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「地域版 官民連携のアクセラレーター」という考え方

私は都内で本業を継続しつつ、2023年9月から長野市や小布施町、東京の檜原村など、いくつかの地域を行き来しながら活動をはじめました。ファシリテーションをはじめとするスキルを活かして、地域の関係人口創出や起業支援プログラムに関わる機会が増えてきました。そんななかで「地域版アクセラレーター」という考え方が地域で関係人口創出や事業創出の様々な施策の軸になってくるのではないか、と感じています。

本記事では、なぜ今「地域版アクセラレーター」が必要なのか、そしてその実現のために不可欠だと考える「心理的安全性」と「キャリア安全性」を整備するステップをまとめてみました。地域との新しい関わり方を模索されている方々の参考になれば幸いです。


なぜ地域版アクセラレーターが今日本に必要なのか

地域への人・産業の分散と地方創生

日本では少子高齢化や人口減少が進む一方で、都市部への一極集中も引き続き顕在化しています。地域は人材が流出し、地元産業の担い手不足や過疎化など、多くの課題に直面しています。一方で、リモートワークや副業・兼業の広がりによって「都市に住みながら地方で仕事をする」可能性が高まりました。

こうした背景のもと、地域に新たな事業や人の流れを創出し、持続的に稼ぎを生む仕組みをつくることがもとめられています。ところが、地方には副業や新規事業を支援する仕組みがまだまだ不足しているのが現状。そこで、地域版のアクセラレーター(官民連携で事業を加速・育成する仕組み)が必要ではないか、というわけです。

都内だけでなく、地方だからこそ実証しやすい

さらに、地方には資源(空き家・農地・人材ネットワークなど)や助成金制度、自治体との距離の近さなど、イノベーションを小さく始めるための余地が豊富にあります。都市部で大掛かりにやるよりもリスクやコストを下げ、アイデアを実験しやすいメリットが大きいのです。

ポイント①まず心理的安全性のある場をつくる

地域あるある:“新しいアイデア”へのハードル

地域で新たな事業やプロジェクトを進めようとすると、「地域の文化を知らない人が勝手を言うな」「昔からのやり方を乱さないでほしい」など、ネガティブな反応に直面しがちです。もちろん、外部の人材が地域を否定するような態度では協力を得られなくて当然ですし、コミュニティにもそれぞれの歴史や価値観があります。

しかし、よい意味で受け入れられている地域では、最初に丁寧に“関係構築”をしてくれたり、「こういう思いでやっているんだよ」と地域のほうからオンボーディングをしてくれることが多いです。外部の人からすれば、「新しい提案をしても大丈夫そうだ」と感じられる心理的安全性が生まれ、チャレンジングなアイデアが出てきやすくなります。

地域へのリスペクトと、受け入れる側の柔軟性

  • もちろん、地域をまったくリスペクトしない無茶なアイデアにまで迎合する必要はありません。

  • ただし、地域側も「うちはこういう文化だから」と閉じこもるのでなく、「私たちはこんな文化・歴史を大事にしているから、そこを尊重してもらえれば新しいことにも前向きになれる」と積極的に伝えられる体制や座組をいかにつくるかが肝要。

  • 組織でいうところの「しっかりしたオンボーディングプロセス」があれば、新規参入者も動きやすくなります。

アクセラレーターの土台となる“多様な人材が参加できる場”を整えるには、この「心理的安全性」が欠かせません。

ポイント②キャリア安全性のある状態をつくっていく

ただ面白いだけでは続かない

心理的安全性があっても、「ちょっと面白かった」で終わる人は少なくありません。地域側もイベントやワークショップに人を呼び込むだけでは、長期的な定着や事業創出にはなかなか結びつかないのが現状です。

ここで大事なのが、「キャリア安全性」、すなわちその地域で中長期的に活動を続けられる“稼ぎ”やキャリア形成の仕組みです。

副業・複業のチャンスを増やす

今や都市部に勤めながら副業で地域に関わる人も増えています。地域内の中小企業や経営者、農業や観光といった一次産業の担い手とマッチングし、「月数万円でも稼げる枠」を複数つくることで、地域との関係を継続できるケースも増えています。

社会関係資本づくりの支援

とはいえ、お金だけではなく、人との繋がりも大事。地域のNPOやコミュニティ活動を通じて顔が見える関係を築くと、仕事の相談やコラボ企画も生まれやすくなります。社会関係資本づくりを支援することで、いざ起業するときや移住を検討するときに支え合う仲間が増えていくのです。

補助金・施設のサポート

さらに、行政や金融機関などと連携し、初期コストを抑えられる補助金情報や空き家・空き店舗といった施設の活用を手伝うことも重要。小さな実験を積み重ねるうえで、資金的・物理的ハードルを下げる取り組みが「キャリア安全性」を高めます。

「地域版 官民連携のアクセラレーター」という考え方

従来のアクセラレーターとの違い

アクセラレーターと聞くと、都市部でVC(ベンチャーキャピタル)が主導し、投資を受けたスタートアップが短期間で急成長を目指す――そんなイメージを持たれるかもしれません。確かに経済的指標を伸ばし、大きなリターンを狙うのはアクセラレーターの典型的な役割の一つです。

しかし、地方においては「急成長」だけが唯一のゴールではありません。地域の社会・文化的文脈を大事にしながら“ほどほど”の経済循環を生み、持続可能な仕組みを育てることがより重要だと考えられます。

官民連携で持続可能性をつくる

  • 社会性や文化へのリスペクト
    地域特有の歴史・文化資源をどう守り、活かしていくか。大規模チェーンが入って押し流すのではなく、地域内のステークホルダーが主体的に決定できるプロセスが重要です。

  • 経済的循環
    補助金や投資を受けるだけでなく、地域内外から“継続的にお金が回る”仕組みをつくる。たとえば観光や特産品のEC販売、サブスクリプション型の農産物・体験プログラムなど、さまざまな新規ビジネスが考えられます。

  • アクセラレーションの仕組み
    行政や地元企業・金融機関、NPO、大学などが連携し、起業や事業拡大の支援プログラムを設計。参加者が事業アイデアをブラッシュアップし、必要なリソースを得ながら実装していく道筋をガイドするのです。

おわりに

私自身、都内で本業を続けつつ、長野市や小布施町、檜原村などに出向くなかで、地域の方々と新しいプロジェクトを試みる機会が増えました。その過程で感じるのは、やはり「場」と「関係」がしっかりとつくられたうえで「キャリアの裏付け」を得られる状態があってこそ、人は長く活動を継続できるということです。

そして、それをさらに広げる仕組みとして、「地域版アクセラレーター」という官民連携の仕掛けが必要なのではないか――という提案を本記事でまとめました。

  • まずは心理的安全性を高め、人が自由にアイデアを試せる場をつくる。

  • そこにキャリア安全性を加えることで、経済面でも安心して挑戦を続けられる。

  • 官民連携のアクセラレーターとして「社会性や文化を尊重しつつ、持続可能な経済循環を生む」取り組みをサポートする。

この循環ができあがることで、地域と外部人材が互いに学び合い、豊かな関係が育ち、多様な働き方・生き方が広がっていくのではないでしょうか。私自身も引き続き、都心人材と地域の方々が混ざり合う対話の場に参加しながら、地域が人とアイデアのフロンティアとなるような未来を描き、つくっていく側になっていきたいと考えています。


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