの会合で出会った組織コンサルタント、コーチのジョージ・ポア氏(George Pór)の発言を引用しながら存在目的(Evolutionary Purpose)の質感について紹介しています。
また、賢州さんは別の実践者から組織全体の存在目的、日々の業務を定義する役割の存在目的、そしてそこで働く一人ひとりの存在目的を探求するのに役立つ洗練された3つの問いを教わったと言います。
このように、パーパスとは組織のものとは別に個人のパーパスもまた存在し、組織と個人のパーパスの共鳴が重要であることが示唆されています。
そして、この『Evolutionary Purpose』についての源流を遡ると、フレデリック・ラルー氏はHolacracyOne社のブライアン・ロバートソン氏に着想を得たと言います。
ブライアン・ロバートソン氏はパーパスに関して、以下のようにその質感で言い表しています。
このように捉えてみると、組織のパーパスがなぜEvolutionaryなのか、その変化していくものである、という質感もより具体的に捉えやすくなるように感じます。
心理的安全性(Psychological Safety)
心理的安全性(Psycholigical Safety)とは、エイミー・C・エドモンドソンらによって、病院内における医療チームのチームワークと医療過誤の関連性を調査したことをきっかけに発見された概念です。
その結果、優秀なチームほどミスの報告数が多いという傾向が見られ、対称的にチームのパフォーマンスがそれほど高くないチームほどミスを報告し合うことができず、ミスは黙殺されていたという傾向が見えてきました。
そして、この仮説について先入観なく調査してもらうために研究助手を新しく雇うこととなりました。
こうして見ると、「心理的安全性」は医療現場という人の命を預かる差し迫った現場での調査から生まれてきた実用的な概念であるということが窺えます。
性弱説
『性弱説』とは、安藤さんの著書である『とにかく仕組み化』の中でも語られている、性善説・性悪説とも異なる、人に対する見方・レンズです。
この性弱説についてさらに探求を深めてみると、経営学者・伊丹敬之氏、京セラ創業者・稲盛和夫氏といった経営実務・経営学の大家もまた「人は性善なれど弱し」とする性弱説に基づいた視点や哲学を持っていたことが窺えます。
伊丹氏は経営における戦略策定の失敗の原因が、目の前の現実に引きずられたり、組織の中でさまざまな配慮を行っていまうなどの人の本質的な弱さにあるとし、著書の中で『人間性弱説の戦略論』を提唱しています。
また、稲盛氏は特に自身の会計学の中において、人の性質と仕組みづくりの原則との関係について以下のような表現をしています。
性弱説は、近年では埼玉県の教育委員会における教職員不祥事防止研修プログラムや、西野亮廣エンタメ研究所などでも取り上げられており、不祥事の発生や失敗を個人の責任ではなく、仕組みやルールなどのシステムエラーに原因を求めるというスタンスを採用しています。
組織づくり全般に対する捉え方
以上、そもそもティール組織・識学とは何か?対談中に飛び出したバズワードは、どのような背景や文脈によって活用されてきたのか?についてまとめてきました。
ここからは、ティール組織解説者と識学第一人者のお二人による対談についてより踏み込んだ内容についてまとめていきます。
国内外の識学・ティール組織の実践
初めに扱われたテーマは、現在、国内外において識学とティール組織はどのように受け止められ、実践されているのか?についてでした。
識学による組織運営の実践は、先述のように現在では3500社に上る導入実績があります。
また、識学導入以前から、と考えると安藤さんはソフトバンク・グループをを事例に紹介してくださいました。
安藤さんご自身も携帯電話業界出身であり、その時の人脈や経験からソフトバンク・グループとも契約に至ったというお話の中で、ソフトバンク・グループの特に上層部、統括部長~役員クラスにおける組織構造についてお話しいただきました。
曰く、ソフトバンク・グループの経営上層部ではピラミッド構造の組織づくりを行っており、役職ごとにやるべき仕事・権限は明確化されていたとのことです。
また、結果を握ったらそこに至るプロセスを部下に任せる、という指示系統も確立されており、識学導入以前から既にそれに近い状態だったとのことです。
他方、ティール組織は現在、国内外でどのように扱われているのでしょうか?
ティール組織は、元マッキンゼーのコンサルタントであるフレデリック・ラルー氏が、創業から10年以上、組織規模が100名以上の組織を対象に、「これまでのマネジメントと異なる実践を行っているユニークな会社は無いか?」という問いをもとに調査を進め、その事例の共通項をまとめ、2014年に出版したことに端を発しています。
海外ではティール組織(Reinventing Organizations)が発表されて以来10年近くの時間が経っていること、また、ラルー氏の本の影響もあり、ティール組織的な組織運営は世界中に広がりつつあります。
北米最大の鉄鋼メーカーであるニューコア社(Nucor)、中国の製造メーカーであるハイアール社(Haier)、フランスの多国籍タイヤ製造企業ミシュラン(Michelin)もその一例とのことです。
また、国内では前川製作所、創業当初のソニー、最近では株式会社ガイアックスなども国内の事例として考えられるとのことです。
ただ、国内のティール組織の実践について、嘉村賢州さんは誤解と共に広まった部分もあるとお話しされていました。
ティール組織の実践について、最低でも3〜5年はしっかり勉強した上で臨まないとうまくいかず、見よう見まねで実践できるものではない、と嘉村さんは言います。
一例として、ティール組織においても数値管理は存在しますが、それは人体が体温調整をするように、組織が健康的な状態を定義し、もしそこから外れた際は自然に修正が起こるようにと意図して行われるものです。
しかし、既存の組織構造を解体し、あらゆる管理を手放し、信頼と自由をもたらせば成功するのだ、といった誤解のもとで組織変革に突入し、結果混乱が起こったり、自称ティール組織が増えた、などともお話しされていました。
それぞれが考える良い組織とは?
上記のティール組織の誤解に通じる部分がありつつ、嘉村さんは以下のようにお話しされています。
これに対し、識学の観点から安藤さんは以下のように良い組織について語られていました。
安藤さんの良い組織像については、「強い組織」という表現で以下のインタビューの中でも語られています。ぜひこちらもご覧ください。
組織構造と意思決定のあり方
また、組織構造と意思決定の関連についても、対談中では扱われました。
以下、ティール組織、識学の観点から組織構造と意思決定はどのような捉え方をされているのかについてまとめていきます。
中間のリーダーがいない組織構造
中間のリーダーの扱い方については、最も顕著にティール組織・識学の違いが現れたように感じました。
中間のリーダーがいないと厳しいとするのが、識学の立場です。安藤さんは以下のように仰っていました。
曰く、組織としての意思決定を行う際、ピラミッド構造と指示命令権限をトップが持つことは、明確さの担保となります。
現在の変化の早い環境において、全ての意思決定を話し合いの場で決定することは現実的ではなく、時間もかかってしまいます。
同様に、変化が早く複雑性を増した現代では、一人のトップがあらゆる情報を集約し、一つひとつに対して意思決定を行っていくことも現実的ではありません。
トップによる意思決定が行われるまでの待ち時間は、そのまま現場にとってはロスタイムとなってしまいます。
こういった観点から、一定数の役職者や中間リーダーが指示命令権限を持ち、意思決定を行うことは、組織を健全に機能させることに繋がります。
また、現在は明確な正解のない不確実なビジネス環境でもありますが、意思決定を行う頂点があることで話し合いがひたすら続くという弊害を防ぐこともできます。(以下の書籍も参考までにご覧ください)
この、「いつまでも決まらない話し合いが続く状態」について嘉村さんは「グリーン(組織)の罠」と表現され、また、ティール組織の組織構造と意思決定についてもお話しいただきました。
まず、嘉村さんはティール組織では「基本、中間のリーダーはいない」というところからお話を始められました。
ただし、組織運営には全体を見渡す幅広い視野を持つ役割と、専門性を持ち現場を担う役割の両方が必要であり、ただ階層構造を壊すわけではないという注意点も付け加えられました。
従来型の組織で管理職やマネージャーの役割を担っていた人々は心強い社内コンサルタントのような役割として、現場を担うチームが成果を上げるために助言を行います。
現場のチームが主役となって仕事に取り組み、成果を出し、責任を果たしていくために社内コンサルタントを使いこなせるかどうかが問われるようになります。(以下の書籍も参考までにご覧ください)
なお、グリーン組織のいつまで経っても決まらない、合意形成の罠に嵌らないための方策ついては、リーダーが決めるという方法の他に、仕事上の合意しやすい抽象的な方針・組織として健康的な指標を定めた上で具体的なルールはチームごと・地域ごとにローカライズし、定期的に見直す機会を設けるという仕組み化についても紹介いただきました。
パーパス経営に対する視点
意思決定というテーマが出てきましたが、パーパス及びパーパス経営に関しても対談の中で扱われました。
そして、識学・ティール組織の双方の視点から見ても、パーパスは意思決定の拠り所となるという点で共通理解が見えたように思います。
安藤さんの視点からは、企業の成り立ちとは企業理念を達成するために集まっている集団であり、なぜパーパスが必要かと問われた際には2点、その必要性が考えられるとのことです。
まず1つは、パーパスや存在目的、企業理念は物事の良し悪しや判断の基準、意思決定の礎として機能するという点。
もう1つは、パーパスに近づけば良し・近づかなければ悪しという、会社組織としての方向性や戦略策定、事業推進や目標管理に一貫性をもたらすという点。
以上2点から組織に安心感をもたらす、とお話しいただきました。
続いて、嘉村さんからもティール組織の観点からパーパスについてお話しいただきました。
例えば、何か人が集まる場があったとして、それがホームパーティなのか、合コンなのか、何かの報告会なのか……そのような前提・文脈がなければ、人はどう振る舞えばよいかわかりません。
パーパスは、組織に集った人々がその組織のパーパスの実現のために自己組織化していける文脈をもたらすとのことでした。
また、嘉村さんは空前のパーパスブームが巻き起こる中での仮説も紹介してくれており、パーパスブームにおいて3つの潮流があることを紹介してくださいました。
さらに嘉村さんが踏み込んでお話しされていたのは、この3つの潮流はいずれも外的・外から見た視点に偏っているという点でした。
外的な視点に基づいて策定されたパーパス、文言はどれも似通ってしまっており、仮に文言の横にある自社ロゴをライバル企業に置き換えたとしても見分けがつかない、という事態も考えられると言います。
こうなると、組織独自の価値や方向性、意思決定の拠り所としての機能は失われ、むしろグリーンの罠を自分たちで生み出してしまいます。
パーパスの扱いに関しては、以下のポイント……
創業者の物語に耳を澄ませること
その物語は他社と一線を画すものとして、魅力的かつ洗練されたものになっているか?
ちゃんと一人ひとりが、内的にワクワクドキドキできるか?
組織と個人のパーパスが繋がる文脈を共有できるのか?
などの観点を持つことが重要であると、嘉村さんがお話ししていたのが印象的でした。
個人と組織の関係
今回の対談の終盤では、心理的安全性やモチベーション、離職など、個人と組織の関わりについてのテーマについて扱われました。
まずは先述のパーパスについての議論から、組織と個人の関係について語られたことをまとめていきます。
組織のパーパス、個人のパーパス
嘉村さんはパーパスの扱いに関して以下のポイント……
創業者の物語に耳を澄ませること
その物語は他社と一線を画すものとして、魅力的かつ洗練されたものになっているか?
ちゃんと一人ひとりが、内的にワクワク、ドキドキできるか?
組織と個人のパーパスが繋がる文脈を共有できるのか?
などについてお話しされていました。
また、パーパスは一度策定されたら終わりというものではなく、一人ひとりが組織で働く中で考え続けるものである、と続けています。
パーパスには組織のパーパスと同時に、組織にいる一人ひとりの人生のパーパスという2つを想定することができます。
と、組織のパーパスについて考え、実践し続けるのと同時に、
という、両方のパーパスの探求を続けないと、人は主体性を失っていきます。組織のパーパスのみを突きつけることは、洗脳に近しいものとなってしまいます。
ここで、『会社と個人のパーパスが違ってきたらどうするのでしょう?』という問いかけから、離職に関する話題へと対談のテーマは移っていきました。
離職に対するそれぞれの視点は?
ティール組織的観点、嘉村さんの語る観点からすると、個人と組織のパーパスが異なってきた場合、それぞれ違う道へ進むこともある、とお話しされていました。
また、会社を離れることは決して悲しいことではなく、自分の人生を突き詰めるとそのような結果となる場合もあるという、双方にとって良き選択になる可能性についても付け加えられていました。
この点について、識学的観点・安藤さんもまた、自分が成し遂げたいことと会社の間にズレが生じた時は転職・離職が起こる場合があるとしています。
また、離職を起こさせないために上司が「いい人になろう」としたり、部下に合わせるコミュニケーションを行うことをする必要はまったくないと、著書『リーダーの仮面』の中でも語られています。
嘉村さんはさらに、『長らく離職は、経営者にとっての失敗として捉えられてきたのではないか?』と投げかけられていました。
現在の会社組織と人との関係は、雇用関係が終わったら縁が終わりという機会的な側面もあるかもしれません。
しかし、辞めた後も互いを応援できるような関係を築けていた場合、『もしかしたら、あなたにとってあの会社はとても素晴らしい会社に感じられるかもしれない』と辞めた先でも紹介が起こる、社外リクルーターのような存在として、その人は居続けてくれるかもしれません。
このような、社外にも生態系を築いていけるような関係を築けたとしたら、良い離職かもしれないと嘉村さんがお話しされているのが印象的でした。
離職に関して、安藤さんは悪い離職についても語られていました。
曰く、悪い離職とは部下を迷わせ、どうして良いかわからないストレスのもとで起こる離職。働く人の側にとっては、適切な評価がされない・評価基準が不明確であるという点から起こる離職が悪い離職、と仰られていたように思います。
識学においては「恐怖」にも、感じることが必要な恐怖と、感じる必要のない恐怖の2種類が存在します。
必要な恐怖とは、成果が上がらないこと・評価されないことという仕事に直接関係する恐怖であり、不必要な恐怖とは評価基準や仕事の不明確さからくる疑心暗鬼、人間関係上の暴言や暴力などの人間的な恐怖です。
このような、不必要な恐怖の発生を防ぐことも、悪い離職の防止につながると安藤さんはお話しされていました。
心理的安全性とモチベーション
最後に扱われたテーマは、先述の「恐怖」にも関連する「心理的安全性」と「モチベーション」についてでした。
「心理的安全性」に触れる前に、ティール組織の観点から嘉村さんはティール組織において扱われる用語である『ホールネス(Wholeness)』について紹介してくださいました。
曰く、ホールネスとは簡単に言うと分断されてない状態を指し、以下の3つの側面を意識します。
また、世の中で語られている「心理的安全性」よりもティール組織の世界観はもう少し広い範囲を対象とし、「自分が気づかなかった自分に気づけるくらい安全」という表現を嘉村さんは使われていました。
曰く、魂とは野生動物のようなものであり、臆病なもの。一人ひとりの持つ素晴らしさは、簡単にやぶの中へ逃げていってしまいます。野生動物に出てこい!というのではなく、安心して出て来られる環境づくりを行おう、という考え方です。
このような環境を組織で作っていくために、「組織内において不適切な行動はガイドブックとしてまとめていく」、「自分の役割・仕事にwantやcanなど主観でつけて、パフォーマンスとの関連性に耳を澄ませて探求、対話する」といった例も挙げられました。
識学・安藤さんとしては心理的安全性について、「このことが危険だね」と話されていました。仕事上のロールに徹すること・明確な責任と与えられた権限において忌憚のない意見交換をするというときに、心理的安全性がないとできない、というのが危ない、と。
また、自分がその時々に感じた良きタイミングで提案、相談など、その機能の育成ができなくなるのではないか?という懸念も示されていました。
人の内面に関連して、安藤さんはさらにモチベーションについてもお話しされています。
曰く、識学を創業した大きなきっかけに、当時の日本で「モチベーション」がもてはやされていたことがある、と安藤さんは仰っていました。
モチベーションとは人々が成長を実感できた時に、「もっと成長したい」「もっと上の役職へ行きたい」など自然に発生するものであり、会社は成長できる環境を作れば良い。
モチベーションは他人から与えてもらうものではなく、周りからモチベーションを与えられなければ頑張れない、という世の中へ進んでいるのではないか?という危惧が当時の安藤さんにあったとのことでした。
このお話に関して嘉村さんもまた、組織内では親子関係や救済者・被害者関係を作られがちであるということについて触れられていました。
組織内において、誰かが誰かを必要以上にケアする・いつまでも相手を未熟な存在として手取り足取りを続けるのではなく、そのような関係が生まれない構造づくりや、一人ひとりを子ども扱いせず大人として扱う文化を作ってくことが肝要であるとのことです。
加えて、ティール組織的な観点ではエネルギーレベル、シグナルを注視していきますが、エネルギーが下がっているとしたら、それは個人的な原因によるものか、組織的・構造的な要因によるものか?を見極め、対処する必要があるとも語られていました。