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バイバイ、ロレックス
友人Yと久しぶりに食事をした。
女優のような美貌とビジネス・マインドをあわせ持つタフなシングル・マザーだ。
その夜、Yはいつもより気が抜けた感じで「おや?」と思った。ここまで山越え谷越えな人生を歩いてきたことは知っていたけれど、その日はふわっとしていたんだよ。
Yがつらつらと近況を語り始めて合点がいった。同じ言語と文脈で語りあえるひとの存在に気づいたらしい。
過ごしてきた時間や環境は関係ない。日本語で話していても、まったく通じ合えなかったり、表面的な話で終始するひともいる中で、同じ言語を持って深く語りあえる相手と出会えることはそう多くない。
恋人というわけでもなく、ただ何時間も語りあうことで魂が響きあうような経験をしたYは、いつか娘に譲ろうと大切にしていたロレックスや高価なジュエリー類す・べ・て、売り払ったのだという。
しっかり収入があるので金策に困って、というわけではない。人に会う仕事なので装飾品にとても気を使っていたのに、時計は8,500円のもので充分、大層な宝石を身につける必要性も突然感じられなくなったらしい。ホテルのディナーより、思い切り掃除したあとに笑って食べる素麺がおいしい。そう言って彼女は笑った。
Yのふわっとした空気感の理由。
かっこいい。
その潔さに惚れ惚れした。
粋な人間は素直だ。
虚勢も見栄もない。
だから…ふわっとしている。
いい夜だったよ。
ありがとね。