【タイ|オンボロバス紀行①】ランパーンで食べた世界一のガパオライス
わたしは夫と二人でタイのバンコクに住んでいるのだが、今年(2024→2025)は年越しをする場所を決めていなかった。決めきれていなかった、という表現が正しいかもしれない。行きたい場所がありすぎた。
バンコクに留まろうかとか、ベトナムに行こうかとか、タイの北部に行こうかとか、いろいろ悩んでいる内にあっという間に正月休みの前日になってしまい、「やばい、このままでは年が明けてしまう」と、あわててチェンマイ行きの片道航空券だけ予約した。
ホテルも取っていなかったし、何日間の旅行になるかも決めていなかった。まあいいか。チェンマイからバスに乗って、面白そうな町をいくつか回ろう。そして、夫の仕事が始まる前にバンコクに戻ってこよう。わたしたちのルールはそれだけだった。
沢木耕太郎の『深夜特急』はわたしのバイブル的な作品なのだが、わたしがこの本が好きな理由は、彼のような旅はできないと分かっているからである。
お湯がでない安宿に泊まったり、オンボロの電車やバスで移動するのはへっちゃらなのだが(むしろ冒険感が出てわくわくする)、他の旅人と寝室をシェアするドミトリータイプのホステルに何泊もしたり、自炊しながらテントに暮らす生活は、わたしにはできない。バックパッカーとわたしの間には明確な境界があり、絶対に彼らの一員になれないからこそ、『深夜特急』や『怪しい探検隊』を、蚊帳の外から覗き見るのが新鮮で楽しいのだ。
しかし今回の旅では、バックパッカーたちに少しだけ近づけたのではないかと勝手に思っている。大冒険とまではいかないものの、バックパックを背負ってオンボロバスに乗り、行き当たりばったりの旅をしたのだから。
だから、いつもはPodcastで配信している旅行記を、今回は彼らのカルチャーである「紀行エッセイ」として発信したいと思い立ち、これを書いている。
「7泊分くらい持ってけば足りるよね?」と、下着、Tシャツ、靴下をバックパックに詰めた。ジーパンは1本勝負。
なーんにも決まっていなかったのに、不安は一切なかった。
1日目
2024年12月27日。バンコクのスワンナプーム空港は賑わっていた。実家に帰る人たちで溢れかえる年末の空港、好き。4月の東京駅も好き。
少し遅れて夜中のチェンマイ空港に着いたわたしたちは、Grab(配車アプリ)で直前に予約したホテルに向かい、すぐに眠りについた。飛行時間が短くても、飛行機は空港で時間を取られるし、やっぱりちょっと疲れてしまう。
2日目
朝のチェンマイ旧市街を散歩
チェンマイの朝は寒い。心地よい寒さ。20度くらいだった気がする。
(日本で暮らす人にとっては)12月にしては暖かいが、バンコクとは10度くらいの差がある。長袖を持ってきてよかった!
ホテルが旧市街のエリアだったので、朝の散歩をしながらお寺を見て回ることにした。
夫と「ランニングに最高な環境だね」と話していたら、ちょうどランニンググループがお寺に入ってきた。
タイ人と外国人がごちゃまぜになったグループは、お寺に入るなり走りを止めた。タイ語と英語で話し始めた彼らを横目に、「こんな人生もいいな」と安直に思うなどした。
名物カオソーイ
朝ごはんは、有名なカオソーイ屋さん「カオソーイ メーサイ」へ。2023年に来た時は並んでいなかったのに、外には人だかりができていた。
なんとなく最後尾っぽい人の後ろに並んでみたら、前にいた韓国人ファミリーのアボジ(お父さん)が「並ぶんじゃなくて呼び出しベル(日本のフードコートとかで渡されるアレ)をもらうシステムだよ」と教えてくれた。やさしい……。教えてくれてなかったら、何十分もムダにするところだったよ!カムサハムニダ〜!
意外と進みは早く、すぐにベルが鳴り、注文をすませると速やかに料理が運ばれてきた。すると今度は隣に座っていた別の親子に、付け合わせを入れて食べるんだよ、とカオソーイの食べ方を教えてもらった。みんなに助けられ、無事にカオソーイを食べ終えたわたしたちは、次の目的地に向かうためバスターミナルに急いだ。
バスでランパーンへ
ターミナルのインフォメーションで、「อยากไปลำปางค่ะ(ランパーンに行きたいです)」と伝えると、発着場所の番号を教えてくれた。
わたしのタイ語は4級レベル(11月に合格したばかり)なので、会話はちんぷんかんぷんなのだが、知っている単語をなんとか繋ぎ合わせて生き延びることはできる。勉強したことがこうやって実践に活かせるのって、めちゃくちゃエキサイティングだ。
10分後に出るよ!と言われて急いでチケットを買い、バスに乗り込んだ。
もう2席並んでは空いておらず、夫と別々に座ることに。大人しそうな女性に「นั่งตรงนี้ได้ไหมคะ?(ここに座っても良いですか?)」と声をかけ、隣に座らせてもらった。マスクをしていたが、彼女の目は優しく笑っていた。「微笑みの国」の異名通り、タイは本当に人が温かい。
わたしの前後には、欧米人のバックパッカーが座っていた。特にヨーロッパ人、中でもドイツ人は本当に旅行好きだとつくづく思う。どこの国に行っても、ドイツ語が聞こえてくる。
さて、わたしたちの向かう先は「ランパーン」。ここでわたしたちは飛行機に乗る。
ついさっき「バックパッカーに近い旅行」と豪語していたくせに、早速金に物を言わせて飛行機を使おうとしているじゃないか、とお思いだろうか。ギクッ。
少々ややこしい話になるのだが、言い訳を聞いて欲しい。まず、わたしたちは今回の旅で「チェンカーン」という町に行きたいと考えていた。
さて、この「チェンカーン」という町には、「第二のパーイ」という別名がある。ではチェンカーンにいく前に、第一の(というか、本物の)「パーイ」に行っておきたいよね、という話になった。
そしてこの「パーイ」に行くならセットで行きたいと言われているのが「メーホンソン」という町で、チェンマイ→パーイ→メーホンソンの順にバスを乗り継いで訪れようと考えていた。
しかしここで立ちはだかるのが、通称「ゲロの道」と言われる山道だ。この3つの町を繋ぐのは、山を無理やり切り開いて作ったグネグネ道で、なんと1864個(!)もの「ヘアピンカーブ」があり、旅人は皆ここでバス酔いしてしまう。万が一自分が吐かなくても、バス内で他の乗客が吐く。地獄絵図である。そんなわけで「ゲロの道」と呼ばれている。
わたしはこの「ゲロの道」にめちゃくちゃビビっていた。正直ちょっぴり行きたくないとすら思った。
では陸路以外でこれらの町へ行く方法はあるのかというと、パーイはないけどメーホンソンはある。メーホンソンには空港があり、まさに今わたしたちが目指している「ランパーン」から飛行機が出ている。
震え上がるわたしを見て、夫が「じゃあメーホンソンは空路で行ってやろう」と折れてくれて、バスで行く何倍もお金がかかるのだけど、前日の夜に飛行機を予約してくれたのだ。そう、これがわたしがバックパッカーになりきれない所以である。
どっちにしろパーイに行くためには「ゲ◯の道」を通るのだが、「ゲ◯の道」に挑む回数が半分になると思うとだいぶ気持ちが楽だった。
という訳で、ビビり散らしたわたしは金と文明の力を借り、メーホンソンに向かうためランパーン空港を目指したのである。
ランパーンの町並み
ランパーンに到着したわたしたちは、飛行機が出るまで少し時間があるので、町を散策することにした。
タイの食器に、ニワトリの絵が描かれているのを見たことがあるだろうか。あれはここランパーン県の名産らしい。町にも、至る所にニワトリの絵や像が立っている。
ではなぜランパーンでニワトリが有名なのかというと、
ということなのだそうだ。
「むかし町に敵が攻めてきた時にニワトリが鳴いて住民を守った」、とかかと思っていたら、予想外の伝説だった。「お釈迦様が来るのに起きれなかったらどうしよう」って心配するの可愛いな……。お釈迦様が来るなんてウルトラビックイベント、起きれないわけないだろ……。っていうか起きれないと思うならもう寝るなよ!!!というツッコミは置いておいて、とにかくこの町ではニワトリが崇められている。
カオソーイ再び
ランパーンの古い町並みの一角に、評判の良いカオソーイ屋さんを発見したので行ってみることにした。
もうここでは英語はほとんど通じない。どこで注文してどこで受け取るのか、システムが全くわからずおろおろしていると、お店のお兄さんがニコニコで席に案内してくれた。ありがとう!!
カタコトのタイ語でビーフカオソーイとチキンカオソーイを注文する。一杯50バーツ(227円くらい)。
クリーミーなスープは濃厚でとっても美味しい。だけど流石北部。辛い!!
すかさずコーラを追加注文。
世界一のガパオライス
カオソーイを食べている途中、スマホでランパーンの情報を漁っていた夫が手を止めた。「この町には、世界一になったガパオ炒めがあるらしい……。」
どうやら、2023年に行われた「ワールド・ガパオ・タイランド・グランプリ」で優勝したお店がランパーンにあるらしい。ワールドなのかタイランドなのかは曖昧なところだが、タイで一番美味しい=世界で一番美味しい、という理屈なのだろう。
タイのローカル食堂は基本的に一人前の量が少ない。カオソーイを食べ終えた夫とわたしは「まだ行けるよね?」と顔を見合わせ、件のガパオのお店に向かうことにした。ガパオ専門店という訳ではなく、ステーキなどの肉料理のお店のようだ。
流石チャンピオン。到着すると、テーブルはいっぱい。ここからは飛行機の時間との勝負だ。
番号札を受け取り、メニューを見て注文する料理を選ぶ。「あと何分で呼ばれなかったら諦めよう」と覚悟を決めた最中、わたしたちの番号が呼ばれた。ガッツポーズ。
どうやらこのお店には「ガパオライス」というメニューはなく、「ガパオ炒め」を別注文の白飯と目玉焼きに自らドッキングさせ、各々でガパオライスを生成するというスタイルを取っているらしい。
牛肉のガパオ炒め、白ごはん、目玉焼き。加えて、お店の人におすすめされたブリスケットのナンプラー炒めと、「絶対に美味しいだろう」と踏んだガーリックビーフチャーハンを注文した。
ぐああああああああ
うまああああああああああいいいいい
おいしい。おいしい。間違いなく今まで食べたガパオライスの中で一番美味しい。ニンニクに頼っていない素材の美味しさと、ちょうど良いソースの塩加減。最高だ!!!!!!!!!!!
で、おすすめしてもらったブリスケットのナンプラー炒めもめちゃくちゃうまい。なんこれ。
ガーリックビーフチャーハンはもう、言うまでもなくうまいよね。
無事に時間内に二度目のランチを食べ終えたわたしたちは、パンパンにふくれたお腹を押さえながら空港へ急ぐのだった。
【つづく】