AI:ソムニウムファイル ニルヴァーナ イニシアチブ 感想
2022年11月23日にぷらいべったーに投稿した感想の再掲です。ちょっとだけ整理してますが内容は同じです。
文頭からいきなり核心までネタバレしてるし前作の話もそれなりにしてます。
物語考察
〈あなたが、わたしのAIを引き裂いた〉
ハーフボディ連続殺人事件とは、愛を引き裂かれた者が復讐としてその相手の愛を引き裂いた事件だった、んだろうと思う。ニルヴァーナ構想の目的は全人類の解脱でありHB事件はあくまでその過程でしかないけど、構想自体は元から考えてたらしいとはいえ発端となったのは憎しみにかられた閏による突発的な迅への暴力。閏にとって、迅は自分の体の半分を奪いママの愛を独占する相手であり、法螺鳥はそれを計画した相手で、結局その二人を計画遂行のパーツとして使った理由は閏の私怨だと思うので。解脱しようとしてたのは本気だったんだろうけどそれはそれとして。というかそもそも閏がNAIXの思想に傾倒したのも愛に飢えてだったわけだし。
そう、口では大層なこと言ってるけど結局閏の本質は愛に飢えた子供だったんだろうなと。幼い頃から監禁されてごく限られた相手としか関わってこなかったせいで、膨大な知識はあっても社会経験はほぼ皆無だし情緒の発達もだいぶ偏ってるんじゃなかろうか。だったらそりゃまあ至近距離で対面した可愛いJKに一目惚れしたり勝手に運命の人呼ばわりしたりそっから六年間一切関わりなかったのにいきなり自室に招いてぼくのかんがえたさいきょうの計画ドヤ顔で自慢したりするのも仕方な……いや……まあ……うん……。
で、そんな閏が向けてきた愛を、大切な父を殺された亜麻芽が体ごと引き裂いたと。閏は上述のようにガワは大人でも中身は未熟というかなんというかな上に本気でシミュレーション仮説を信じてるので、いきなり殺人者からそんなこと言われても良くてドン引きされるだけだろという発想に至らなかったのはまあ仕方ないのかもしれんが。龍木をタマで脅した辺り他人の心がわからないわけじゃないだろうに。それだけ浮かれてたということだろうか。ただこの、地頭良くて行動力もあって壮大な思想を掲げて大仰な計画を展開する殺人者が、どこにでもいる普通の少女に初めての恋をして、でもその相手からは自分の行いのせいで憎まれてて、無計画かつ衝動的な情動で殺された、というのが……個人的にはかなりヘキに刺さる。最後に物を言うのは心からの執念ってことなのかもな。繰り返すけど閏が本気だったのは間違いないけど、解脱そのものがしたかったというよりはただ時雨に、誰かに自分を見てほしかった、愛してほしかったという承認欲求が根っこにあったのではなかろうか。本人は無意識だっただろうけど。その辺がガチで悟りを開いてた時雨との違いだったんだろう。
その時雨に関しては正直どう読み解くべきか未だに考えがまとまらないでいる。言うなれば本作はゲーム丸ごと全て時雨がフレイヤーに仕掛けた罠、というと語弊があるけど時雨一人が解脱するための手段だったわけだけど。
時雨が引き裂いたのはあの世界そのものだった、とは思う。ただそれが時雨の復讐だったのか?と言われればそういうわけではない、とも思う。時雨が抱いた愛といえば息子である迅へのそれだけど、その迅を殺す計画に加担してる辺り今の時雨はもう「あの」世界に一切興味がないんだろう。それを踏まえれば時雨の愛を引き裂いたのは時雨自身だったんじゃないかなあ、と。時雨は自分の抱える愛に振り回された末に自殺未遂を起こして、その結果本人が言うところの天啓を得て無我の境地に至り、自分自身の命すら利用して目的を遂げた。でもそこまでして解脱して彼女はどうしたいのか?が明かされてないのが……いやまあ偽物ではなく本物の世界で生きるべき、というのは何度も言われてるけどその後具体的にどうするんだというのは語られてないし別に外の世界に行ったからといって一切苦しみのない人生を送れる保証はないだろと。それは果たして下道に手を染めてでも救おうとした息子に悲惨な死に方をさせてまでやるべきことだったのか?と凡人はつい思ってしまうわけで。
個人的な本作の解釈は以上のような感じなのだけれど。ただ正直……物語構成の秀逸さでいえば前作に軍配が上がるかなあ……とまあこれもあくまで個人的な感想ではあるんだけど。伊達さんの記憶喪失、奪われた被害者の目玉、Psync装置のメカニズムと隠されたデメリットそして行方不明の試作型Psync装置、イリスの出生と病気、瞳さんの腕、何故か常にちらつく世島の影、みずきの隠し事、かつて裏社会で起きたことetc. それら作中にばらまかれた全ての要素が事件の真相そして「殺したのはAIが欲しかったから」という言葉に収束していくあの快感は……今作では感じられなかったかな。そもそも構成の手法が違ってるから一概に比較できるものでもないんだけども。ただ詳細は後述するけど今作結構シナリオ上の未回収要素が多くてそういう意味でもちょっと消化不良だったんだ。まあでもそれは次回作を見越しての布石という可能性もあるわけだが。
〈人魚姫のif〉
グランドエンディング見ながらふともしかして裏テーマだったんじゃないかと思ったのが絆と亜麻芽の対比。現在時間のエンド分岐であるライ絆編と厳亜麻編の後味落差エグいなとは回収時にも思ってたんだけど、真相を踏まえて二人の歩みを思い返せば色々と対になってたのかもなと。家族と愛し合ってるのは共通してるけど、母と死別し厳しい父のもと裕福な環境で育った絆と、両親が離婚して母についていき金銭的には厳しい生活を送る亜麻芽。愛に生きると決めて幸せを得た絆と、愛故に苦しみ罪を犯した亜麻芽。
こう言ってはなんだけど絆は「王子様に迎えにきてほしい」という夢からもわかるように結構受け身というか待ちの姿勢で、その夢が破れてからは「自分はふさわしくない」とライアンの想いから逃げていたと言えなくもない。魔法が解けて城から逃げ出したシンデレラのように。でも最終的には、自分を必死に追いかけてきてくれた王子様と共に踊るハッピーエンドを迎えた。
でも亜麻芽のもとには苦しみから都合よく救い出してくれる王子様なんて現れなかった。亜麻芽はたとえ何かを切り捨ててでも自分の生き方を選択できる決断力と行動力を持っていた。それまでの日常と声を捨ててでも陸に上がろうとした人魚姫のように。ただ王子を殺すことを拒んで泡となった人魚姫と違って、亜麻芽は王子様面して現れて望まない救いの道に手を引っ張ろうとしてきた男を殺して、罪を抱えて生きていく道を選んだ。
厳は亜麻芽の王子様にはなれなかったんだよな。なる資格は自分にはないと思っていたから。だから彼女から助けを求められた時にはもうその罪を共有する道しか残されていなかったと。厳は亜麻芽に救われて亜麻芽を愛した。もしその気持ちをちゃんと伝えられていれば、陸に上がった人魚姫に気付いた王子様になれていれば。もしかしたら亜麻芽を陸に引き止めることができていたかもしれない。その心をメンタルロックにまみれた海の底に沈めることなく。
感想
〈良かった点〉
・キャラが魅力的
まずタマが可愛い。何はなくともタマが可愛い。これはマジで声を大にして言っておきたいタマがどちゃくそ可愛い。あんなセクシーお姉さんでドS女王様キャラで下ネタ三昧なのにソムニウムパートでは(毎度何故かテンションがおかしい)龍木に振り回されたりツッコミ入れたり悲鳴上げたりほんと可愛い。性格キツそうに見えるけどその実龍木のことが大好きでいつも心配しててめちゃめちゃ健気ないい子だった。最初龍木編始めた時はアイボゥいないと寂しいなぁと思ってたけどいざみずき編に戻ってきた頃にはタマに会いたくて仕方なかった。
そして龍木。正義感強い好青年だけどどこか歪んでて危うくていつも必死に生きてて、伊達さんともみずきとも違うタイプのとてもいい主人公だったと思う。裏切った件について思う所ある人はもちろんいるだろうけど、個人的には彼にはあの選択肢しかなかったよねと思ってる。まあこれもしかすると前作ラストでアイボゥを犠牲にして事件を解決することを選んだ伊達さんとの対比なのかもしれないけど(あれは瞳さんの命もかかってたというのもあるが)。アイボゥも言ってたように、天涯孤独で精神不安定な龍木にとってはタマが心の支えであり拠り所でこの世で一番大切な存在だったんだろうなと。
新キャラで言えば絆っちとライアンめっちゃ好きですね。絆っちは初登場時のあの異様に古風な喋り方で吹いた骸て。あんな奇抜な帽子とカバンつけてるのに。ライアンは最初とんだストーカー野郎でやべぇなと思ったし受け入れちゃう絆っちも絆っちだと思ってたけど、いつの間にかすごく応援したい二人になってた。ライアンはちょっと馬鹿で純粋すぎるだけで、まっすぐで一途で優しいいい奴なんだよな。まあ付き纏ってたのはアウトだし発言内容は色々アレだけどよく考えたら手は一切出してなかったわけだからいっそ紳士と言えなくもない。少々かなりアプローチ方法に問題あっただけで。
もちろん続投キャラも言うまでもなく変わらぬ、いやさらに魅力が増しててよかった。アイボゥは相変わらず通常パートでのとぼけた発言もソムニウムパートでの大ボケっぷりも面白かったし、みずきは小生意気な中に影を背負ってた小学生時代から立派に成長して勝気で優しく芯の強い女子高生になってて感慨深かった。友人知人に恵まれてたというのは言うまでもなく、傍にはいられなかったんだとしても伊達さんの魂も受け継いでるんだなぁとね……。私は伊達さんとみずきの関係が大好きです。
そう伊達さんね。私はそもそも伊達さんが好きなんだ。伊達さんは相変わらずふざけた大人だったけど相変わらずかっこよかった。爆発編ラスト辺りのあれそれとかほんともう色んな意味で私の性癖に刺さる仕様で喜んでられる状況じゃないんだけどありがとうございますとしか言い様がない。最後にアイボゥを託すのとかね……でもあの辺の一連の記憶アイボゥの中には残ってないんだよな……(復旧したのはネエネに入ってた時のことだけってことは)。あと前作では出てなかった先輩としての姿が見られてよかった。というか龍木の中で伊達さんの存在がデカすぎるなんだよ好きなもの:伊達さんって。そりゃタマもツッコミ入れたくなるわ。龍木ソムニウムB分岐が完全に伊達さんとの思い出を辿る旅路だったのもびびったけど終盤で龍木を奮起させる役が伊達さんだったのはもっとびびった。いやまぁそりゃ状況とか登場人物の関係性とか立場とかを鑑みればあそこで龍木に響くのは伊達さんの言葉だけだろうけど。そこも含めて、伊達さんの新たな面というか第三者から見た姿を堪能できて嬉しかった。
キャラについて語りだすとキリがないな。ネエネも亜麻芽も厳ちゃんも祥磨くんも米治さんも、時雨もテアラァも法螺鳥も、イリスも応たんも猛馬さんも世島も受付嬢も、皆のことについて色々言いたいことは山程あるんだけども。
・惹き込まれるシナリオ
改めて言うまでもないことだけど。
前作とは全く別の切り口から仕掛けられてきたというのもあって最後まで予想外の展開が続いて驚かされたし、ただ単に謎部分やトリックがすごいというだけじゃなくて、シナリオの中にたくさんのドラマが散りばめられててずっと物語に惹きつけられる。上述のようにキャラがいいというのも相まって彼ら彼女らはこれからどうなるんだ、というのが気になって次々読み進めたくなってしまう。
割と見当違いのこと考えながら読んでたというのもあってあのフローチャートの仕掛けには気持ちよく驚かせてもらった。プレイ中にちょいちょい引っかかってた細かい要素があれで一気に回収されたからな。ミステリーで感じた違和感は無視しちゃ駄目ですね……。改めて読み返すと至る所に伏線が散りばめられてるんだよね。一見ただの小ネタみたいな猛馬のパソコンのハッキングとか看護師と屋蓑の離婚とかも、実は時系列のズレを示唆する描写だし。ちゃんと考えれば気付けたはずなのに悔しいけど、考えるよりも目の前にある物語を楽しみたい気持ちととにかく先の展開を早く知りたい気持ちが強く喚起されてたと思えばまあ見事に罠にはめられてるなと。
コメディ要素も好きです。相変わらず細かい所にもネタが仕込まれてて笑わせてもらった。前作のオマージュがちょいちょい入ってきたのも嬉しかった一番ツボったのはカウンターの向こうにおっぱいが座っているの下り。相変わらず下ネタは多いけど(いやまあ前作よりは減ってるけど)個人的には元々そんなに嫌じゃないし、今回の下ネタ担当は主にタマなのでギャップもあって笑えた。
・拡張視覚パート
前作では現実世界での捜査は基本的にテキストだけで進行していく形だったのであんまりプレイしてる感はなかったんですよね。プレイヤーが何かする前に既に伊達さんとアイボゥは状況を理解して話を進めていくし。今回こうして遊びの要素が追加されたのはよかったと思う。あと再現映像撮影という形で「その時現場で何が起きたのか」をビジュアル化してくれたのも解りやすくてありがたかった。前作左ルートの沖浦さんの死体設置方法とか、丁寧に説明してくれるからまあ理解はできたんだけど、折角しっかりグラフィックあるゲーム媒体でやってるんだからやっぱり画として見せてほしいと思ってたし。
あとここにもいっぱいネタ仕込まれてて笑える。ただ難点は会話パターンが面白すぎるから全部読みたくなるけど実績取るためにはノーミスでやらないといけないということですが……。
しかもこれ主人公達のキャラモデルを全方向からじっくり見ることができる! これも地味に嬉しかった。前作では伊達さんの全身をゆっくり眺められるのは最後の逆Psync時だけ(そしてゆっくり眺めてられる状況ではない)だったのでちょっと物足りなかったんだ。競技場でとりあえずみずきを超ローアングルから見たことをここに白状します。しかもみずき編に関していえばこのキャラをよく見られるってこともひとつのヒントというか仕込みなんですよね何って伊達みずきは足に傷跡があるけど暮主みずきにはない。龍木編冒頭でわざわざ傷のことに言及してたのそういうことかよ! 最初みずき見た時にあっほんとだちゃんと傷跡ある〜って思ったのに! 代谷木公園でもみずき(大)のことジロジロ眺めてたくせに!! 何故気付かなかった自分!!
〈微妙だった点/引っかかった点〉
・システム/UI面
フローチャートあるとはいえ、セーブスロットがひとつしかない点とゲーム内メニューからロードができない点はちょっと不便だった。ピンポイントでこのタイミングに戻りたい、という時にいちいちトップに戻らないといけないのが面倒。
あとストーリー中でメニューとかログを開けないタイミングがちょいちょいあるんだよね。それだけだったらそこまで気にならなかったんだけどこれがかなり効いたのがクリア後に1からストーリー読み返してた時。マップ移動ある部分とかだと、内ひとつの場所のシナリオを読み終わった時にマップに戻れず勝手に次のシナリオに移ってしまうことがあり(全部ではないけどその基準もよくわからない)。そういう時って大体メニューが開けないからしばらくスキップしてからフローチャート開いて戻る……ということを繰り返さないといけなかったりした。面倒すぎるので途中からはフェードアウトの寸前にメニュー開いてフローチャートから飛ぶということをしてたけど……。
・操作性
前作でもそうだったけど捜査パートで小さい物が死ぬほど選択し辛い。マジで見た目通りの当たり判定しかないしカーソル合わせるのも完全に手動なのでかなりしんどい。これがまあそれこそボスの部屋みたいな趣味レベルのオブジェクトだけだったらまだよかったんだけど、大聖堂の絆っちみたいにストーリー上調べることが必須のものでもクソ小さいことが割とあるので地味にイラッとするポイントになってしまっててだな。
カーソルといえば操作性とはちょっとズレるけど、会話イベント中とかでもカーソルが表示されっぱなしだったのはちょっと邪魔だなって思った。前作では消えてたはず。ただこれカーソルの色がみずき(アイボゥ)/龍木(タマ)/フレイヤーでそれぞれ違ってたので「これは誰視点」というのをわかりやすく表現するためのものだったのかもだけど。
あとソムニウムパートの上下移動……それそのものはギミックの幅が広がって面白かったとは思うんだけどいかんせん遠近感が全く掴めずそこに見えてるオブジェクトに一向に近付けないということが多々あり……私がヘタクソだっただけだろうか……。
・隠しメダマ
いくらなんでも隠しすぎである。前作より数が増えたぶん隠し方も手がこんでるというかなんというか。それはいいんだけどそもそもかなり近付かないと視認すらできないというのはちょっと勘弁してほしかった(前作では多少遠くからでも光ってるのが見えてたはず)。特に絆っちやライアンみたいな色彩の淡いマップだと近付いてすら気付かなかったりしたので……。流石に最後の数個は攻略サイトに頼った。何かしら物がある場所とかマップの隅とかに落ちてる分にはまだいいけど何もない上に位置的にも微妙な場所に何気にポツンと落ちてるみたいなやつは捜索手段がローラー作戦しかないっていうのはいくらおまけ要素とはいえ酷いと思うの。
・ダンスシーンが多い
いやわかる。どれも演出上外せないシーンだというのはわかる。六年前興奮した絆によるダンスからの六年後同じ場所で絆の足になったライアンによるダンスめっちゃ胸熱だった。だったがその歌今さっきソムニウムパートで聞いたばっかりっすとは正直ちょっと思った。とはいえそのソムニウムパートでのダンスもライアンにとっては重要な描写といえばそうなので多いからってどこを削ればよかったんですかと言われたらどこも削れないですねとしか言いようがないわけだが。
・ソムニウムパートのコンセプトの変更
という言い方が正しいのかわからないし私の意見は少数派だとは自覚した上であくまで個人の感想として書くんですけど。
前作におけるソムニウムパートの、どれを選んで何が起こるか予測がつかず時にはえっこの選択肢でそんなことになってしかも正解なの!!?と驚かされる破天荒さとか、TIMIEを活用し悪性TIMIEを上手く処理しなんとか時間内に収めるパズル的要素とか、個人的には割と楽しかったんですよ。前作最難関の廃工場とか何をどうやっても一秒残しできんのだが……って色々悩んだ末に上手くクリアできたりしてめっちゃ気持ちよかった。
ただその時間制限ノーヒント総当たりゲーがあんまり評判よくなかったらしいということはまあ聞いてるし色々改善された結果が今回のソムニウムパートなわけだけど。私自身は使わなかったけど難易度変更機能とかはよかったと思う。各ソムニウム世界の鍵則という形でヒントを出すのも対象者の精神性を掘り下げることもできて一石二鳥だった。ただなんというか肝心の選択肢が、(時雨やテアラァみたいな構成自体が謎解き要素強めのマップはともかく)どれが正解なのか一目瞭然でそれ以外は明らかにお遊び要素みたいなのが多くて、なんかやってて「前作のほうが楽しかったな……」と思ってしまった。アイボゥのはっちゃけっぷりも前の方が激しかった気がするし。
まあ繰り返すけどこれは個人的な好みかつ相対的な話なので。客観的な出来で言えば今作の方がいいと思う。
・PsyncerとAI-Ballの設定
私の記憶が正しければ前作ではAI-Ballは伊達さんに合わせて開発されたものでPsyncer全員が目玉くり抜かないといけないとは言われてなかった……はず。伊達さん以外の面子については存在してるということ以外の詳細一切触れられてなかったからわからんけど。でも少なくともただPsyncするだけだったらAI-Ball必須ではないわけだし。もちろん捜査に当たってはめちゃくちゃ便利ではあるけどそんなのABISのPsyncerに限った話じゃないし、ネエネやみずきみたいにそもそも目に問題あったってんならともかく健康な目玉をわざわざ摘出しないといけないっていくら超高性能AI手に入るっつったってブラックすぎん?とちょっと面食らってしまった。
・みずきの出生
いやまあ……怪力はイルカに育てられた祖父からの隔世遺伝設定が……流石にトンデモすぎると批判されてたのは知ってはいるんだが……同じように槍玉にあげられがちだったらしい伊達さんのエロ本ブーストにも曲がりなりにも科学的(?)な理屈が付けられてた辺りまあその辺のツッコミ所を解消しようとしたんだろうというのは察せられるし別にそれはいいんだけど……。
ただやっぱり、前作におけるみずきの心の傷とか、家庭のためにキャリアを捨てたのに我が子を愛せない硝子の苦悩や、仕事優先で育児を妻に丸投げしていた沖浦の咎っていうのは、彼らが血の繋がった実の親子だからこそより心にのしかかる描写だったんじゃないかとは思ってしまう。それでこそあの「家族の定義ってなんだと思う?」「血が繋がってるとか?」「それだと私と伊達は一生家族になれないね」からの「私とママとパパは最後まで家族になれなかった」というやり取りが重いし、そんな描写を経てからの血の繋がりを超えた絆を結んだ伊達さんとみずきの関係が尊かったんじゃないか、と。
だから正直な所、遺伝子操作云々はともかく、沖浦夫妻の養女だったっていうこの後付け設定に関しては未だに納得いってないですね。納得っていうか……ネエネのクローンだっていう点が本作の核心である以上はその設定自体は必須だとはわかってるけど心が受け入れられないっていうか……。そこを差し引いても自分達から養子に貰ったくせに無関心だわ虐待するわ育児放棄するわ挙句他人に預けるわって何がしたかったんだ?という感じだし。
・屋蓑と看護師の離婚
いやどうでもいいっちゃどうでもいい部分なんだけどもね!!? 前作エピローグで伊達さん達と一緒に「ウッッソだろなんだよその小ネタwww」と盛大に驚きつつ意味わからなすぎて笑った身としてはちょっと、事実上作中のギミックのためだけに離婚させられた挙げ句に屋蓑さんに至っては薬漬けからの収容所送りになっちゃったのがなんか寂しかったというか可哀想というか……。あと同じ理由で陳平さんが気の毒な役回りさせられてたのも切ない気持ちになった。前作で熊倉組行くたびに二人が当たり障りない感じで華(?)を添えてるのがなんか面白くて好きだったので……ほぼモブだった所からちゃんと作中の役回りを与えられたポジションになったというのは喜ばしくはあるのかもしれないけど複雑なんだよ……。
〈疑問点/消化不良点〉
・龍木の弟
正直これが今作最大の拍子抜けポイント。現在の龍木を形成する核といえる存在なのに、今回の事件にあたっては「龍木の失われた半身」という概念以外の意味がないというのがちょっともったいない。というか今作の諸々は大雑把に言うと法螺研を中心として展開されてる中で、龍木は特にそことは個人的な因縁がないっていうのがいまいち影薄い原因のひとつかもしれないな。まあ弟のことに関しては次回作あるとすれば取り上げられるのかもしれないが。
・反転Psync
意味深に出てきた割にその後一切触れられなかったのでちょっとモヤっている。マジでステージギミックとしてだけの役割で特にストーリーや設定的には意味無かったってこと? まあ前作で伊達さんがPsyncされた時に意識あった(?)のも謎っちゃ謎だったのでそんなに気にするほどのことでもないのかもしれんが。次回作あるとすれば取り上げ(ry
・テアラァは何故伊達を殺さなかったのか
龍木をけしかけたり大聖堂爆破したりとだいぶ過激に殺しにかかってる割にいざ捕まえたら生かしたまま監禁って意味がわからん。結局そのせいで逃げられてるし。作中でもなんですぐ殺されなかったんだろうって言及してる割にその疑問は解消されなかったし(その時点で本人死んでるから解消しようがないわけだが)。そもそもあんな手の込んだ真似までして伊達さんを排除しようとしたのが何故なのかって部分が実はそんなに具体的に語られていないという。禁断の領域ってなんぞや。前作で別ルートの記憶引き継いだりしてた件だろうか。次回作あるとすれば(ry
・ABISへの疑念
厳亜麻ルート最大の宿題と言っても過言ではないのがこれ。何よりも伊達さんがすぐに戻ってこなかった理由ということでストーリー全体から見ても重要な事項のはずなのに、結局宙に浮いたまま終わっちゃったな。龍木を警戒してたというのもあるんだろうけどそれだけとも思えないしSATけしかけた件についても実質放置だったし。いやそりゃ今更ボスに裏切られても困るわけだが。というかボスが裏切るはずないと思うからこそちゃんと説明が欲しかったんだけど。
・古衛の顔について
顔が左右で違うのはまあいいとして(よくはない)病院関係者は古衛の元の顔知ってるはずでは? 古衛として出回ってる写真が明らかに別人の顔なのに、看護師がそこに一切触れなかったのがめちゃくちゃ違和感。元の知り合いとかには「病気の治療で顔を移植した」くらいのことは伝えてた(ただし半分だけとは言ってない)って所だろうか。いやだとしても少しでも手がかりがほしいっつってる警察に昔と顔が変わってるなんて重要事項を欠片も開示しないのはどっちにしろ変だけど……。
・龍木と動画
結局龍木が動画でバグった理由はフレイヤーの干渉を強く受けてる人間だったから(+元々精神不安定だったから)ってことでいいんだろうか。まあそれならそれでいいんだけどじゃあなんでニルヴァーナXだけは平気だったのかってのがよくわからんままなのがな。なんか今作こういう意味深に小出しされたまま特に回収されず終わった要素結構多くてなんだかなぁ。
あとそれこそ、ああして龍木が度々バグるのがフレイヤーの影響が大きいせいだっていうなら、その辺を回収する裏ルートである異章をもうちょっと丁寧にやってほしかった所ではある。いやまあ時雨的にはあれ以上語ることもないだろうしあんまり長々やってもそれはそれでダレそうではあるんだけども。
・ダリア・ボート
これも意味深に出てきた割に特に回収されずに終わったなポイントの一角。フレイヤーと龍木の繋がりを示唆する描写の一つだったってことだろうけど(これ入力した時もバグったし)この言葉自体には特に作中の、というか「あの世界の中」においての意味はなかったっぽいのでずっこけてしまった。なんか聞くところによると実在の事件から取ってる説とかJaldabaothのアナグラム説とかあるらしいけどどっちにしてもメタ的な話なのでね。なんでテアラァが「真の名前」としてそれを言ったんだだって結局テアラァの本名は染月閏だったじゃん、と。フレイヤーを利用しにかかってたのは閏ではなくあくまで時雨だというのが私の解釈なんだけど、それに則るなら時雨の指示だったとか?
〈複雑な点〉
面白かった。
夢中になってプレイした。
そりゃ上述のように不満点はあったけど総合的にはめちゃくちゃ楽しめた。
伊達さんやアイボゥやみずき達の物語の続きを見られて、龍木とタマを始めとする新しいキャラクター達に出会えて嬉しかった。
このゲームやって本当によかった。世に出して下さった制作者の皆さんに心から感謝する。
ただ、その一方で、偽らざる本音を言うとすれば、
伊達さんとアイボゥにはずっと唯一無二の相棒でいてほしかったし、
みずきには伊達さんの養女として穏やかに暮らしていてほしかったし、
「あのマーメイドの子」にはいい骨盤しててオカルト好きでちょっとしたたかでイリスやみずきのマブダチである極一般的なバイト店員でいてほしかった。
言ってもどうしようもないことではある。地続きの続編として出す以上は当然新たな問題に立ち向かっていくことになるわけだし、新主人公は出すにしても前作ソムニウムパートの顔だったアイボゥをメインから外すわけにはいかない、かといって伊達さんをそのまま主人公に据え置きにすればやっぱりそのタッグの存在感が強すぎるからああいう形にならざるを得ないというのはわかっている。麻芽ちゃんにしたって前作では折角キャラデザ良いしパッケージにもいたのに作中ではほぼモブだった所から今作で人となりが掘り下げられて、まあ役回りはあまりにも可哀想だったけど悪いことばかりではなかったと思う。だからこれは個人的なわがままなんです。
なんというか……私自身は前作やってからそこまで間が空いてないというのもあって、ちょっと前作の印象が強すぎる状態でプレイしてしまったというのはある。特に伊達さんのことが好きすぎて、伊達さんとアイボゥの絆への思い入れが強烈すぎて、もちろん今回のみずきとアイボゥのコンビも楽しかったんだけどどうしても複雑な気持ちになって仕方がなかった。なんか……なんだろう……身も蓋もない喩えをするとNTR展開を見たかのような気分に……(笑)
というか真面目に今後の展開あるとすればこの二人+一体はどういう形に落ち着くんだろうか。異章の方では時々帰ってるって言ってたから基本的にはみずきと組みつつ随時伊達さんのサポートって感じなんだろうけど正史もそこに準じるのか? いやでも伊達さんも現役続けるならちゃんと一人に一体付けた方がよくないか? それでアイボゥはみずき専任になって伊達さんの方に新しいAIが配属されたら泣いてしまうが。
なんか不満点の文量の方が多くなっちゃったけど、がっつりプレイしたからこそ色々気になる点も出てきちゃっただけであって、繰り返すけど総合的にはほんとに面白かった。好みは別れるだろうけど是非色んな人にやってほしい作品です。