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ファシリテーターは仮説をもつべきか?

ワークショップや会議の場で、ファシリテーターは「参加者の意見を引き出し、議論をまとめる存在」として認識されがちです。組織変革や新規事業立ち上げのような大きなテーマの場合、自由にアイデアを出せる場づくりは重要です。しかし、「盛り上がったけれど実行されない」というケースも少なくありません。

そこで最近私が試しているのが、ファシリテーター自身があらかじめ“仮説”を用意し、議論のたたき台とするアプローチです。一見すると「仮説=結論の押し付け」に思われるかもしれませんが、「背景や視点を明確化する」ことで中立性を保ちながら実行フェーズまでつなげることが可能になるのではないか、と考えています。

本noteでは、「ファシリテーターは仮説をもつべきか?」という問いに対する考え方を整理し、プロジェクト推進力を高めるための具体的な方法を考えてみたいと思います。


ファシリテーターの「ボトムアップ神話」

ファシリテーターが担う役割といえば「中立的な姿勢で場を回す」というイメージが強いかもしれません。参加者の意見を引き出し、全員が納得できる方向性を探っていく――これは“ボトムアップ”型の意思決定を支援するうえで効果的です。

しかし、こと新規事業や組織変革のようなテーマになると、ボトムアップだけでは進まない場面も多いのが現実です。いくらアイデアが出ても、トップが「それを本当にやる」とコミットしなければ実行されにくく、逆にトップが一方的に決めれば現場が納得せず形骸化する恐れもあります。つまり、トップダウンとボトムアップの両面が噛み合わないと、アイデアが霧散してしまうのです。

仮説を持つ意義――アイデアを実行につなげるために

ワークショップで多くの意見を出すだけでは、当日だけ盛り上がって終わり、具体的な行動に結びつかないリスクがあります。そこで有効なのが、事前に「ある程度の方向性」を仮説としてまとめ、議論の“種”にすることです。たとえば

  • 「経営層が望むのは短期的な売上増より、長期的な収益モデルの変革なのでは?」

  • 「現場が実感している最大の課題は、意外にも顧客接点ではなく社内調整では?」

こうした仮説を提示すると、参加者は「ここは違う」「こうしたらもっと良い」と修正提案をしやすくなり、最終的にアクションプランに落とし込みやすくなります。仮説がベースにあるからこそ、絵に描いた餅で終わることなく、実行へ向けたブレない議論を展開できるのです。

「中立性」と「仮説提示」は両立する

ファシリテーターの中立性は「どこにも肩入れしない」「何も主張しない」という意味ではなく、「個人的な偏見や利害によって議論をねじ曲げない」ことを指します。

  • 仮説はあくまで“書き換え可能”な材料であり、最終的にその通りに誘導する必要はありません。

  • 「この仮説は、○○のデータや視点をもとにした一つの可能性です」と背景を開示すれば、参加者は自由に検証や反論ができるようになります。

つまり、結論を押し付けるのではなく、たたき台としての仮説を提示し、参加者が違和感を表明しやすい雰囲気をつくることが重要なのです。

背景・視点の開示がカギになる

「なぜその仮説に至ったのか?」を明示することで、中立性をより強固に保ちつつ合意形成をスムーズにできます。たとえば:

  • トップへのヒアリングや現場インタビューなどの情報ソース

  • 過去の売上データや顧客調査などの客観的データ

  • 「経営視点」「マーケット視点」「社内プロセス視点」などステークホルダーごとの視点

これらを丁寧に示すと、参加者は「なるほど、だからこの仮説が立てられたのか」と納得しやすくなり、仮説の土台を一緒に検証・修正していけます。結果として“強引な誘導”ではなく“客観的情報をもとにした共創”が行われるわけです。

トップダウンとボトムアップをつなぐ仮説作り

組織変革や新規事業では「トップのビジョン」と「現場の課題」が噛み合わないまま進めようとすると失敗しがちです。そこで、両者をヒアリングした上で統合仮説を用意するのがファシリテーターの腕の見せどころになります。

  1. トップの意図や指標を把握

    • 経営層がどこに危機感を抱き、何をゴールとして考えているかを聞く。

  2. 現場のリアリティを収集

    • 実際に業務を担当している人たちにヒアリングし、現場ならではの課題や顧客の声を拾う。

  3. 両方を踏まえた仮説を構築

    • 「この問題解決にはトップの投資判断が必要」とか「現場が納得するには○○の仕組みを変える必要がある」といった形で、折衷案を提示する。

このプロセスを経た仮説は、双方のニーズをバランス良く反映しているため、後のワークショップで議論・合意形成が起こりやすいのです。

プロジェクトマネジメントを加速させる

仮説ベースの議論で合意形成が進むと、誰が何をいつまでに実行するかというステップに素早く移れます。明確な仮説と合意があるため、後から「やっぱりやめよう」「本当に優先度が高いのか?」とブレるリスクが減るのです。

  • 関係者を巻き込みやすい:トップも現場も、初期段階から「こういう背景で導き出された仮説」という認識を共有しているため協力を得やすい。

  • 調整コストが下がる:最初に必要なデータやステークホルダーを洗い出しておくことで、途中での方向転換や対立を最小限に抑えられる。

結果として、実行フェーズがスムーズになるだけでなく、プロジェクトの成果物の質も高まりやすいというメリットがあります。

まとめ――ファシリテーターが“仮説”をもつ在り方

「ファシリテーターは中立であるべき」という従来のイメージは、しばしば「何も主張しないこと」と混同されがちです。しかし実際には、“現場と経営層をつなぎ、合意形成を促進する”ための媒介として、仮説を提示することが有効と考えます。

あらかじめ仮説を持つ背景・視点を示すみんなで書き換える

というプロセスを丁寧に踏めば、「結論の押し付け」ではなく「納得感ある合意形成」を実現できます。

ワークショップで盛り上がったアイデアが実行に移されず終わってしまう状況を変えたいなら、ファシリテーター自らが“仮説”という種をまき、“情報と視点”という土壌を整え、参加者と共創していく姿勢を試してみてはいかがでしょうか。それが、従来の進行役を超えた、組織やプロジェクトの方向性をデザインする新しいファシリテーターの可能性と私は考えています。

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