ピーター・カーニック(Peter Koenig):Source Principle(ソース原理/ソース・プリンシプル)提唱者の半生を追って
2022年10月、トム・ニクソン著『すべては1人から始まる―ビッグアイデアに向かって人と組織が動き出す「ソース原理」の力』(英治出版)が出版されました。
この書籍は、2021年3月に出版されたTom Nixon『Work with Source: Realize big ideas, organize for emergence and work artfully with money』の邦訳書籍であり、私自身がこの英語版から読み進め、著者であるトムとも直接対話する中でその内容の理解と、日々での実践に取り組んできた思い入れのある一冊です。
本書中では、『ティール組織(Reinventing Organizations)』のフレデリック・ラルーとも対話を重ねた起業家でありコーチでもあるトムが、『Source Principle(ソース原理)』という新たなモノの見方・レンズを紹介してくれます。
『Source Principle(ソース原理)』は、人が何かアイデアを実現すること……それは、日常の中で何気なく朝食を何にするかということから、社会変革のプロジェクトを立ち上げて実行すること、企業を経営することに至るまで様々な取り組みを、ソース(Source)という創造の源の役割の視点から捉え直すことを提案してくれます。
ところで、本書を読み進めていくとトムに『Source Principle(ソース・プリンシプル/ソース原理)』を伝え、時に導いたピーター・カーニック(Peter Koenig)という人物の名前が出てきます。
それは、本書のPart 3。ソース(Source)の創造性とお金との関係の章においては顕著で、
邦訳版『すべては1人から始まる』においては翻訳・監修の一人である青野英明さんによってピーターおよびマネーワーク(人とお金の関係を見直し、ソースの創造性を取り戻すインナーワーク)に関するコラムが設けられているほどです。
本記事では、ソース(Source)の創造性とお金との関係について、そして、それを語る上で欠かせない『Source Principle(ソース・プリンシプル/ソース原理)』の提唱者ピーター・カーニック(Peter Koenig)についてまとめていきたいと思います。
ソース(Source)の創造性とお金との関係
『すべては1人から始まる(Work with Source)』の第三部では、お金の本質とソース(Source)であることに関して取り扱います。
しかし、『Source Principle(ソース・プリンシプル/ソース原理)』は、ソース(Source)がビジョンを実現する外向きのクリエイティブなプロセスだけではなく、内向きの自己開発(self development)に取り組む重要性を強調しています。
自分のソース(Source)に踏み込むということは、世界の物事を創造したり変化させたりするプロセスだけではなく、自分の偏見や盲点、過去が現在の現実に及ぼす影響などを意識し、自己認識を深める内面の旅でもあるのです。
そして、創造性とは個人の歴史や欲求の表れであり、自分自身を完全に解放するためには、自分の内面に目を向けなければならない、と考えているためです。
そして、この内面の旅には、お金との関わりから入っていくことができるのです。なぜなら、好むと好まざるとにかかわらず、どんな実体のあるビジョンでも、お金がなければ適切な流れにはならないためです。
お金とは鏡のようなもので、私たちが無意識のうちに固執したり拒絶したりする自分自身の側面を映し出します。また、私たちの過去は、お金との関係を形成しています。
私たちは内面の旅において、お金による条件付けを超えることで、お金と上手に付き合い、創造的なビジョンを実現することができます。この条件付けを超越するプロセスはお金との関係を変えるだけでなく、個人的にも深い変化をもたらすことができるのです。
このように、ソース(Source)の創造性とお金との関係について、そして、ソース(Source)の内面の探求のためにお金との関わりを見ていくことは『Source Principle(ソース・プリンシプル/ソース原理)』の体得に不可欠な視点です。
なお、これ以降『お金(money)』というテーマを扱うに当たって、
について捉えなければ、その本質が見えてきません。
いわば、「ソース(Source)の役割」と「お金と人の関わり」に関して人に伝え、ビジネスに愛をもたらそう(Create Love in Business)というイニシアティブのソース(Source)はピーターであるためです。
『すべては1人から始まる(Work with Source)』の著者であるトムも、ピーターから見ればこのイニシアティブのサブソース(sub source)に当たります。(サブソースはスペシフィック・ソース:specific sourceとも表現しますが、ここでは割愛します)
ここからは、トムに『Source Principle(ソース・プリンシプル/ソース原理)』を伝えた、ピーター自身について見ていきたいと思います。
Source Principleの提唱者:ピーター・カーニック(Peter Koenig)
ピーターは、現在75歳。イギリスのロンドンに生まれ、20代半ば以降はスイスのチューリッヒを活動の拠点としているとのことですが、今なお、お金と人との関わり、お金をきっかけとした内面の変容、歴史的・文化的・社会的・精神的に深くシステムとして根付いたお金そのものに関する探求を続け、人々にその知見を提供しています。
彼自身の言葉によれば、彼は『お金が大好き』。
それは、小さい頃からずっとそうであり、幼い頃から学生時代、そして学生時代以降にも多くのお金を稼ぎ、若くして経済的な成功を収めたビジネスマンでした。
しかし、33歳の時に転機が訪れます。
これ以上稼いでも、自分のためにも、健康のためにも、周りの人のためにもならないと思い、これまでの働き方・あり方に大きな疑問符がついたと言います。それ以降、彼のお金と人との関係についての研究が始まりました。
その後の約7年の間に、彼はいくつかの重要な結論、特に、自由について重要な結論に達しました。
それは、人は、お金があってもなくても自由なのだ。そして、自由はお金の多寡とは関係ない、というものです。
このことは、彼の仕事における極めて重要なコア・メッセージとなりました。
ピーターは1980年代に経営コンサルタントとしての仕事を始め、ビジョン作成および組織変革プロセスに取り組むほか、1994年には初のお金に関するセミナーの開催、1999年にはマネー&ビジネスパートナーシップに関する新たな国際カンファレンスを開始しました。
この活動の中、何百人もの人々と出会う中で、なぜ組織の変革プロジェクトが失敗することが多いのか、なぜ創業者のビジョンが実現しないことが多いのかに興味を持つようになりました。
また、これらの活動の中で創業者や起業家たちのビジョンや取り組みについて、何十回も小規模なワークショップを重ね、組織の中における「ソース(Source)の役割」を意識し始めます。さらに、「マネーワーク('moneywork')」という、お金との関わりを起点にソース(Source)の内面の変容を促すワークを開発し、人々に提供するようになりました。
これらの知見をもとに人とお金との関わりに関しての書籍をまとめ、
2009年からは、500人以上の起業家や創業者を対象としたリサーチにより、ソースに関するアイデアを精緻化し始め、『Source Principle(ソース・プリンシプル/ソース原理)』へとまとめ上げていきました。
ここまでの一連の流れとイニシアティブを貫いている、ピーターの人生の目的が「ビジネスに愛をもたらす(create love in business)」です。ピーターによる同名のイニシアチブであるCreate Love in Businessについては、こちらをご覧ください。
また、2023年6月にはForbes Japanにてピーターへのインタビュー記事が掲載されています。よろしければこちらもご覧ください。
日本での流れに先立ち、ソース原理(Source Principle)が世界で初めて書籍化されたのは、2019年にステファン・メルケルバッハ氏(Stefan Merckelbach)による『A little red book about source』のフランス語版が出版された時でした。
その後、この『A little red book about source』は2020年に英訳出版され、2021年3月に『すべては1人から始まる』の原著であるトム・ニクソン著『Work with Source』が出版され、本書が『すべては1人から始まる』として日本語訳され、英治出版から出版されました。
『すべては1人から始まる』は日本の人事部「HRアワード2023」の入賞も果たし、ビジネスの領域においての注目も高まっていることが見て取れます。
このような背景と経緯の中、ソース原理(Source Principle)の知見は少しずつ世の中に広まりつつあります。
ソース原理(Source Principle)とティール組織(Reinventing Organizations)
日本においてのソース(Source)の概念の広がりは、『ティール組織(原題:Reinventing Otganizations)』著者のフレデリック・ラルー氏(Frederic Laloux)によって初めて組織、経営、リーダーシップの分野で紹介されたことが契機となっています。
2019年の来日時、『ティール組織』著者フレデリック・ラルー氏によって組織、経営、リーダーシップの分野で紹介されたことが契機となって初めて知られることとなったソース原理(Source Principle)。
フレデリック・ラルー氏もまた、ピーター・カーニック氏との出会い、彼からの学びを通じて、2016年出版のイラスト解説版『Reinventing Organizations』の注釈部分で記載している他、『新しい組織におけるリーダーの役割』と題した動画内で、このソース原理(Source Principle)について言及したということもあり、国内で注目が集まりつつありました。
ピーターのサブソース(スペシフィックソース)であり、Reinventing Organizations(ティール組織)のコンセプトに共鳴していたトムは、組織のパーパス(Purpose)に関する見解の違いについてフレデリックと対話を重ねました。
その中でフレデリックは、このような言葉を残しています。
この点に関して、トム自身も『Work with Source』の中で言及しています。
ソース原理の注目度の高さは、本邦初のソース原理に関する書籍の出版前、2022年8月にトム・ニクソン氏の来日が実現する、といったことからも見てとれます。(オンラインでのウェビナーの他、北海道・美瑛町、東京、京都、三重、屋久島など全国各地でトムを招いての催しが開催されました)
2022年10月、ピーター・カーニック氏に学んだトム・ニクソン氏(Tom Nixon)による『すべては1人から始まる―ビッグアイデアに向かって人と組織が動き出す「ソース原理」の力』が出版されて以降も、ソース原理(Source Principle)に関連したさまざまな取り組みが国内で展開されています。
2023年4月にはソース原理提唱者であるピーター・カーニック氏の来日企画が実現し、システム思考・学習する組織の第一人者である小田理一郎さんや、インテグラル理論・成人発達理論の研究者である鈴木規夫さんとの対談、企画の参加者との交流が活発に行われました。
また、2023年11月にはピーターの再来日が実現し、パートナーのバーバラ・クンツ氏も交えてオンラインイベントが実施されました。
ソース原理の関係者一覧(抜粋)
2022年10月の『すべては1人から始まる』出版をきっかけに、ソース原理(Source Principle)の海外の実践者と日本の実践者が交流する機会が増えました。
本章を追記している2024年8月現在でも、『すべては1人から始まる』著者であるトム・ニクソン、ソース原理(Source Principle)提唱者ピーター・カーニック氏の2名以外にもさまざまな実践者との企画が実施され、また、日本語による情報発信が行われてきました。
そこで一度、2024年8月現在で確認できる、ソース原理(Source Principle)の関係者を以下に簡単に整理したいと思います。
ピーター・カーニック氏(Peter Koenig)
ピーター・カーニック氏は、先述の通りソース原理(Source Principle)の提唱者です。
人が無意識にお金に投影している意識の研究と、お金に投影している意識を自らに取り戻す方法・システムである『マネーワーク(moneywork)』を開発され、そのプロセスの中でソース原理(Source Principle)、ソースワーク(source work)が生まれました。
今年2023年4月には、お金に関する研究をまとめた著書『30 Lies About Money』のプレ出版企画(4/5、4/7〜9)が開催され、その際に初来日となりました。
プログラムは数日にわたって開催されましたが、その一部をまとめておりますので、よろしければ参考までにご覧ください。
また、ピーターには何人ものサブソースが存在します。
ソース原理(Source Principle)においては、ソース(Source)が活動を始めると、サブソース(sub source)またはスペシフィック・ソース(specific source)という役割を担う人が現れます。
サブソース(sub source)またはスペシフィック・ソース(specific source)とは、あるソースのビジョンや価値観に共鳴し、あるソース(source)の活動の特定の部分において、ソースへの深いリスペクトをしつつ、創造的に取り組むようになったパートナーと言える存在です。
サブソース(sub source)またはスペシフィック・ソース(specific source)は、グローバルソースによる指名、もしくは立候補のどちらでも生まれうるものであり、その質感は伝播(Transmitting)するものだと言います。
以下に紹介する4人は、ピーターのイニシアチブにおいてサブソースとして活動を共にしているパートナーたちです。
トム・ニクソン氏(Tom Nixon)
トム・ニクソン氏は、『すべては1人から始まる(原題:Work with Source)』の著者であり、workwithsource.comを主導しています。
2022年10月の邦訳出版に先立って8月に来日し、プレ出版企画として日本を縦断していました。(8/8〜10、8/11、8/17、8/18、8/22〜25)
また、来日後は次世代型組織の実践に関する国際カンファレンス・ネットワークである『Teal Around The World2023』にて登壇した他、
Forbes Japanの2023年5月号にて、令三社代表の山田裕嗣さんとのソース原理に関する対談が掲載されています。
これ以降も精力的に日本人実践者に知見を紹介してくれており、HRアワード2023入賞記念イベントでの登壇や、ソース・マッピング、ソースの継承など個別のテーマにおけるセッションにも登壇されています。
アレクサンダー・インチボルト氏(Alexander Inchbald)
アレクサンダー・インチボルト氏は、ソース原理(Source Principle)を自身の活動の中に取り入れながら活動しているエクストリーム・アーティストであり、創造と革新を専門としたリーダーシップコーチである人物です。
アレクサンダーもまた、ピーターの人生の目的である活動Create love in business等においては彼のサブソース(sub source/specific source)として活動する傍ら、アレクサンダー自身が立ち上げたイニシアティブである #Masterpieceにおいては、ピーターが逆に彼のサブソースとなる形で共同し、コラボレーションしています。
2020年以降、アレクサンダーはオンラインまたはリアルで日本と縁を持つようになり、一度は富士山の絵を描いたこともあるとのことです。
今年2023年3月には、彼の提唱する #Masterpiece について学ぶ招聘企画が青野英明さん主催で実施されました。
さらに、2023年6月には日本人の実践者を対象にギリシャでJ.Creationというプログラムが開催されました。
このプログラムには、ピーター・カーニック氏だけではなく、日本からも吉原史郎さん、嘉村賢州さん(オンライン)が、コーチとして参加予定されていました。
ステファン・メルケルバッハ氏(Stefan Merckelbach)
『A little red book about source』の著者であるステファン・メルケルバッハ氏は、スイスに拠点を置くオーディナータ社(Ordinata)を2001年に起業したソース原理(Source Principle)の実践者です。
オランダに生まれ、スイスのフリブールで育ったステファンはフリブール大学、ジュネーブ大学で哲学を研究しており、このことは現在の彼の肩書きである「哲学する経営者(philosopher-manager)」にも通じています。
現在、ステファンはコーチング、コンサルティングを行うオーディナータ社(Ordinata)において、ソシオクラシー(Sociocracy)をルーツに持つ組織運営体系『参加型ダイナミックス(participatory dynamics)』の提供を企業やチームに行うとともに、トム・ニクソン氏の立ち上げた情報ポータルサイトworkwithsource.comにも名前を連ねています。
また、上記の活動に並行して小学校の設立に携わり、校長としても活動していた教育者としての顔も持っています。
ステファンがソース原理、ピーター・カーニック氏に初めて出会ったのは、2013年のことでした。
"The Source Person" training dayと題されたその日のトレーニングでの出会いをきっかけに、自社の提供する企業を対象としたトレーニングやプログラムにおいてソースの概念は欠かせないものになったと、ステファンは書籍の中で述べています。
ナジェシュダ・タランチェフスキ氏(Nadjeschda Taranczewski)
ナーディア(Nadja)ことナジェシュダ・タランチェフスキ氏(Nadjeschda Taranczewski)は、心理学修士号、国際コーチ連盟(ICF)のマスター認定コーチ資格を持つ、『Conscious You: Become The Hero of Your Own Story』の著者です。
また、自身の組織であるConsciousUにて、パートナーであるオルガ・タランチェフスキ氏(Olga Taranczewski)らと共に世界中のCEO、創業者、コーチ、ファシリテーターをサポートし、組織やコミュニティにConscious Tribe(コンシャス・トライブ)を広げる活動に取り組んでいます。
ソース原理(Source Principle)に関連しては、2014年にピーター・カーニック氏の提唱した概念を初めて論文(Whose Idea Was it Anyway? The Role of Source in Organizations)で紹介した人物でもあります。
ConsciousUのYouTubeでは、ナーディアとピーターによるお金に関する対話の動画がYouTube上でも公開されており、以下のようなテーマも対話の中で扱われています。
また、2024年3月〜4月にかけてナーディアの来日企画が開催され、彼女の著書である『Conscious You: Become The Hero of Your Own Story』及びマネーワークの知見が紹介されました。
以上、Source Principle(ソース原理)の提唱者・ピーター・カーニック氏(Peter Koenig)を中心とした記録でした。
この記録が何か皆さんにインスピレーションをもたらすことができたなら幸いです。