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翻訳者のつぶやき なんで私が『臓器収奪ー消える人々』を... その22

前回から間があいてしまいましたが、今回も加害者に目を向けます。(...実に物騒な書籍の翻訳者になってしまいました。その経緯と本書の内容に関わる逸話や情報をお伝えできればと、ブログを書いています。)

歩く屍(しかばね)

【龍山での出来事】

第四章「雪」が迫害に対する法輪功の非暴力抵抗に焦点をあてているのとは対照的に、第五章「龍山での出来事」は、中国共産党(中共)側の加害者がハイライトされている。先回のブログで引用した郝鳳軍(ハオフェンジュン)のシーンは、この第五章の最後にあたる。加害者の苦悩の描写のおかげで、読み手は全体像を把握できる。

韓広生(ハン・グアンシェン)は、法輪功撲滅のために設置された六一〇弁公室が設置されてから、司法局に移動したにもかかわらず、労働教養施設の設置を命じられる。良心的な韓は、過酷な馬三家労働教養所とは異なるアプローチをとろうとするが、彼の意に反して15歳の少女が電気棒で拷問される。2001年、海外出張中にこの事件が明慧ネットに掲載されたことで、亡命へと至る。(明慧ネットとは法輪功修煉者用のサイト。この中の「迫害体験」の記事を『消える人々』の著者ガットマン氏は高く評価している。中国大陸の修煉者がここに投稿するだけでも命懸けだ。)

【人間に帰る】

韓広生氏は、Who are China's Walking Dead?[仮題:中国の歩く屍は誰?]という著書の第十二章でも大きく取り上げられている。こちらから英語(原著)のPDF版を簡単に購入できた。

著者のケイ・ルバチェック氏は、ブログの第二回でも紹介した「知られざる事実」の制作者。最近Finding Courage[仮題:勇気を見つけて]というドキュメンタリー映画をリリースしている。中共迫害による被害者家族の物語だが、1時間20分の映画の中で合計3分ほど、中共の元幹部の手短なコメントが次々に入る。中共の本質を垣間見せ、犠牲者家族の置かれている立場を明確にする貴重な挿入だ。この数分のために30名以上の亡命者にインタビューし、元中共幹部の本音の記録がWho are China's Walking Dead?(中国の歩く屍は誰?)と題する著書としてまとめられた。

ルバチェック氏は、9月22日にAmerican Thought Leaders(英語)でインタビューされている。番組には未公開の実際の映像(12分40秒くらいから)も含まれており、大変興味深い。日本語字幕付きが『中国の生ける屍』として10月29日にリリースされた。是非見て欲しい。

この「歩く屍」(行屍走肉)は、中共出身の面談者にとっては普通に使われている表現のようで、一人の元中共高官は、下記のように解説している。

あの環境は染め物瓶のようで、時間が経つにつれて、自分が変わる。徐々に本当の自分、魂、精神が失われる。死んでしまう。それが「歩く屍」です。

Who are China's Walking Dead? p.3(筆者拙訳)

中共の高官には自殺者が多いという。別の高官が「自分の良心が葛藤しており、普通の人間のように通常の生活が送れなくなるから」と説明する。「心が歪み、病的になり、常に大きなストレスの中で生きている。最終的に自殺が唯一の出口」ということだ。(Who are China's Walking Dead? p.159)

韓広生氏は、中共を信じる気持ちと自分の良心の葛藤の末、先の尖ったくさびで、中共と自分を完全に切り離した。韓氏は、贅沢の保証された地位、肩書きを捨て、欧米社会で配達員として新しい人生を歩み出した。お人好しの奴隷として扱われることのない「人間」となった。(Who are China's Walking Dead? p.128)

人間としての心を殺してロボットとなり、言われた通りにすることの先に待っているものは?
……中国国内だけの問題ではない。

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